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Blood  作者: 緋
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Outbreak

 絶句した。こんなことが起こりうるのかと。

『火事だ! お、王宮が燃えてる!』

 動揺した声と共に飛び込んできた通報は、政府の重鎮をも凍らせるものだった。

 始めはいたずらだろうと思った。しかし、早急にマスコミが騒ぎだした。こうなってしまっては、政府も動かざるをえなかった。

「状況を説明しろ!」

「は、はい! えっと……」

 念のため現場に向かわせていた人員の返答は、俺の疑問を解決させなかった。突然出火して、瞬く間に炎上。そして今ではあの広大な敷地内のすべてが焼け落ちて崩壊している。

 崩壊している。

 イリガルの中心ともいわれた、龍国が。

 消防署の必死の消火活動もむなしく、炎は収まる気配を見せない。政府軍人は王宮内に立ち入り、逃げ遅れた人間がいないか捜索している。一体、何が起こったのだ。

「チッ……!」



 

 熱い。苦しい。痛い……――。

 ぼやける視界の中捉えたのは、赤色。自分を囲むように広がる鉄のにおいと、激しく燃え上がる炎。

 何でこうなったのか、何でここにいるのか。自分がどこの誰なのかさえ分からなかったが、こんな頭でも一つだけ理解できた。

 ああ、自分は死ぬんだな、と。

 後悔や悲しみ、恐怖さえなかった。死ぬ直前、走馬灯が見えるだなんていうが、そんなことが起こるには情報が足りなかった。思い出を懐かしむだけの記憶は、存在していなかった。ただ、少しだけ胸が苦しい。これが、自分に刺さった刃物のせいなのか、それとも無意識的に何かを思ってのことなのか。しかし、それを確かめる術はない。

 炎はさらに勢いを増す。いつの間にか、熱さや痛みは消えていた。いよいよか。何の未練も思い出もないこの世から、誰にも見送られぬまま、自分は逝くのか。

 炎が目の前に迫った。感覚のない手先に、僅かに刺激が走った。よく持っただろう。誰に向けた訳でもないが、小さく笑みをうかべる。この炎が消えるころには、もう自分という存在はこの世にない。まあ、こんなにも簡単に、記憶がなくなるのだから、きっと大した人間ではなかったのだろう。死の間際、僅かだが思考できる時間があってよかった。

 死期を感じ、静かに目を閉じる。頬に、何かが伝う。泣いていたのか、自分は。それもおかしな話だ。

もう、いいだろう。輪廻転生という言葉が本当ならば、次はまともな人生が歩めるかもしれない。

 来世に確証のない期待を抱きながら、笑みを浮かべて意識を手放した。




 この事件が、後に『龍国崩壊事件』と呼ばれるようになる。


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