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第6話 鈴那とこの世界のこと

「……ぼく……」

 どうなるの?そう言おうとして……口は動いたのに、声が出なくて。

 


 急に目の前が白く――体がどうなったかなんて自覚のないまま。

「かつみ、おい、かつみっ!!」

 修平の声がどこか遠くに聞こえた。



 悲鳴?なんだろ。周りが騒がしい気がするけど。すごく体がだるいんだ……。



 朦朧とする意識の中で。修平の顔がすぐ近くにあったことだけはなんとなく覚えている。

 きっと修平がぼくの体を抱き上げて――そっか。ぼく、倒れたんだ。でも、なんで?

 そのまま。ぼくは意識を失った。



◆◆◆



「大丈夫か?」

 また修平の顔がそばにある。

 


 ぼくはベッドに寝かされていて、ここは保健室――だとなんとなく感じた。



「……ぼく」

「一気に階段を駆け上がっただろ?酸欠を起こしたんだと思う」

 修平は笑顔でぼくに優しく答えてくれた。

「一応、熱測るか?」

「大丈夫だと思う……」

「でもいちおな」

 修平の顔が一段を近づいて。

「しゅうへ……」

 ぼくと修平のおでこがぴたりと合わさる。

「……熱は大丈夫だな」

 え?修平ってこんなやつだったっけ?

「何、恥ずかしがってんだよ。こんなのいつものことだろ? 

 小三までおふろも一緒に入ってただろうが」

 はいっ?これ、修平っ!?

 違うよ、やっぱ。これ、修平じゃないよっ!!

「……そ、そうだけどさっ!!」

 どうしてぼくの方が恥ずかしがってんのぉ!?

「こんなとこは女っぽいのに」

 はははとぼくの知ってる修平の笑顔で、修平らしくないセリフを吐く修平。なんだそれ?



「かつみっ!!」

 息を切らして保健室に入ってきたのは久遠。

 

 

 はぁ、はぁ、はぁと肩を大きく上下させながら、ぼくが寝ているベッドに足早にやってくる。

「倒れたって聞いた。大丈夫なのか?」

 荒い呼吸の合い間から、そんな言葉を一気に話す久遠。

 久遠の方が大丈夫か?

「軽い貧血みたいだ。熱もないし、顔色もさっきより良くなってる。

 もう少し寝ていれば大丈夫だと思う」

「……よくわかるな……おまえ」

 ぼくの様子を説明した修平に、久遠がどこか不満そうにそんなことを口にした。

「幼馴染だからな。わかるよ」

「そうか。そうだったな……」 

 ねぇ。なんとなく二人が、険悪なムードに感じるのはぼくの思い違いかい?



「本当に大丈夫か?」

 久遠が逃げ場のないぼくの顔に、なんの躊躇もなく顔を近づける。

 やっぱおかしいよ、こいつらぁっ!!

「……顔色は悪くないみたいだな」

「だろ?帰ったら医者にでも連れてくよ」

 おまえはぼくのなんなんだ、修平っ!?

「かつみ一人でも行けるだろ」

 どこまでも久遠は不機嫌。なんか怖いんだけど……何、こいつら?

「ありがとう二人とも。ぼくはもう大丈夫。

 もう教室に戻ってよ。それに今、何時?」

「倒れてから十五分ぐらいしか経ってないよ。

 どうする、起きれるか?」

 修平が答える。



「うん。起きる」

 ぼくが起き上がろうとすると、久遠はぼくの体を抱き上げてゆっくりと上半身を起こした。

「だ、大丈夫だってば……」

「いいから。どうだ?」

 もっと久遠の顔が近づいたような。

「うん。少し眩暈がするけど、大丈夫だ」

「いや。だったらもう少し寝ていた方がいい」

 こう答えたのは修平。なんなんだよ、本当にもうっ。

 


 ぼくが何も答えないうちに、久遠が今度はぼくをベッドに寝かせた。

「大人しく寝てろ。先生には俺から言っておくから」

 イケメンなのはわかるから、そのとろけるような笑顔をやめぃっ!!

 ちょ……口がつきそうだよ、久遠。近い、近い、近い!!

 


 久遠が体を起こしてぼくから離れると、今度は入れ替わるように修平が今度はぼくに近づいた。

「一時間目終わったらまた来るから。それまでゆっくり寝てろ」

 久遠ほど近くはないけど――ぼくは修平に毛布を顔の半分までかけて、小さく頷くのが精一杯だった。

「……よし」

 嬉しそうに笑う修平。こいつらどっかおかしいよっ!!変だっ!!



 二人が保健室から出て行って。

 ぼくはほぅと小さくため息をついた。

 何かから解放されたって感じで……。



「……そっか……」

 ぼくが倒れる原因になったこと。

 この世界が『銀色の翼に乗って君のもとへ』というゲームの世界にそっくりだってこと。

 いや。そのものかもしれない。ただ、ぼくのいた世界の設定に置き換わっているみたいだということ。

 ――姉貴は大丈夫かな?

 


 でもどうしてこんなことになったんだろうか……。

 考えられてのは、昨日の地震だ。あんなに揺れたのに、ぼくの家だけだったみたいだし。

 もうあのときから何もかもが、おかしくなっているのかもしれない。

 嫌だな。帰ったら、姉貴までこのゲームの中の住人みたくなっていたら……。

 


 ぼくはベッドの周りを見回す。

 ダメだ。ぼくのカバンは教室にあるのかもしれない。

 どうせなら、姉貴に連絡してみようと思ったんだけど……。



「はぁ……」

 こういうことになるんだったら、あのゲームを最後までやっておくんだったな。

 これからどうしよう。ぼくがあのゲームのことをそこまで詳しくない。



「……そっか。姉貴が詳しい……」

 そうだよ。もとはと言えば、姉貴がぼくに押し付けたんじゃないか。

 どうしよう。今だったら、忘れ物したとか言って帰れるかな。

 


 そこまで考えると、ぼくはいても立ってもいられなくなった。

 姉貴のことも心配だ。

 朝も不安そうな顔をしていたし。

 ぼくは勢いよく体を起こした――と、少し眩暈。

 まだだるさも残ってるみたい。こういうときに面倒だ。

 それも無視して、ぼくはベッドから完全に起き上がって上履きを履く。

 


 そして保健室の扉を開けようと、その取っ手に手をかけようとして。

 


 突然扉がガラっと開いた。



「なんでかつみが起きてるのっ!?」

 目の前には須藤鈴那。どうして君がここにいるっ!?

「ダメよ、ちゃんと寝てなきゃっ!!」

「ちょ。ぼくはもう大丈夫」

「ダメっ!!保健委員の私に従いなさいっ!!」

 ぐいぐいとぼくは須藤鈴那にベッドに押し戻されてしまう。

「もう。岡本くんと高梨くんに頼まれて様子を見に来ればこれだもの。

 私が見張っているから、ちゃんと寝てなさいっ!!」

 


 こんなときに、体が本調子でないことが恨めしい。

 その上、なんでこいつがここに来るんだよ……。



「もう。かつみは放っておくとすぐ無理するんだから。

 自分の体を労わらなきゃ」

「……わかってる」

 ダメだ。このままじゃ、こいつらに流されてく。

 今は焦ってはいけないのかもしれない。

 



 ぼくはベッドで横になりながら、ベッドの横でいすに座り、自分のスマホをいじっている須藤鈴那を横目で一瞥しつつ。これからのことに考えを巡らせていた。


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