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界遊記  作者: かえで
蘇る古代帝国文明

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神との対話

 ヒータックの執務室から退出したレベセス。彼はそのまま、ワーヘ城に準備された自室に戻る。

 今のところ、ほぼ想定通りに進んでいる。古代帝国遺跡探索隊及びその救援隊が行方不明になっていること以外は。

 行方不明の原因。それについては、聖剣の勇者二人と考古学者テマの帰還を待つしかないが、ブレインとしてのテマを守りながら帰還することは想像に難くなく、それなりに古代帝国の調査結果を持ってきてくれるだろうと踏んでいる。

 ファルガとレーテ、テマの三人のパーティは、先発隊の古代帝国遺跡探索隊と比べても機能的に遜色はない。むしろ、単体であの三人を送り込む方が、成果だけを考えるなら大きいだろうとすら思える。

 それでもあえてSMGの後ろ盾を得た上で、カタラット主導の『国家連携』を発動させ、古代帝国遺跡探索隊を組織したのは、世界の目を古代帝国に向けさせ、人間たちが人間たちの手で『巨悪』に対抗する手段を得る為の準備のようなものだ。仮にそれが真の『精霊神大戦争』においてそれほどの影響力がないとしても。そして、三百年前の戦いから数えて二度目の『精霊神大戦争』後の世界で人々が生き残れたならば、その技術を使って再興することも視野に入れていた。

 レベセスも十数年前の戦いで、古代帝国の幾つかの技術は目の当たりにしている。

 それらの技術は、そのうちのどれか一つでも技術を手に入れさえすれば、その国家が覇権を確立することが可能だ、というレベルの代物ばかりだ。

 実際、SMGは上空を抑える技術、飛天龍と浮遊岩石ルイテウを持つことにより、世界の船舶による輸送力を抑え、経済を制した。

 恐らく世界各国が本気で調査に入れば、それに準ずる力か、それ以上の力が無数に出土するだろう。その一つがまさに『大陸砲』だった。それを一国だけが所有するならば、また妙なパワーバランスが出来上がってしまう。それを阻止するための『国家連携』だ。確かに、それに応じなかった国も少なからずいるが、彼らの目を古代帝国に向ける事だけは成功している。

 後は、出土した技術や道具が一か国に集中しないように、微調整をするだけだ。

 レベセスがしなければいけないこと。というより、現在は彼しかできない事。

 それは、聖剣と聖勇者の先にある存在、『超神剣の装備』と『白金の法衣の術者』について調べる事。しかし、情報があまりにも少ない。ジョーが発見し、ファルガが読み解いたとされる古代帝国の文書は、その内容に触れていたそうだが、それでもガガロが目指しているのは『超神剣の装備』のみ。『白金の法衣の術者』については、彼の口から出てきていない。

 辿り着くとすれば、ガガロが祀る魔王フィアマーグか、神ザムマーグとコンタクトをとるしかない。

 一番確実なのは、ガガロに会い、そこからフィアマーグを辿ってザムマーグに行きつくこと。フィアマーグがレベセスの推測通り、ガイガロスを纏めて『巨悪』と戦ったなら、ザムマーグは人間を取り纏めて戦った筈。

 どちらも姿を見た者はいないが、神という存在が、ドレーノの首都ロニーコで見たギガンテスのような高次の存在ならば、目撃もされなければ事象に左右もされることもないだろう。

 そして、彼らが聖剣の第三段階のような『氣』のコントロールは当然できるだろうし、それ以上の力を持っていれば、高次からの干渉も可能になる。第三段階は、身体能力の向上もさることながら、高次の存在に対して干渉できる能力と言っていい。それはまたその逆もしかり。

「もう一度、ガガロに会わねばいかんだろうな。次は『巨悪』とどう向き合うか、という話し合いの為に」

 レベセスはそう呟いたものの、流石に現在ガガロがどこにいるかはわからない。

 彼が生きているのは、死神の剣が所有者の所に帰った事でわかる。だが、流石に遥か遠くにいるガガロの氣を探ることは不可能に近い。レーテに所有権が移った光龍剣を用いてもまず無理だろう。

 レベセスは思う。

 高次の存在なら、レベセスたちのいる次元の物理法則など無視できるのだろうから、さっさと情報を提供してくれ、と。何なら、同一時間帯に複数存在することも可能だろうから、先の『精霊神大戦争』で『巨悪』と敵対したならば、人間たちとは利害関係が一致するはず。早急な情報提供をしてほしい、と。そして、各国に同時均等に『巨悪』に対抗する手段を示してほしい、と。

 しかし、その一方で巨悪も高次の存在ならば、あの大陸砲ですらダメージを与えられないだろう、ということも想像できた。だからこそ、先の『精霊神大戦争』では古代帝国は巨悪に成す術がなかったのだ。

 仮に、大陸砲を高次に引き上げることが出来るならば、高次に鎮座する巨悪にダメージを与えることも可能なのだろう。どうやったらよいのか、皆目見当もつかないが。

 いずれにせよ、まずは神ザムマーグ。

 唯一神なのか、絶対神なのかわからないが、一つしか聞かぬ神の名を、レベセスは何度も呼び掛ける。

 十年以上前、稀代の考古学者であった彼の親友は、面白いことを言っていた。

『神に勧誘された』と。

 夢の中で、神だと名乗る存在に、そろそろ神の座を明け渡したいのだが、どうだ、と聞かれたというから驚きだ。

 その時は冗談だろうと、共に一笑に付したが、ご託宣というのは大抵夢で行われる。今となってはそれがあながち嘘ではないのかもしれない、と思うようになってきた。

 そして、そんな風に思ってしまう自分自身を、レベセスは嘲笑うのだった。


 その晩。

 元聖勇者レベセス=アーグは夢を見た。

 漆黒の闇の中、何者かに見られている。

 恐怖感は感じないが、同時に正体不明の不気味さは感じる。それでいて、落ち着いた雰囲気もあるのは、何とも不思議な感覚だった。

 半分冗談で独り言を呟いていたレベセスからすれば、この夢は悪夢だったに違いない。

 半ばリアクションを期待していなかった相手に対しての暴言の数々。そして、言った本人がそこまで細かく覚えていないのにも拘らず、突然昔の話を蒸し返された上で一語一句問い詰められているような歯痒い状態。

 神に対して、願いの言葉というよりはむしろ要求を吐き出し続けてきたのは事実。

 だが、自分の発言である『|洞穴に向かって放たれた悪意の籠められた独り言』を、改めて突き付けられた時、それが真実であるが故の決まりの悪さは、拭いようがなかった。

 レベセスはゆっくりと双眸を閉じる。そして、下腹部丹田に力を籠め、氣を練り始めた。だが、そこで氣が充実していくことはない。夢だから当たり前なのだが。

 しかし、レベセスはそこで逆転の発想をした。この夢がもし、かつての親友が見たという、神が施した夢であるなら、ありとあらゆる問いに答えられるに違いないだろう、と。

「私の目の前にいる、姿の見えぬ貴方がもし真の神ならば、そのまま聞いてほしい。

 今、我々の世界は後二年もすると、『巨悪』の襲撃を受ける。その対抗手段があるなら教えてほしい」

 単刀直入な質問。だが、適切。

 今、この状態で変に自分の知識をひけらかしても意味がない。相手は神だ。全てお見通しだろう。それならば、自分の純粋に知りたいことを質問すればよい、と。

 レベセスの頭の中に二人の人物像が浮かぶ。

 蒼い甲冑に身を包んだ剣士。白金の法衣の術者。だが、漠然とした容姿はわかるが、年齢性別などは伺い知れない。人間なのかどうかも正直不明だ。

 今までレベセスが見た事のない二人。

 以前ファルガから聞いていたイメージと特徴そのものは符合するが、よくもここまでファルガの言葉だけでイメージできたものだと感心するレベセス。

「聖剣が『超神剣の装備』になるのだろうというのはわかっています。しかし、その方法がわからない。道具なのか、場所なのか、儀式なのか。それともその全てなのか。その為のきっかけを知りたい。人間の手で失われた知識を再度呼び戻すには時間が足りなさすぎます。

 そして、白金の法衣の術者とは何者なのか。聖勇者のように、何か条件を満たした者がなるのか、それともそのような存在がいて、その存在と共闘するということなのか」

 レベセスの頭の中に浮かんだ蒼い甲冑の剣士と白金の白衣の術者が、突然彼の目の前に現れる。身長こそレベセスとそう変わらないが、その二人の顔をじっくりと見たレベセスは思わず声を上げた。

 どう見ても、蒼い甲冑を身に纏っているのは、勇者の剣の聖勇者ファルガ=ノン。そして、白金の法衣を纏う女性は、光龍剣の聖勇者にして実の娘、レーテ=アーグだ。

 少し大人びた表情を浮かべているのは、数年後の決戦時のイメージなのだろうか。

 まるで王家のティアラにも引けを取らない細かな細工のされた冠の中心には、真紅に燃える宝玉が鎮座する。そのものが発光しているのではないかと錯覚するシルクで編みこまれた様な法衣にも、冠と同じ真紅の宝玉の首飾りが施され、ベルトのバックル、そして、彼女の持つ錫杖にも宝玉が伺える。盾と呼ぶにも手甲と呼ぶにも半端な大きさではあるが、そこに施された幾何学模様には大きな力を感じる。その両手の腕飾りが透けるような白い輝きを放っている。ローブはまるで光の粉が飛び散っているようにも見えるが、その光の粒子にも力が感じられ、それそのものが物理攻撃に対しても術に対しても高い防御力を備えている感じがする。

 一瞬見惚れたレベセス。これほど神々しい存在は、見たことがない。だが、そこでふと冷静になる。

「……フィアマーグは『神勇者』だけで『巨悪』に対抗できると思っているようです。しかし、それを私は是としません。『神勇者』の戦闘力と『巨悪』の戦闘力が真正面からぶつかれば、被害は計り知れないものになります。『神賢者』の力で『巨悪』の術を封じた上で戦わねば、三百年前の戦闘の二の舞になってしまいます」

 初めて聞いた声。しかし、恐怖は感じない。先程のやり取りも不快なものではなかった。

「聖勇者の父レベセス=アーグよ。

 今は私もフィアマーグ共々まだ動けません。『巨悪』との闘いは、神勇者と神賢者対巨悪の戦闘でした。だが、戦闘の終盤は『神勇者』対『神賢者』の構図になってしまいました。そして、『巨悪』を倒せず、追い返した状態で互いに力を失い、今は精神体のみで活動しています。しかし、その力は弱く、五感を断ち切った状態での、いわゆる『夢』でしか貴方たちと話をすることができません。

 貴方の言うとおり、後二年と少しで、『巨悪』は再訪します。

 その対抗手段については、私も考えていますが、まだ力の復活が成らず、実行に移すことができません。

『巨悪』は、一度目の侵攻に失敗した時、一つの布石を打ちました。それが人間とガイガロス人との確執です。人間とガイガロス人とが諍いを起こし、共闘できないようにしたのです。次回の侵攻の為に。

 前大戦では現次を人間に、高次をガイガロス人に攻撃をさせ、逃げどころを無くしたところで神勇者と神賢者は『巨悪』を攻めました。しかし、今大戦では高次を抑えることが難しい。だからこそ、より神勇者と神賢者の共闘が必要になります。

 早い時点での神勇者と神賢者の覚醒が必要です。

 『超神剣の装備』を聖剣から解放するには、『聖槌』が必要になります。それと『聖台』。聖台に収めた四聖剣の封印を聖槌で打ち、消し去ることで『超神剣の装備』は復活します」

 聞いたことのない神々しい女性のような声。だが、この声は男性のそれだ。

 その声は告げる。

 聖台に置かれた『超神剣の装備』を、聖槌を用いて聖剣に封じた。心なき者が装備を手に入れられぬように。そして、『超神剣の装備』を使いこなすためには、氣のコントロールを完璧にこなせることが必要になるが、未だ氣という生命エネルギーを神話程度にしか知らぬ人間たちに、氣というものに慣れてもらうための練習用ツールとして、それぞれを剣に見立てたのだと。

 レベセスの頭の中で、全てが繋がった。

 なぜ聖剣を介しての方が氣のエネルギーの変換効率が悪いのか。なぜ聖剣をすべて集めると、世界を掌中に収めることができるほどの力を手に入れることができるという伝説が出来上がったのか。

 それは、四本の聖剣という武器は、元々は『超神剣の装備』だったから、に他ならない。そして、その装備を纏った神勇者こそ、『巨悪』に対抗しうる力を持つ守護者。『超神剣の装備』が封印された過程と結果が、独り歩きして人々の間に流布された、ということなのだ。誰かに意図されたものではなく。

 後の謎は、白金の法衣の術者、神賢者の存在だ。

 だが、そこで神の話す声は急激に遠ざかる。

 レベセスの体が目覚めようとしていた。


 全身で息をするレベセス。いつの間にか、自室のベッドで横になってしまっていたらしい。だが、疲労は回復するどころか、蓄積するだけだった。それほどに神との対話は消耗するのだろう。

 全身脂汗が浮かぶ。だが、レベセスのその表情には笑みが浮かんでいた。

 方向性は少しだけ見えてきた。

 フィアマーグが『神勇者』を育てるのなら、ザムマーグ側は『神賢者』を育てればいいのではないか。ザムマーグはファルガを神勇者に、レーテを神賢者に推そうとしているが、フィアマーグは恐らくガガロを神勇者に推すつもりなのだろう。

 だが、どちらが神勇者になったとしても、巨悪と対抗できる力が得られるならばそれでいい。

 レベセスはまだ、どちらについたつもりもなかった。巨悪との戦闘『精霊神大戦争』の結果が悪ければ、また対抗手段を講じなければならない。その時、どちらかに肩入れしすぎるのは問題だろう、という気持ちが強い。

 レベセスはスサッケイとヒータックを呼び、神ザムマーグからのコンタクトがあったことはうまく誤魔化しつつ、『聖槌』と『聖台』の存在を二人に告げた。今はそれを集めるのが急務である、と。

 スサッケイは『影飛び』を走らせ、ヒータックはSMGを使い、情報収集を開始する。

 カタラットが史上最大の諜報機関になったその瞬間だった。

神様出てきました……。

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