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第9話 久遠と嫉妬

「いらっしゃい」

 今日は例の日曜日。

 十一時ごろみんなと約束していたんだけど、修平は何故か十時にはぼくの家に来ていた。

「準備大変だろ?」

 と、それが理由。ぼくはもう少し考える時間が欲しかったんだけどさ。



 姉貴は朝からお菓子作りに精を出している。

 そこら辺の店で売っている物よりずっとおいしいから、これはみんなに食べて貰いたいと思うほど。ぼくも少しは手伝ったけど、こういう時の姉貴の手際の良さにはかなわない。

 


 昨日はぼくの家の周辺を調べることを兼ねて買い物をしていたら、あれもこれもととんでもない量の食材を買い込んでしまった。

 半分は今日のための材料だったんだけど。

 なんやかんやと、いつも姉貴はぼくの心配をしてくれているだな。と、感謝したくなった。



 

 で。修平も加わって、お菓子の盛り付けやら、昼食の分まで姉貴は用意していた。

「……すごいっすね……」

 修平がその量と、少し味見をさせてもらったその味と。

 どこかのスィーツ専門店のフルコースでいけるんじゃないかってほどの量と質。

 修平は思わず、その光景と味に感嘆の声を漏らしていた。

「好きでやってることだから。みんなに食べて貰えると思うと、ついつい頑張っちゃうんだ」

 姉貴は修平の様子に満足顔。こういう時はドヤ顔も許されると思うな。

「すぐにでもお嫁にいけますよね」

「そう?じゃ、修平くんが貰ってくれるかな?かなり年上だけど」

 姉貴……年上の女性の鉄板ネタだよね、それ。ベタすぎる。

「いや……俺じゃ悪いっす」

 頬を赤くしてやんわりと断る修平。こんなこと言われたら、絶対どう答えていいか困ると思うんだ。

「あら、残念。修平くんはかつみの方がいいのよね?」

 そして姉貴のベタな返しに、何も言わずに――黙ってぼくを見つめるな、修平っ!!

 ぼくが答えに困るだろうっ!!

 どうしてぼくまで、顔が熱くなるんだよっ!!

「ごめんね。図星だったみたい」

 うわーっ!!水を得た魚のように、喜ぶんじゃない!!一昨日はあれだけ落ち込んでたじゃないか、姉貴っ!!

「ち……違うっ!!」

 ぼくが否定すると、ごほん、うほんとわざとらしい咳をする修平。おまえ、誤魔化し方最悪っ!!

 で、何を誤魔化しているんだ、おまえっ!?



「あ」

「……メール?」

 ぼくと修平がほとんど同時に自分の携帯に反応する。

「おまえ……いいよな、スマホ」

「……修平はいつもそう言うよね。高校いったら買って貰えるんでしょ?」

「まぁ……」

「もう少しの我慢じゃん」

「そうだけど」

 さっきの話のやり取りで困っていたぼくたちは、そんな話で気持ちを落ち着けていた。

 犯人である姉貴は笑っていたけど。マジでこの人、要注意!



「あと二人増えるけどいい?」っていう内容。

 ぼくには鈴那。修平には久遠。

 鈴那のメールの方が、もう少し詳しく書いてある。

「どうしたの?」

 沈黙してしまったぼくと修平に、姉貴が心配そうにぼくたちに話しかけてきた。

「お友達が増えても大丈夫よ。だいぶ多めに作ったから」

 うん。それはぼくもそう思う。姉貴のことだから、お土産も用意していたんだろうってね。

「友達というより、鈴那の後輩が二人だって。女子らしい……それ以上は書いてないけど」

 女子かぁ。面倒だよな……。

「いいじゃない。時々は女の子たちとも遊びなさい」 

 姉貴はいいかもしれないけど。

「ここまできたら、ダメとも言えないね」

 ぼくはため息を漏らしながら、鈴那にOKの返事をした。

 でもこんな時に……余計にややこしくしたくないんだ。



「かつみ……そいつらの相手は俺がするから。おまえもまだ本調子じゃないんだろ?」

 修平。どうも金曜日のことが引っかかっているみたい。

「それはもう大丈夫。ぼくが女子を苦手なのは修平も知ってるじゃん」

「……まぁ」

 それでも心配そうにぼくを見てる修平。こんなに心配症だったっけ、こいつ?

「お姉ちゃんの言う通り、時々は女子とも話さないとね」

 ぼくは清水の舞台から飛び降りたい気持ちで、作り笑いを浮かべながら修平に答えた。

 そのセリフは思いっきり棒読みだったと思うけど……。



◆◆◆



「修平。おまえ、先に来てたんだ」

 十一時きっかりにみんなはぼくの家にやってきた。

 そして着いた早々。久遠のしかめっ面。

「おう。一時間早くな」

「……そうか」

 何がそうかなんだよ……久遠。

「良く来てくれたわね、さぁさ。上がって、上がって」

 ナイスフォローの姉貴の言葉に、みんながそれぞれに「お邪魔します」と玄関から上がってきた。

「大丈夫だった、かつみ?」

「ぼくも心配したよ」

 鈴那と岬に声をかけられて。二人並ぶと仲のいい同性のお友達に見えるのは何故?

 岬の着ている服も、下はジーパンだけど、上はパステル系の色のコーディネート。女子っぽい。

「う、うん。心配かけてごめん」

 ぼくが二人に謝る。と、その直後。

「かつみ先輩っ!!!」

 うわーっ!!ぼくのもっとも苦手な声が聞こえるっ!!

「大丈夫ですかっ!?私、あのとき廊下で先輩が倒れたのを見ちゃって……すごく心配で心配でっ!!」

 縦ロールの金色に近い茶色の髪をふわふわさせて、ぼくの右手をしっかり握る女子。誰?

「……かっくん…この子『水田唯みずたゆい』ちゃんよ」

 姉貴がそっとぼくの耳に囁いた。

 え?でも確かその子は七月の夏休み前に登場予定の……。

 じゃ……この子の隣にいるのが。

「お久しぶりです、かつみ先輩。二年ニ組の『棚橋瑞羽たなはしみずは』です」

 水田唯より少し身長の高い女子。髪は顎の下あたりまでの短めの黒。

 大人しい印象に見える子だ。

「昨年の運動会ではお世話になりました。

 私も先輩の倒れるところを唯と一緒に見てしまったので……すごく心配してました」

 この子が『棚橋瑞羽』。

 まだ五月だぞ?予定が全然違ってる。

「ありがとう二人とも。ぼくはもう大丈夫。心配かけてごめんね」

「そんなことありません。今日は無理言って先輩たちに着いてきてしまってすみませんでした」

 水田と棚橋――唯と瑞羽と呼ぶことにするけど、ぼくは心配してくれたこの二人に素直にお礼を言って。唯がぼくの右手を離すことなく、謝ったけど。瑞羽は控えめに頭を下げるだけだった。

 それにしても……正反対の性格の二人だなぁ……。



「で。これ、お土産」

 一番後ろにいた右京が、花束をぼくに差し出した。

「へ?どういうこと?」

「お菓子がいいと思ったんだけどさ。おまえのお姉さん、お菓子作りの達人だろ?

 そしたら鈴那たちがこっちの方がいいだろうって」

「ごめん……ありがとう」

 ぼくは驚きながら、花束を受け取った。

「気を使わせてごめんなさい」

 姉貴がぼくのお母さんのようだよ。

 ぼくから花束を受け取って、姉貴はみんなに言った。

「お姉ちゃんは奥でお昼の用意してきちゃうから、この人数だとかっくんの部屋は狭いでしょ?リビングに行ってもらえば?」

「うん、そうだね。じゃ、みんなこっち」

 ぼくはみんなを奥のリビングへと案内する。



「かつみ先輩はお姉さんから『かっくん』って呼ばれているんですか?」

「うん、まぁ。ぼくがこんな感じだからね」

 唯は完全にぼくの苦手なタイプだな。

「唯。かつみはそうやって詮索されるのが嫌いなんだって言ったでしょ?

 なんでもかんでも訊かないの」

「はーい。すみません、先輩」

 へぇ――鈴那って、結構ぼくのこと知っているわけか。

 唯も意外と素直で助かった。まぁ。ぼくの前だから猫をかぶってるだけかもしれないけど。女子はそれがあるから、ダメなんだ。



「かつみ。みんなに飲み物とか運ぶだろ?」

 修平が訊いてくる。

「うん、そうだね。ここがリビングだから、好きなところに座って待ってて。

 修平、手伝ってよ」

「おう」

 さっきまでのノリで、ぼくは手伝ってくれていた修平に声をかけ、二人でキッチンに行こうとした。

「俺も手伝う。この人数じゃ二人で運ぶの無理だろ?」

 突然久遠が名乗りを上げる。

 まぁ……それも助かるけど。

「うん。じゃ、お願いするよ」

「ああ」

 この間から久遠が少しおかしいっていうか。ここはぼくがいた世界と違うわけだから仕方ないかもしれないけど。どうおかしいって……なんか妙に積極的というか、なんと言うか。

 それを言うと修平もなんだけどね。



 キッチンに行くと――姉貴が幾つかのトレイにわけて紅茶やら、あの数々のお菓子を盛り付けた皿やらを乗せて運ぼうとしているところだった。

「あら、手伝ってくれるの?」

「はい。これ、俺が持ちます」

 一番重そうなお菓子の乗ったトレイを久遠が持ち上げる。

「さっきのリビングに運べばいいか、かつみ」

「うん。ありがとう久遠」

 ぼくがそう言うと、「いいさ」と笑顔で久遠はキッチンを出て行った。

「じゃ、俺はこっちを運ぶな」

「うん、修平もごめん」

 修平も久遠に続いてキッチンを出て行く。



「……久遠くんって本当にイケメンねぇ」

 二人がいなくなったところで、姉貴がぼくに話しかけてきた。

「うん。久遠は女子からも相当人気あるから」

「そう。確かにあれなら納得のイケメンだわ」

 姉貴の言う納得のイケメンって、どんなイケメンなのかは訊かないけど。

「かっくん……たぶん久遠くんはかっくんのことを好きなんだと思うな」

「はぁっ!?」

 と、突然なんてこと言うんだよ、姉貴っ!!

「ねぇ、かっくん。ここは『乙女ゲーム』の世界じゃない。そういう目的のゲーム……ということじゃないかしら?」

「……え」

 真顔の姉貴に、ぼくはここが『銀色の翼にのって君のもとへ 3』という『乙女ゲーム』の中だと今更ながらに思い出す。

「あのリビングにいるみんなが、かっくんに興味があって、みんながかっくんと恋愛する可能性がある子たちばかりと言えない?

 だったらこの世界の久遠くんも、修平くんもかっくんを大好きでも何もおかしくないわ。

 そういう世界なんだから……」

「……」

 ぼくは何も言えない。

「かっくんが嫌なら、彼らから逃げ回るしかない。それもあり。誰かに興味があるなら、その子とお付き合いするのもあり。

 それはかっくんの自由。この世界の主役はかっくんだと思うの。

 『銀君3』の主役である紅ちゃんの役目が、今のかっくんだと思うから」

「ぼくは……」

「焦らないで。時間はまだある。今日は彼らを観察するつもりで接すればいいと思うな。

 お姉ちゃん、こういうゲームばっかりやってたでしょ?だから、攻略法もよく知ってるの。焦らないで、かっくんがどうしたいか見つかるまでは、普通に接すればいいと思うわ」




 姉貴に言われて、ここがどういう世界だったかを気がつかなかったなんて。ぼくは本当にマヌケ……。



「おーい、かつみっ!!どうしたぁっ!?」

 修平の声。

「……うん、ごめん。今、行くよっ!!」

 ぼくは答えた。

「大丈夫、かっくん?」

「うん。大丈夫だよ……」 

 心配そうな姉貴にぼくはしっかり頷いて、姉貴が入れてくれた紅茶をリビングまで運ぶためにキッチンを出た。

 


 

 そうだ。今は気をしっかり持たないと。

 ぼくがどうしたいか、ちゃんと考えるために――。そう、思った。

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