計画
黒マントは一体何のために聖剣を集めるのか。
ちょっとだけ本人の意思じゃないのを匂わせてみました。
人々から忘れられた孤島。
古代帝国が滅ぶ前は、その孤島にも名前はあったはず。
だが、半日もあれば一周できてしまう程度の小さな島の、鬱蒼と茂るジャングルの中に、その神殿はあった。
神殿といえば聞こえはいいが、御神体を置けるほどのスペースもない、只の狭い空間だ。
薄暗い森林を進むと、突然現れる巨大な岸壁。そこにぽっかりと空く穴。洞窟と呼ぶには余りに整備され過ぎていた。だが、朽ちている。綺麗に切り取られた長方形の入り口は、人の手があまりに入っていない為、苔むしてはいたが、全く風化した後が見られない。苔を擦り取ると、黒曜石の切断面のような、美しい黒の壁が現れる筈だ。
邪神フィアマーグ。
かつてそう呼ばれた存在がいたとされる。その存在を祀る神殿。だが、人々はその邪神の名を知らぬ。いや、邪神ではなく魔王と呼ばれたこともある。
途轍もなく力を持ち、人間に厄災を与える存在の呼び名は、邪神であろうと魔王であろうとどちらでもよかった。いずれにせよ、人間に抗う術はないのだから。
その神殿の中に、一人の人影が入っていく。
その人影は黒いマントに身を包み、性別はわからない。だが、その背の高さから、何となく人影は男性のように感じられた。
人影は、神殿内の漆黒の闇に入る際、一度立ち止まった。恐れ戦いたわけではなさそうだ。その人影はゆっくりと神殿の中に歩みを進めていった。
程無くして、細長い回廊は開け、広い空間が広がる。光が全く射さぬこの場所も、なぜか視界が確保できた。空間全体が、微かに黄緑に発光しているのだ。漆黒の中だからこそ気づく発光。これが陽の光の下では、これらの空間を作り出す黒い壁や床、天井の輝きは気づくことが出来ないだろう。
何もない空間を、人影はゆっくりと歩みを進めた。
中心に来たところで立ち止まると、天を仰いだ。
天と言っても天井はそれほど高くない。ただ、本来であれば採光の為の窓がない代わりに、天井もうっすらと発光していた。
「その者、まだ殺すな。その者の動向を見極め、取り込めるようならば取り込め。
そなたは間違いなく神勇の者となれよう。だが、神賢の者の目覚めがまだ感じられぬ。その者もその可能性はあるはず。来たる時に備え、芽は摘むな。
その者が神賢の者になるのならば、育て上げ共に闘う事になろう」
何処からともなく聞こえてくる低く禍々しい声。いや、実際は声としてではなく、意志が届いているだけかもしれない。だが、黒マントは、それに応えた。
「御意のままに」
男の声が神殿に響き渡る。




