Catastrophe
指定された現場に到着した。したのだが。
「おかしいな……」
現場には、犯人はおろか、怪我人や血痕さえ見当たらない。ごく普通の、早朝の大通りの風景だ。
現場を間違えたのかと思い、当たりを歩いてみるも、それらしい場所はない。政府の指示ミスかと思い問い合わせるも、繋がったのは留守番電話サービスだった。
「どうなってんだよ……」
「ねぇ」
「お前お気楽すぎんぞ。ちょっとは」
「人の話を聞きなよ」
「って」
軽く頭を小突かれる。頭を押さえて振り向くと、真っ青な顔をした同僚。
ひどく、手先が震えている。
「おい、どうした」
「あれが、見えないの……?」
は? と言い返そうと思ったが、震える声にどんどん青ざめる顔、吹き出す汗に、何かが起こっているのであろうことは疑いようがなかった。
「何かが……いる?」
そう呟いた瞬間、胸部に衝撃が走った。
内臓が破裂する感覚。その衝撃に意識のすべてを持っていかれ、二度目の衝撃を受けた時、俺は体の支配権を手放した。
何が起こった?
段々と視界が赤で浸食されていく。
鉄くさい。匂いにむせて、息がうまくすえない。
しばらく浅い呼吸を繰り返していると、辛うじて気道を確保できた。眼球だけを動かし、ぼやける視界の中で同僚の姿を探す。どこだ。どこにいる。生きているのか。生きていてくれ。
「っ……」
視界に捉えたのは、主導者を失った身体。血にまみれ、辛うじて方氏を保っているような、肉片。
死んでいる、ようだった。
声は出ない。正確には、出せない。涙がただただ流れては血と混じっていく。
何が起こったのか。同僚が指差した虚空の先には何があったのか。前を向きなおしてみても、ただ道が続いているだけで何の違和感もない。
夢なのだろうか。悪趣味の悪い夢なのだろうか。最近どうも暇すぎて気がせいていたから、あり得るかもしれないな。
頼む。夢であってくれ。これは夢だ。何を心配する必要もない。ただ覚めるのを待てばいいだけ。そして目が覚めたら、同僚は変わらずぶっきらぼうに「おはよう」と言い、俺はそれに適当に答える。
そんな日常がきっと――。
「あー……」
まずいことになった。早朝故にもしかしたらいるかもしれないと思っていたが、まさか……こんな化け物がいたとは。
乗り捨てられたパトカーの周辺を歩いて見つけたのは、引き裂かれた政府軍服と大量の血痕、そして肉片。
明らかに、食い荒らされた後だった。
「……まずい」
この場を一般人に知られてはならない。あれの存在は、政府の厳重機密なのだから。
とにかく、政府長に指示を仰がなくてはならない。早急に、解決させる必要がある。
「もしもし。こちら軍長補佐クロエ=ルーヴェンスです。至急、応答願います」