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異世界の空に落ちる  作者: 零零機工斗
第一章:ハルトとラネル孤児院
3/8

3:セレカ

このラネル孤児院に「ハルト(9歳)」として引き取られた日の翌朝。

僕は、昨日与えられた空き部屋のベッドの上で目が覚めるも、起き上がることができなかった。

ぺちぺちと頬を叩かれながら、僕は上を見上げた。


「はーるーとークンっ!」

「あの、何をしてるの?」

「起こしてるの!」


朝から既に元気いっぱいなリナが、横になっている僕に跨っていた。

しかも、人様の顔をぺちぺちと叩きながら。


いや、元気ありすぎだろこの子。


「あの、もう起きたから……」

「早く早く!もう皆お手伝いしてるよ?」

「お手伝い……?」

「朝ごはんの支度とか、お洗濯とか!」

「分かった、今行く」


この孤児院にはお世話になるのだ。

当然、家事とかはやらないと。


「えーと、リナちゃん?」

「なぁに?」

「降りてくれない?動けないから」

「はーい」


そして、リナは後方に飛び上がり、そのまま回転して手で着地した。

逆立ちという状態だ。


というか、身体能力高っ。









そして、目を擦りながら食堂まで歩いた僕はすぐに、前世ではやり慣れた家事である「洗濯係」を任された。

現在は室内で干した洗濯物を畳んでいる。


因みに、今の自分の服は孤児院のおさがりだ。

明るい青色の半袖シャツに、焦げ茶色の長ズボンだ。

流石に前の世界の部屋着はブカブカし過ぎて着れない。


来週には料理を教えてくれるとのことで、もう少しすれば料理当番を任せてくれる様になるみたいだ。

前にリナも一度だけ料理当番を任されたらしいけど、その時以来、料理当番をリナに回さない様にしてるとアリシアが教えてくれた。

理由は……全員お腹を壊したと言えば分かるだろうか。


僕はすぐに分かりましたとも。

リナに料理をさせてはいけないことを。


「もの覚えが早いんだね、ハルト君」


慣れた手捌きで洗濯物を畳んでいると、アリシアが歩み寄って来た。

先ほど前世の方法とあまり変わらない畳み方を教えてもらったので、怪しまれる心配は無い、と思う。


「なんか、前にこれをやったことがある様な気がして……」

「記憶が戻ったの?」

「そうじゃないけど、なんとなく」


それとなく記憶喪失のテンプレを使った。

これで怪しまれる様なことをやっても記憶の片隅にあったと主張すれば良い筈。

良心が痛むけど、異世界から来たなどと意味不明なことを言うよりはマシだと思う。


「そういえば、お姉さんが今日帰ってくるんだっけ」

「うん、昼過ぎには帰ってくるはず」


そんなやり取りをしながら、僕はせっせと畳んだ洗濯物を人物別に分けた。

そして、それぞれのカゴに入れる。

これであとは皆が自分のクローゼットに仕舞うだけらしい。


それと今日分かったことだけど、この世界の文明レベルはそこまで低くはなかった。

この村は単に田舎なだけらしい。

街についてフィーナさんに聞いてみたけど、イメージ的には現代都市に近いみたいだ。

高層ビルとかは無いみたいだけど。


理由は、『魔法』の存在にある。

孤児院にある電灯や洗濯機も、全て魔法で作動するものだった。(洗濯機は鉄製だった)

唯一前世と違うところは、パソコンや車などの『電子機器』が無いことだろうか。

電灯も電球っぽく、LEDじゃなくて光魔法だし。


そもそもコンクリートは無いし、馬車も特殊な種類の馬を使えば車よりも速そうだし。

飛行機は無いが、飛行船ならあるので空も移動できる。

物理法則の縛りの無い魔法があれば、文明レベルはいずれ地球をも超えるかもしれない。



とにかく、この世界には魔法がある。



フィーナさんに聞いた結果、魔法を使うには、才能が必要だそうだ。

才能は基本的に魔力量を測れば分かるらしいけど、例外としては異常なくらい魔力を節約できたり、六つある属性に属さない特殊な魔法を使う人がいる。

六つの属性は無、火、水、雷、光、そして闇だ。

僕達人間の持つ魔力は基本的に無属性だけど、一部だけ、他の属性に変換させることができる人間がいるらしい。


因みに、方法などは教えてくれなかったため、僕は憧れの魔法をまだ使うことはできなかった。

唯一のヒントが、想像と詠唱と魔法陣。

魔法への道のりはまだ遠そうだ。






昼時。


昼御飯は、アリシアが作ったサンドイッチだ。

レタスみたいな、この世界ではなんて言うものか分からない野菜がシャキシャキしていて美味しかった。

美味しかったんだけど。


「皆、ただいまァーー!!」


孤児院の玄関から、そんな叫び声同然の音量の声が響いてきた。

そして、今度はドタドタと床を踏む音が高速で食堂に近づいてきた。


食堂のドアが勢い良く開き、姿を見せたのは、赤毛の長髪を一つに纏めた、所謂ポニーテールの少女だった。


身長は、150cm以上と言ったところだろうか。

前世の僕と同じくらいなのに、とても羨ましく思った。


「セレカ姉さん!お帰り!」


アリシアが嬉しそうに声を上げた。

回りを見てみると、皆笑みを浮かべてる。


「ん?君は……誰?新入り?」


セレカ、いや、セレカさんが僕を指差した。

なんか、ここ二日はこんな流ればっかりだ。


「そうだよ!この子はハルト君!草原にいた孤児なんだよ!」

「そっか、捨てられたのね…」


リナがまた元気な声を上げ、僕を紹介した。

「捨てられた」という単語を口にした彼女は何かを思い出すかの様な目をしていたけど、彼女は捨て子なのだろうか。


「ううん、そうじゃないんです。名前以外の記憶が無いんです」

「記憶が?」


僕は記憶喪失の設定を繰り出し、セレカさんが少しずっこけた。

捨て子だと確信していたのだろうか。


「そっかそっか!じゃあよろしくねハルト君。あたしがこの孤児院の孤児の中で一番年上の、セレカだよ」


セレカさんが手を僕の前に出した。


「えと、何ですか?」

「ん」


セレカさんが手を握るモーションをする。

どうやら、握手を求めていた様だ。


「はい、よろしくお願いします!」


そして、僕は差し伸べられた手を握った。

しかし――


「おお、撫で心地が良いね!」


握手の際、頭を近づけたのが間違いだった。


お約束の様に、低身長の僕は撫でられた。

くしゃくしゃと髪を撫で回されるのに慣れてしまったことに、少しショックを覚えた僕でもあった。



後になって測ってみたところ、大体126cmってトコロでした。

この世界の長さの単位でいうと126セム、もしくは1メル26セム。

日本の9歳男子の平均身長は確か130cm辺り。



高身長への道のりは案外、魔法より遠いかもしれない。

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