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界遊記  作者: かえで
はじまりのはじまり
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はじまりのはじまり

外伝からのアップロードになりましたが、いろいろ考えた結果、本編を書き溜めた分を推敲しアップし、その先は執筆を続けることにしました。

昔の文章力に愕然としながら推敲していますが、のんびりやっていきたいと思います。

死ぬまでに完結させたいな。

 初夏の夕刻。

 灼熱の日差しは少し和らぎ、涼しい風が森の中を駆け抜ける。

 男性が三人、森の中にある村の中央広場で向かい合っている。そして、その様子を遠巻きに見つめる村人たち。彼らは広場で今まさに起きている出来事を、まるで違う世界を垣間見ているかのように、茫然自失の体で眺めていた。

 二人は少年。一人は成人の長身の男。

 素手の少年は武術の心得があるようで、道着のような緩めの服を身に付け、拳を最も有用な武器として使うべく構え、長身の男にその一撃を繰り出さんとしていた。長身の男を射抜く鋭い眼光。短髪に太い眉、一重瞼ながらも黒目の大きいその双眸には、憎悪の炎が燃え盛っていた。

 剣を構えた少年は、二人の間合いからは若干離れたところにいた。カラスの濡れ羽色の、跳ね上がった独特の癖毛と肩にかかる縛られた後ろ髪とが、風に煽られ微かに揺れている。前髪の奥に見え隠れする二重の大きな瞳は、男たちの一挙手一投足を見逃さぬように、見開かれていた。その出で立ちは、麻の服に綿の肌着、少し長距離を歩いても平気な旅行者用のブーツを着用していたが、凡そ剣を持つ戦士のそれとは異なっているように見える。

 彼は、短髪の少年に言われていた。

 この戦闘は手を出さずに見守っていてほしい。ただ、奴の逃亡は阻止してほしい、と。

 長身の男は美しかった。

 耳に軽くかかる黒髪は光を孕み、後光が差しているような錯覚を与える。

 切れ長の目に通った鼻筋、薄い唇には、誰しもが恋い焦がれる魅惑的な笑みを浮かべていた。女性はおろか、同性が見てもその表情は艶めかしく、見る者全てが生唾を飲み込む。

 出で立ちこそ、なめし皮の服に安全靴のようなつま先を保護する鉄のガードのついたブーツ、厚手のスパッツに皮の手袋を身に着け、マントを羽織るという普通の旅行者然としていたが、彼が身に着けているとそれなりの価値のあるもの見えてくるから不思議だ。

 だが、異常なのは彼の携帯品だった。

 等身大の可愛らしい女児の人形。その首に縄をかけ、縄の反対側を己の左の腕に括り付けていた。その異常さも、いや、その異常さこそが更に彼の狂気的な美しさを醸しだしているのかもしれない。

 日没を数刻後に控えた広場では蝶が舞い、小鳥たちが囁き、小動物が駆けまわる。やさしい風が背丈の低い草を微かに揺らしている。まさに平和だ。今の世界を象徴するように。

 だが、彼ら三人の周りだけは、嵐のような激しい殺気が渦を巻いていた。その場にいた村人の誰もが三人の対決に近づくことはできなかった。

 長身の男の持っているのは人形……?

 違う。

 本物の人間だ。

 瞳はすでに狂気の光を帯びてはいるものの、紛い物の眼球からは決して感じることのできない、生命を持つ物だけが持ちうる光を放っていた。

 彼女の左の頬には、この男がつけたであろう歯形がくっきりと残されており、抉り取られた頬肉の傷口からは今なお、枯れる事のない泉のように鮮血が滴り続ける。そして、その傷口に刷り込むように粘質の白濁した液体がなすりつけてある。

 二人の少年は、その様子に憎悪のまなざしを向けていた。

 その少年達の、恐ろしいまでの視線を浴びてなお、男は涼しそうな……まるで、高原のそよ風に吹かれているように、心地良さそうな笑みを浮かべている。その表情は勝ち誇っているようでもなく、見下しているような物でもなかった。どちらかといえば、外からの情報を遮断し、自身の中にある恍惚感を反芻しているようでさえあった。

 異常だ。

 怒り猛る二人の少年。

 それにはまるで関心を示さず、自身が得た快楽に身を震わせる美しい男。

 そして、その男の手に捕縛される正気を失った目をした可愛らしい少女。

 惨劇?

 果たして村人たちはそう見ていただろうか。

 現実感を伴わぬ白日夢として見ていたのではなかろうか。

 だが、まぎれもない事実。

 田舎の村、ラマでのこの出来事は、一体何故起きたのだろうか。

ゆっくりやっていきます。

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