Discovery
セアが電話を切ってしばらくすると、政府から処理班が到着した。完全防備の防護服で、はたから見るとあからさまに怪しい外見に、クロエは思わず息をのんだ。
彼らは、どうしても好きになれない。自分がもし処理対象だったら……そんな根拠のないどうしようもない不安に駆られてしまう。簡単にいえば、気分が悪い。
「クロエ」
一瞬息が止まった。冷や汗が頬を伝う。
その声がセアのものだと分かった瞬間、緊張が嘘みたいにほぐれた。
「大丈夫かい?」
「……はい、すいません」
セアは小さく微笑むと、現場を片付けている処理班を横目に小さな路地に向かった。その後を小走りで追いかける。ふと見た腕時計は、午前七時十分過ぎを指している。一般人が活動を開始する前に片付けないと、面倒なことになる。
「軍長、やっぱりあれは……、っ」
「クロエ」
セアは、突然振り返ったかと思うと、クロエの頭に手を置いた。身長170センチないくらいの自分が、180センチの男に見下ろされると流石にビクッとする。
何をされるのかと硬直していると、ぽんぽん、と頭をたたかれた。
「二人でいるときくらい、普通にしてていいのに」
「……」
分かってる。意味は、理解できている。でも、あくまでも上司と部下という立場がある。この人と一緒にいると、普通でいる方が違和感がある。彼がそれを望まないということは、分かっているのだが。
「……まぁ、追々かな?」
セアは頭から手を離し、いつもの笑顔で微笑んだ。その言葉に、表情に、罪悪感を覚える。
「さっきの質問、犯人のこと?」
「あ、はい。やっぱり……“妖魔”、ですか……?」
セアは突然踵を返して歩き出した。慌ててその後をついていく。細い道を時折曲がりながら進む。不思議なことに、一片の迷いなく。
何か、あてでもあるのだろうか。
「多分、ね」
短く答え、尚も迷わず進んでいく。
“妖魔”とは。
俗にいう化け物のことで、お化けだとか幽霊、妖怪なんかと呼ばれることもある。その実態を知る者は政府でも上層部の人間や、ごく一部の一般人のみだ。
いわゆる、“政府内機密”である。
妖魔は人間に憑りつくことでその力を増していく。つまり精神的なものを好むのだ。妖魔に憑りつかれたら初期段階では引き剥がすことができるが、それを過ぎるとゲームオーバー。そのまま妖魔に取り込まれて、その存在がこの世から抹消される。
政府は、そうなる前に妖魔の早期発見、駆除を行わなければならない。この世界の政府が政治の監視しか行わないのは、この為なのだ。
しかし――。
「クロエ、危険だと思ったら、逃げろ」
「え……。ッ!?」
いつの間に広い道に出ていたのだろうか。いや、そんなことより。
「よ、妖魔……っ」
「全く……」
顔に影がかかる。上を見上げると、想像もしないような化け物が、そこにいた。
冷や汗が伝う。その感覚が鬱陶しい。
セアは彼らしくない、僅かに動揺した様子だった。
「調子の悪いオジサンを、是非とも労わってほしいもんだね」