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界遊記  作者: かえで
巨悪との確執

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ラン=サイディール禍の爪痕3 薔薇園のマユリ

 SMGのデイエン駐在特派員から情報を得たファルガたちは、薔薇城を一望できる最も近い宿を確保した。

 SMGを指す架空組織名……特派員のみが知る幾つかの名称……で既に予約が取られていた宿。宿泊料も支払われた後だった。

 ファルガたちと合流し情報交換をした、あのSMGの特派員達が、恐らく手配したのだろうが、その手際の良さにはファルガたちも感服した。流石は、世界を席巻した事のある組織の特派員たちだ。『フリー』と呼ばれる人間以外も敏腕ぞろいだ。特級だけが持てはやされがちだが、しっかりとした組織は、末端の構成員からしっかりしている物なのだと、二人は思い知らされる。

 ファルガたちは早い夕食を取ると、人々が寝静まる深夜まで仮眠を取り、日付が変わろうとする時間に活動を開始した。


 人々が寝静まった真夜中、ファルガとレーテは静かに宿を後にする。

 人目に触れたくなかった二人は、建物の屋根に上がった。『ラン=サイディール禍』以降、夜盗の類が頻発したが、それに対抗する為、生き残った人々は自警団を設立、深夜のデイエンを巡回していた。そんな彼らの目に留まったならば、ややこしいことになりそうなのが容易に推測できたからだ。

 城塞都市デイエンは、人々や物流の動線を管理する為に、環状線と放射線状の二種類の幹線が整備され、それらを基準にして建造物が建てられている。

 元々のデイエン都市計画では、外城壁の外にも街並みを広げていくつもりだった、とレベセスから聞いたことはあったが、そもそものベニーバの遷都の目的から考えると、それも方便の気がしてならない。合法違法問わず入手した他のサイディール一族の資産と、新しい時代の幕開けを予感した人々の情熱を糧に、肥大した私利私欲を満たそうとしていた男の言葉を誰が信じられようか。

 内城壁と外城壁に挟まれた建造物群は、どれもこれもが似た形状をしていた。急な成長を見せた都市だが、そこにはサイディール家の資本がだいぶ入っているだろうことは容易に想像できた。城と同時に街並みそのものも美しく配列することで、観光客による収益も視野に入れていたのだろう。画一的な建造物にすることで景観をよくしようとした都市設計者の努力が伺い知れようというものだ。

 そして、皮肉にもデイエンの住民は、その美しい景観を知らない。

 美しいと言われる街並みは、城の一室から見下ろした場合を基準に設計されており、街中で暮らす人々にとっては、整備された道路に沿って建つ、多少の圧迫感を与える無機質且つ幾何学的な建造物群に過ぎず、そこに美を感じることは中々難しいだろう。

 それでも放射線状の街道の遥か先に聳える薔薇城は、見る者に感動を与える壮大な眺めではあった。だが、それも『ラン=サイディール禍』の直前までの話。災いの後の現在の薔薇城は、いわば栄華の化石といった感じだった。

 雲一つない空には、いつもより些か巨大に見える月が真円を描いていた。寝静まった街からは光が完全に消えていたが、街が完全に闇に沈み込むことはなく、その強い月明りだけで十分に本を読むことができた。足元に自警団の持つランプの明かりを幾つか目撃したが、その明かりでは建造物の屋根を動くファルガたちを発見することは不可能だったようだ。何度か上空をランプの明かりで照らそうとした自警団の人間もいたが、その行為は徒労に終わった。

 ファルガとレーテは、屋根を伝いながら城へと近づく。太い環状線を超える時のみ、一度地面に降りた。

 いっそのこと≪天空翔≫で薔薇園に到達したかったが、どうやっても飛び始めと着地の瞬間は人目に触れざるを得ない。≪天空翔≫の術は、飛行時に大量の『氣』を消費するが、その大量のエネルギーが光となって、どうしても体の外に漏れ出てしまう。どれほどに『氣』を抑えてもちょうど聖剣の第一段階のように、光で体が縁取られてしまう。≪天空翔≫という飛行術は、隠密で行動するのに向いているとは言えなかった。

 建造物の屋根を伝って移動するファルガとレーテの眼前に、内城壁が姿を見せた。

 内城壁は、それまでの建造物に比べ、遥かに高さがある。飛び越えることはできるだろうが、その先に衛兵が巡回していたら目も当てられない。今までの隠密の行動が完全に無駄になってしまう。

 だが、≪索≫を這わせた結果、向こう側の庭園には誰もいないようだった。

 ファルガとレーテは大きく跳躍し、内城壁を飛び越えた瞬間に一瞬だけ≪天空翔≫を用い、着地する。

 少年と少女が、三年ぶりに薔薇城に潜入した瞬間だった。


 咲き乱れる薔薇の中、ファルガとレーテは歩く。

 かつて歩いた薔薇園。あの時と作りが同じなのかどうかはわからないが、あの時と同じ感覚が彼らを包む。

 落ち着く。しかし、以前とは違ってどこか物悲しい。

 美しく咲いてはいるものの、愛されて整えられた薔薇園、というよりはそれぞれの薔薇の花が何かを主張しようとして、一生懸命美しい花をつけている。いや、それどころか何とかして意識を自分の方に向けようと、無理をして咲き狂っている。

 そんな印象を受けた。

 三年前に訪れた時も、庭園内には今と同じように強烈な薔薇の香りが立ち昇っていた。そして、色とりどりの花が、あの時と同じように咲き誇っているに違いなかった。

 柔らかい月光は、周囲を別の色に染め上げる。

 それは薔薇の幾重にも重なる花弁の色に限らない。丸みを帯びた棘のある葉も白く輝き、涙ぐんでいるように見えた。

 通路に沿って歩みを進めるファルガとレーテ。

 あれほど強烈に感じた薔薇の感情が、今は何も伝わってこない。助けを求めていたのではなかったのか。あれだけの距離を経ても伝わってきていた薔薇の泣き声が、今はぴたりと止んでいる。

 いや、止んでいるというよりは、押し殺しているといった方が正しい。

 本当は大声をあげて泣きたいのだ。喉が張り裂ける程に慟哭したいに違いない。だが、その声を押し殺さざるを得ない。

 なぜか。

 自分たちの慟哭を、最も聞かせたくない相手が傍にいるからだ。

 ファルガたちの背丈以上に伸びた、薔薇の花と葉で作られた壁が突然切れた。

 その向こうには一人の女性が。

 ファルガとレーテは慌てて物陰に隠れる。

 おかしい。

 ≪索≫には誰の気配も引っかからなかった。

 だが、あそこには一人の女性がいる。≪索≫の精度が低いのかとも思ったが、周囲の様子はきちんと拾えていた。拾えなかったのは、眼前の女性だけだった。

 ファルガとレーテは物陰から女性の姿を伺う。

 次の瞬間、ファルガは雷に打たれたように直立し、身動きが取れなくなった。ファルガの様子を訝しんだレーテだったが、ファルガの視線の先の女性を見て、レーテも一瞬心を奪われる。

 美しい。

 そして妖艶だった。

 女性は薄いシルクの様なネグリジェを羽織っている。だが、そのネグリジェは月光に透かされ、女性の体のラインを完全に映し出していた。

 女性の虚ろな眼差し。艶めかしい唇。まるで情事を終えた直後のように上気した肌。微かに汗ばんでいるのか、月光を妖しく弾く。

 ファルガは、自分の身体がどうかなってしまったのではないかという感覚に苛まれた。

 頭が熱く、体の中心から激しい力が込み上げる。

 腹の底からの強い衝動が彼の身体を煽るが、その熱をどう発散してよいかわからずに、少年は悶えた。荒い息遣いと、激しい鼓動が鼓膜に響く。自分のものとは思えない程に遠くに聞こえたそれは、間違いなく少年自身のものだった。ただただ全身が熱くなり、心臓の鼓動が体全体を激しく揺さぶる。鼻の中がツンと痛くなり、視野の中心に黒い何かが現れ、周囲がぼやける気がした。

 レーテはファルガの尻を強く張った。幻惑されているのが分かったからだ。

「ファルガ、しっかりしなさい……!」

 不思議なほどに理性的であったレーテ。ファルガが動揺すればするほど、幻惑されればされるほど、レーテは自分が飲まれてはいけないと思った。

 レーテなりの必死の行動だったが、当然その行為は、眼前の女性の意識をこちらに向けた。

「……レーテ……?」

 女性は、何の確証もなく、かつて共に薔薇園の世話をした少女の名を呼んだ。

 一瞬返事を躊躇したが、薔薇園に一人で立ち尽くす女性の正体を声から悟ったレーテは、植え込みからゆっくりと姿を現しながら答えた。

 これ以上変に姿を隠して、人を呼ばれても厄介だと思ったからだ。

「はい。ご無沙汰しております。マユリ様」

 少し距離があるにも拘らず、月光を浴びながら女性が微笑んだのが分かった。

「全然会いに来てくれなかったのね。寂しかったわ。色々学校が忙しかったの?」

 マユリ=サイディール。

 第七代ラン=サイディール国王フジ=サイディールの実子にして、王位継承権第一位の王女。父であるフジが病気に倒れた時、その娘であるマユリは未成年であった為、フジの実弟であるベニーバが後見人として選ばれた。同時にテキイセ貴族であったベニーバは他の王位継承権のある者達を失脚させ、ラン=サイディール国初の女性国王としてマユリを即位させるまでの間、宰相として実権を握ることになった。

 そして、先王の実弟に因る治世を拒んだ一部のテキイセ貴族と対抗する為に、かつてのラン=サイディールとは違う事を明示化する意味も込め、ベニーバは些か強硬に遷都を実施し、国家の方針転換を画策した。

 今となっては、それすらも己の力を増大させる為に、聖剣入手のみを目的としていた事が明らかにされている。

 だが、古都テキイセから港町デイエンへの遷都という行動自体は、軍事国家として最強を誇りながら、何か閉塞感を覚えていた当時の国民たちにも、新たな可能性を明確に示すことができたとして、『英断の遷都』と呼ばれたものだった。

 違和感を覚える二人。

 何かが違う。

 かつてここを訪れ、現在この地にいる三人には、共通した話題があったはず。本来であれば、デイエンにいる誰しもが知るあの事件。誰しもが恐れおののき絶望した、あの出来事。

 その禍の後に、初めての邂逅を果たした者同士なら、まずはその話題が出てしかるべきだ。細かい内容はわからずとも、大勢の人間が死に、傷つき、虐げられた『ラン=サイディール禍』。

 当然、ファルガたちがあの事変をそう呼ぶことはない。後世の学者がそう名付けただけだ。だが、この事変は、経験した者全ての心に、深く大きな傷を残したはずだった。

 傷ついたのは、被害者だけではない。加害側も冷静になったその瞬間、罪悪感に苦しめられただろう。当時の緊張状態は、筆舌に尽くし難い。やらなければやられる。そして、やった側が反撃を恐れるあまり過剰にやりきり、数多くの命が失われた。

 そんなやり取りが、そこここで行なわれていた。

 それほどの事変。

 だが、第一王女マユリ=サイディールからは、その話題が一言も出なかった。

 隠している風もない。本当に知らないかの様な振る舞いだった。

「マ……、マユリ様は無事だったんですか……?」

 思わず眼前の女性に、わかり切ったことを訪ねてしまうファルガ。

 無事でなければ、今彼らの前にこの女性がいるはずがない。

 だが、思わずそう聞きたくなってしまう程に、女性の表情からは禍後の様子が全く伺えなかった。そして、ファルガの問いに対する反応も、まるで『ラン=サイディール禍』そのものを知らないといった風だった。

 困惑する二人。

 そもそも、一人の女性が、深夜人が寝静まった後の王城の薔薇園で、一人フラフラしていること自体が異常なことだ。

 人ならざる存在なのか?

 確かに侵入直前のファルガとレーテの≪索≫には反応がなかった。そう思い、ファルガとレーテが再度≪索≫を走らせたのは、ほぼ同じタイミングだった。

 だが、今度は二人の≪索≫は、きちんと王女マユリの反応を捉えていた。

 そんな二人の戸惑いを気にする風もなく、マユリはくるりと背を向け、少女のように走り去っていった。

「今日はもう遅いわ。明日王宮にいらしてね。お待ちしていますよ」

 恐ろしいほどに美しい笑顔で、そう言い残して。


「レーテはどう思う?」

 昨夜の薔薇園でのマユリとの邂逅について、ファルガは自らの頭の中の整理がつかないまま、レーテに質問を投げ掛けた。

 あの後、二人はそのまま宿に戻っていた。

 マユリを追いかけて詳しい話を聞く事も、その場に留まる事も憚られたからだ。ただ、昨日の邂逅だけは現実の事だった。

 それを確認する為に、ファルガはレーテの反応を待った。

 ベッドに腰かけたレーテは、ずっと天井を睨みつけたまま隣のベッドに横たわるファルガの方を向くが、暫くは沈黙したままだった。しばしの間の後、戸惑いながらも言葉を綴る。

「どう……って、あそこにマユリ様がいらっしゃったのは事実。

 そして、私たちに遊びに来るように仰って、そのまま城に戻られた……。

 それだけ。

 それだけの筈なのだけれど、凄くもやもやする。

 あの人は、マユリ様でありながら、マユリ様じゃない。そんな印象だったわ」

 ファルガは天井から目を離さない。だが、何か思い詰めたような表情をしている。

「あれは、本当にマユリ様なのか? 俺は、一度しか会ったことがない。けれど、以前会った時には、凄く生き生きしていたような気がする。

 けれど、昨日のマユリ様は、恐ろしく儚かった。まるで、近づいたら消え去ってしまいそうに。泡と表現するのが一番しっくり来たよ。

 それに、彼女だって三年前のあの混乱は体験している筈。

 それなのに、あの反応は普通じゃない。あの混乱について触れないようにしているというよりは、本当に何も知らないという感じだった。

 そんなことがあり得るのか?」

 思い返せばきりがない。

 まずは『ラン=サイディール禍』の発生を知らないと思われる事。そして、王城敷地内の薔薇園とはいえ、あの時間帯に第一王女がうろつくだろうか。格好も外に出る格好ではなかった。明確な個人の意思で活動しているとはとても思えなかった。

 そうはいったものの、もう一度薔薇城を訪れ、王女に謁見を申し出るわけにもいかない。

 これだけ政権が混沌としていれば、彼らが指名手配者であるという事さえ忘れ去られているだろう。政権の機能の実質消滅のおかげで、二人は他人の目を気にせずに歩けるのだが、それでも城に近づく事は難しい。

 人目もあるし、何より現在薔薇城に日中近づいただけで、デイエンの民から訝しがられる。その結果、騒がれたら目も当てられない。

 薔薇城は、デイエンの民からは完全に過去の遺物として見られている感があり、そこに近づく者はあまり歓迎されないだろう。

 それはまるで、昔話に出てくる禁足地のような印象だ。当初に感じた薔薇城に対する違和感は、間違っていなかったのだ。

 ファルガとレーテはもう一度仮眠をとった後、夜が明けてから、SMGのデイエンでの活動拠点に行き、話を聞いてみることにした。


「……マユリ=サイディールは存命だったのか」

 SMGのデイエン特派員との再会は容易だった。ファルガとレーテが特派員と最初の邂逅を果たした食事処に行くと、直ぐに相席で座席に通され、そこに腰かけると、既に彼らがいた。

「……流石は『フリー』だよな。我々ですら、デイエン城への潜入はそれなりの準備がいるというのに」

 そう口にするのは、前回の食事処で、気づかれないようにファルガの背後に立ったにも拘らず、一瞥もされずに席を勧められた男性特派員だった。

 あの時に、男性特派員の風体が印象に残らなかったのは、彼が頭に手拭いを巻き、上半身を黒い麻の長袖Tシャツ、下半身をニッカポッカのような裾の太いズボンを履いていたが、その周囲の席を埋め尽くす人々と同じような格好だったからだ。恐らく、そこにいた他の者達は、彼らの事を『同じ職場の仲間の誰かの知り合い』だと思いながら、食事をしていただろう。

 同様に、女性の特派員も、やはり同じような黒い麻の長袖Tシャツに袖を通し、下半身は細いパンツルックだったが、これも周囲の女性作業員群に同化する為の恰好だった。

 それほどの潜入技術と人の視線を避ける技術を持っていながら、先述の表現をする男性特派員には、ほんの僅かだがファルガに対する嫉妬が垣間見えるのだった。

「そういうな。お前の力はよくわかっているつもりだ」

 女性特派員が、男性の上司であることが、この発言ではっきりした。

 女性特派員は些か申し訳なさそうな表情をファルガとレーテに浮かべたが、当の二人はまったく気にしていない。

 彼らは、特派員たちを容姿ではほぼ判断せず、持っている『氣』で認識している。例え、数多くいる作業員のように風体を整えたとしても、そもそも個人を特定する判断基準が違うのだから、その正体が見破られたというよりは、そもそも隠せていないのだ。

 女性の特派員は言葉を続ける。

「マユリ=サイディール第一王女は、あの事変以後消息が不明だった。

 元々、そう表に出てくる御仁ではなかったが、本当に姿を見せなくなった。薔薇城におわす事は不確定情報ながら我々も持っていたが、その存在を確認できたのは、事変から三年も経って、今回が初めてだ」

 ファルガたちは、マユリと話した時の状況を事細かに説明する。

 何か圧倒的な力に制御され、自分の意志で行動しているようには見えなかったこと。そして、この国家を襲った様々な事変を、どうやら知らないらしいこと。

 洗脳とは違う様だったが、強いて言うなら、世間から隔絶されて育った温室育ちの令嬢といった感じだった。マユリという個人の境遇を考えるなら、それで全く正常だと言ってよいのだが、以前のマユリを知っているだけに、レーテにはその深窓の令嬢を彷彿とさせ、妖艶と表現すべきマユリがどうしても受け入れづらかった。

 今回、SMGの追っている神隠しの事件と、ファルガ達が聞いた薔薇の慟哭の原因との関係性は未だ不明だ。だが、繋がっていないと断言できる状態でもない。

 数日間情報収集をして、再度この食事処で合流し、情報交換することを取り決めた四人は、食事処の前で解散した。

 とはいえ、情報収集といっても、この地で特派員をしている彼らが掴み切れていない情報を、ファルガとレーテの二人が普通に聞き込みをしたところで、簡単に掴めるとは到底思えなかった。

 ヒントは薔薇城にある。

 それは四人の共通見解だった。

 今度は思い切って、鐘楼堂から城に入り込んでみるか。

 ファルガとレーテはそう思った。

 中にいる兵士に侵入が発覚したところで、この際もう関係ない。そもそもここまで混沌としたラン=サイディール国だ。今更前科者が城に入り込もうが、わかりはしないだろう。それに、今更ラン=サイディール国にも、薔薇城にも遠慮などすることはない。

 ラマ村の若者たちが憧れた『城塞都市デイエン』は、もはや存在しない。あるのは似て非なる建造物群。そして、過去の栄光のみ。圧倒的な経済力も軍事力も、今はどこかに失われてしまった。……もし、ベニーバではなく、マユリが本気でこの国を立て直したいというなら、ファルガもレーテも喜んで力を貸しただろうが。

 そう思ってから、ファルガとレーテは気がぐっと楽になった。

 活動拠点している宿の一室に戻った二人は、体を休めながら夜を待った。

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