Episode.04 希望の欠片
『起きてっ起きてってば!』
「なんだ、まだ歌は歌わなくてよい時間であろう」
そう言って毛布にくるまる。
『花が来たよ!!』
「それはまことか」
毛布を蹴飛ばし、入口へ駆けていく。
黒い鉄格子の脇のかごの中にはミルクとパンにチーズ、ゆでた温野菜。それから小さなストーブのようなものと同じく小さな鍋、のどが渇いたとき用の水、着替えの白いワンピースの他に白いバラの花束が入っていた。
『これが花なのかい? キレイだねぇ……』
「バラか」
『ばら?』
「これは育てるのに手間のかかる種類の花なのだ」
『じゃあ、無理なの?』
「む、無理な訳なかろう!」
遺伝子操作で手間がかからぬようにすればよい……はずだ。
たぶん。
チーズフォンデュ用の鍋に砕いた透明な結晶を入れて火にかけ、溶かす。次に紫色の結晶、金色の欠片も加える。それを溶かしている間にバラの花びらをちぎり、すりつぶす。そして先日頼んだ石けんを水にとかし混ぜる。
「あ」
『どうかしたの?』
「氷がない」
『氷?』
なんで氷?と目をパチパチする竜。
「そなた、水が操れるであろう? 水を凍らせることはできぬのか?」
『無理無理、ぼく氷は操れないもの。だから水を凍らせることもできない』
「そうか……」
しかたない、こうなったら。
「凍れ!」
謎のポーズをとり、脇を流れる水に向かって叫ぶ。
『……………………』
「…………」
『……何も起こらないよ』
「おかしいな、こうすれば不思議な力で奇跡がおこるはずなのだが」
『本の読みすぎだよ、君』
心の底から呆れたように言う。
「わたしの辞書には不可能はないのだぞ」
『その根拠のない自信はどこからわいてくるの?』
「わたしの声が小さすぎたに違いない。こ~お~れ~っ!」
念力を送るように手をひらひらさせるが、何も変化はない。
『いやいや無理だって』
あきれたように言う。
なぜだ。どうして凍らない。以前は、たしかに――。
ん?以前、は…………??
・◇・
どこか、知らない風景が浮かぶ。
澄んだ空気。青々と茂った葉。高く高く伸びる雲。蝉の声。
暑さのため、くたっとその場にすわりこみ、草についた露を凍らせて口に含み、涼をとる。
「いこうぜ、フィル」
手が差し出され、それを握って立ち上がる。
・◇・
そこで意識が途切れた。
『君、大丈夫?ぼーっとしてるみたいだけど』
「問題ない」
水路に向き合い、意識を集中させる。
「凍てつけ」
ぱきぱきぱき……っと音をたて、流水が凍りつき、音が消えていく。
『おおーっ凍った!』
「いったであろう、不可能はないと」
氷を砕き、バラの花びらを浮かべた器を冷やす。
『……うん!』
『これがタネなの?』
「うむ」
『こんなに小さいものが、あんなに大きなものになるのかあ』
できた種を水晶を粉砕したところに埋める。
『はやく咲くといいねっ』
「そうだな」
その願いは天に届き、翌日に水晶のように透き通る芽がかわいらしい顔をのぞかせていた。
しかし喜んだのもつかのま。その芽はすくすくと生長したものの蕾をつけることがなかった。
【用語集】
◇毛布……白い毛布。クマちゃんの刺繍入り。
◆白いワンピース……やたらヒラヒラしている膝丈のワンピース。
バラの刺繍入り。皮肉なことに空色。
◇バラ……育てるのがめんどうな花No.1。
虫が多くつく。
◆不思議な力で奇跡がおこる……ばびゅーんっきらきらり~んという感じだ。




