5:出会い
光の粒が辺りに満ち溢れ、幻想的な風景を生み出す。
あの光の粒も魔素なのだろうか。
「うわっ!?」
突然、辺りの発光する魔素が吸い寄せられる様に、目の前の位置を中心として集い始めた。
視界が光で遮られ、白以外は何も見えなかった。
でも、光を放っているのは確かにさっきの、喋る光の球の浮かんでいた位置だ。
それに、あれはさっき自分のことを『精霊』と言っていた。
あれは一体どういうことなのだろう。
「ボクの名前は『ネウル』。君は?」
そんな声がすると同時に、次第に目が見える様になり、僕は眩んでいた視界に集中した。
そこにはなんとも言い表しがたい、美しい存在がいた。
僕にはその圧倒的な存在感だけで、さっきの言葉を理解できた。
これは、紛れも無く、『精霊』と呼ばれし存在であると。
水色に染まった輝かしい長髪が揺らめき、どこか明るい金色の瞳が露になる。
肌は人形ではないのかと思うほど白く、綺麗だった。
服は、真っ白で長い布を纏っているだけだった。
目の毒としか言い様の無い格好だけど、僕はその存在に見惚れるしかなかった。
「ねえってば。君の名前は?」
「え?ああ、えと、ハルト…です」
「知ってるよ」
「じゃあ何で聞いたの!?」
無意識の内にツッコんだ僕に、「彼女」はクスクスと笑った。
「今知ったばかりだよ。君の記憶を探らせて貰っただけさ」
「き、記憶……?」
僕がそう聞き返すと、彼女は少し目を細め、問いかけた。
「君、『異界の子』だよね?」
「え……!?」
何で分かった、と聞く前に、彼女は記憶を読み取ることができると思い出した。
「ははあ、君のいた世界はこの世界とこんなに違うんだ」
覗き込んでいる様な目で、彼女は僕の記憶を読み取っていく。
「しかも、魔法が無いとはね。面白いね」
でも、と彼女が付け加える。
「ハルトは、本当に元の世界に戻りたいと思ってるの?」
跳ねそうになった心臓を抑えながら、思った。
この子は何を言っているのだろう、と。
「父親は仕事はするけど、家ではただの飲んだくれ。母親は近所の男と遊び、子供をほったらかしにする。妹はコウツウ事故とやらで既に死亡。そんな寂しい現実から逃げる様に、君はその世界で勝ち組になろうと思ったんでしょ?」
僅かに、だけど確かに心臓が跳ねた。
「僕は……」
「ハルトは、本当に前の世界に未練なんてあるの?」
そんな言葉が、グサリと僕に突き刺さる。
心の奥に仕舞い込んでいた思いが、漏れ出す。
「僕は……帰りたく、ない?」
「この世界で家族の優しさに触れ、考え方が変わったでしょ?」
「でも、妹の墓参りとか。友達とか。将来の夢とか…」
必死に言い訳を探した。
けど、まともなものは見つからなかった。
そして思った。
何で、この思いを否定していたのだろう、と。
「僕が、歪んでるから?」
「それはちょっと違うかもね」
目の前の「精霊」は苦笑いし、僕に告げた。
「どんな人だって、生まれた場所に帰りたがるのは普通さ。今更考え方を変えたくなかっただけでしょ?」
何で知ってるのだろうか。
それが、精霊だから?
「まあ、そうとも言うかな?」
また思考を読まれた。
そして、彼女は思いついた様に手をパンと叩いた。
「ボクは君に付いて行くよ」
「……は?」
「もう前の世界には未練が無いんでしょ?だったら、この世界に馴染む様、ボクがいてあげる」
「な、何で――」
「面白そうだから♪」
心の底からそう思っているのだろうか、彼女が笑みを浮かべた。
「君の前の世界の知識と、『異界の子』としての能力で、魔法はどこまで行けるか。興味深いしね」
そして、孤児院に新たな家族が加わった。
言わずもがな、人間にも見える様になった、人間を演じるネウルである。
フィーナさんにとっての認識は「ハルトにゾッコンな美少女」と、余計なことをされたが。
そして何故かアリシアとリナは不機嫌そうにしていたが。
何にせよ、僕はネウルの言葉で自分の本心に気づき、この世界に残ることにした。
新しい将来の夢は、まだ決まっていない。