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第4話 右京と交換

「え……かつみの家に?」

 そう言って驚いたのは岬だった。

 昨日の夜に姉貴と話したことを修平や久遠、右京……そして岬に話してみた。



 それは翌日の昼休み。

 給食を食べ終わり――ぼくたちは久遠の机の周りに集まって、いつものようにおしゃべりをしていた。

「……行く行くっ!!すごく行きたいっ!!」

 予想はしていたけど。岬は興奮した様子でこの話に食いついてきた。

 ぼくも嬉しいんだけど……。気になるのは修平が複雑そうな顔をしていること。

「……それ、奈菜実さんから言ってきたのか?」

「岬もここに転校してきたばっかで、何かと大変だろうし……仲良くなるにもいいんじゃないかって、姉貴が」

 なんか岬の話になると、修平の機嫌が悪くなるような気がする。今朝もまた迎えに来てくれたときもそうだったんだよな。

 修平はそんな、人見知りするやつじゃないんだけど。

 岬みたいなやつはダメなのかなぁ……。



「なんか裏を感じる」

「え?どう言う意味?」

 ぽつりとそんなことを言った修平に、岬が不思議そうな顔をして見ていた。

 そんな顔は本当にただの可愛い女子だよ、岬。

「……かつみの姉さんは乙女ゲームは大好きだし、それにBLが好きな腐女子なんだろ?

 岬の話をして、どんなやつか興味を持ったんじゃないか?」

 渋い顔の修平を見て。ぼくは唐突に思い出した。

 そうだよ……姉貴はそういうやつじゃないか!!



「……おまえの姉貴ってそんな危険人物なのか?」

 そうか。久遠や右京は一度遊びに来たことがあったけど、そのときは姉貴が留守だったときだ。

 そうだった……。あのときもどうして自分がいるときに連れてこなかったって、姉貴に駄々こねられて大変だったっけ。

「うん。そうだよ……ぼくの姉貴はそういうやつなんだ。

 この間もくだらない乙ゲーを押し付けられそうになって困ったんだ……」

「そういうわけだ、藍森。こいつん家の姉貴は美人だけど、なかなか残念な美人さんなんだ」

 修平がぼくの代わりに、岬に説明してくれた。

「ううん。ぼくはかまわないよ」

 岬は笑顔で――修平の心配を一蹴した。

「いや……本当に」

 ぼくに気を使いながらも、修平は岬を説得しようと試みる。

「いいよ、修平。ぼくの姉貴は本当に危ないんだ。

 この間も修平にぼくとお……」

「かつみっ!!!」

 教室に響き渡るほどの修平の大声。

 修平に代わって説明しようとしたぼくに、修平は突然叫んでいた。

 さすがにぼくも驚いたけど。そして、自分は今、何を岬に言おうとしてたんだ……と思い直す。

 それに、叫んだ修平の顔は真っ赤だ。そして気がついたぼくも、頬がすごく熱い。



「おい……おまえたち。何があったんだ?」

 疑いの眼差しで右京がぼくと修平を交互に睨んでる。

「な、なんでもねぇよ。この間遊びに行って、子供の頃のことを奈菜実さんにからかわれただけだ。

 俺が恥ずかしいから、思わず叫んじまった……」

 修平はぼくには何にも言わせないで、右京には自分から言っていた。

「……そうなのか、かつみ?」

「うん……そうだね」

 久遠に訊かれて、ぼくは曖昧に答える。

 


 でも小学三年まで一緒におふろに入ったことがある。なんて言ったら、久遠も右京もどんな反応をするんだろう?

 恥ずかしいから絶対に言わないけど。



「かつみと岡本くんはどんな関係なの?」

 岬からこう訊かれて。

「家が近所で、この二人は幼馴染なんだそうだ」

 答えたのは久遠だった。

「へぇ……いいなぁ。すごく羨ましい」

 岬はぼくと修平を眺めてはため息をついた。 

 羨ましいって……。確かに修平はぼくとすごく気が合う大事な親友だもん。

 それはぼくもそんなやつがいてくれて嬉しいけどさ。

 改めて言われてると、すごく恥ずかしいな。



「そうだ。こんな話をしてる場合じゃないよな。

 次は『メガネ』の授業だろ?宿題やってきたか?」

 会話が一瞬途切れたあと。

 右京がこんな話を始めた。

 


 『メガネ』というのは、ぼくたちのクラスの副担任で社会担当の奥谷正也先生こと。

 くそ真面目で、まったく融通のきかない性格なのであだ名は『メガネ』。

 それにすぐに、かけてるメガネのブリッジを「くいっ」て上げるんだ。くせなんだろうけど、授業中にそれを何回やるかって数えてるバカもいる。

 でもそんな性格じゃなきゃ、なかなか顔はイイ方なんだから、女子にもっと人気が出そうなのにね。今でも少しは人気あるけど。男子にはウザキャラ扱いされてるやつ。

 それに『メガネ』は宿題を大量に出すから、実際はもっとウザい。



「ああ。俺は終わってる」

「うん。ぼくも」

 久遠とぼくは右京に真顔で答えた。だって終わってるし。

「学年でトップのかつみと、二位の久遠には期待してねぇよ。

 修平はどうなんだ?」

「俺もなんとか終わってるな。

 五月の連休の始めに終わらせたぜ」

 修平も右京に苦笑いを浮かべつつ、そう言っていた。

「面白くねぇな。まぁ……俺も終わってるけど」

 なんだ。右京も終わってるんじゃないか。

「……え?かつみと高梨くんって、そんなに頭がいいの?」

 岬がそこに食いついた。

「ああ、まぁ。こいつらは一年のときから、ずっと一、ニ番を争ってる」

「二人とも……すごいんだ」

 修平の話に驚きながら、岬はぼくと久遠をじっと見つめている。

「全然。サッカー部の副部長までやりながら勉強でもすごい久遠に比べたら、ぼくなんか」

 それは本当のこと。

 久遠はこの他にクラスの学級委員までやってるイケメンだもん。

 女子に一番人気あるはずだよね。

「そんなことない。普通に授業を真面目に受けてれば、点数なんて自然ととれる」

 本当は照れてるくせに。それを無理矢理に隠して、不機嫌気味の久遠。

 必死に塾に通っても、君より勉強の出来ない連中が聞いたら、激怒しそうなセリフだけどね――久遠。

「ううん、すごいよ高梨くん。ぼくは君を尊敬するな」

 岬の笑顔に、恥ずかしそうな顔を見られまいと顔を横に向ける久遠。

 でもこいつら男同士――なんだよね。



「あ、そだ。俺、いいこと思いついたわ」

 ここで右京がつぶやいた。

「かつみと藍森って、身長が同じなんだろ?体つきも一緒っぽいな」

「……そうなのかな?」

 岬が自信なさそうにぼくを見た。そんなこと言われても、ぼくも知るわけがない。

「おい、かつみ。おまえの制服貸せ」

「は?右京ってそういう趣味?」

 右京がにやにや笑いながら、ぼくに尋ねてきたので、ぼくはなんとなく右京の企みを見抜いてわざとそんな質問をしてみた。

「バカかっ!!違うっ!!ちょっと借りるだけだ」

 右京も意外と真面目なんだよね。ぼくにこう言われて顔が真っ赤になってる。

「何する気だ……おまえ」

 修平もなんとなく、右京の企みに気付いたらしい。

「次の『メガネ』の授業に、あいつがどんな顔をするか……楽しいと思わないか?

 もちろん、藍森の返事しだいだけどな」

 右京はそう言って、にやりと笑った。



◆◆◆



 五時間目。

 


「……このクラスの転校生は女子だったんですか?」

 いつもは冷静な『メガネ』こと、奥谷先生。

 あんまり岬がぼくの……女子の制服が似合っているので、一瞬言葉を失って。

 その様子に、クラス中が大爆笑となった。



 そのあと、まだ転校してきたばかりの岬は別として。

 主犯の右京に、制服を貸したぼく。共犯として久遠と修平が罰として、奥谷先生が尊敬するという南川健二の『三国志演技』の一巻~四巻を、割り当てられた巻を一人ずつが読んで、読書感想文を書いてくるという宿題が追加された。




 右京のバーカ。ま。楽しかったけどね……。





 そして今度の日曜日。

 うちの姉貴には十分気をつける。という暗黙の了解のもと、岬と久遠、右京も交えて、四人がぼくの家に遊びにくることになったんだ。


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