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氷原に咲く華  作者: 水瀬黎
9/11

Episode.08 独白

もぬけの殻になった水晶の洞窟の広間にひとりたたずむ青年がいた。

「さすがフィルさんですよね、何百年も続いた水竜のシステムを見破ってしまうんですから」

答える影はなく、つぶやく声が虚しく反響する。

 水竜の巫女。異形と心を通わせる能力を持ち、不思議な力を持つ歌を歌うことができる者。

それは初代国王がつくりあげた竜の檻。

歌は空間を、そして時をも歪め、外界からの水以外のものを遮断する呪術の媒介だった。

そのため歌をやめれば術も解けるがそれを行った者はいなかった。

歌が途切れると堪えがたい苦痛(ばつ)が与えられるのだから。

こうして均衡は保たれてきた。

まあ、彼女がものの見事にぶち壊してくれましたのですが。

彼女を抜擢した時点で予想はできていましたけど。

なにせあの彼女の親友ですから、ね。

 

 ……。わかっていましたよ。うすうす。


自由気ままなあなたがこんな狭い世界に満足しないで外へ行ってしまうことは。

ぼくも、彼女もそうするでしょうしね。

 何もないところで長居をしてもしかたありません。次をあたりましょうか。

 踵を返しかけて、ぴたりと動きを止める。


彼の目線の先には水晶の上にたたずむバラがあった。

なつかしいですね。氷原に咲く花。冬はなにも咲かなくてつまらないとぐずったノルンさんのためにフィルさんが自分でぼくと彼女を巻き込みながら雪で育つ花をつくったんですっけ。

たしかこんなことも言っていましたね。


フィルさんは雪、彼女は花。ぼくは茎。


たしかにいい配役かもしれませんが、一つ誤りがある気がします。彼女はたしかに花で、あなたは雪ですが、同時に茎でもあるんですよ。――ぼくは彼女とあなたを支えてきましたが、ぼくを支えてきたのもまた、彼女とあなたなのですから。



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