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第11話 修平と新キャラ

「どうしたんだよ、おまえ」

 みんなが帰ったあと。

 なかなか帰らない修平がぼくに言った。



 姉貴が夕飯も作ると張り切っていたので、みんなは姉貴の作る美味のご馳走を想像して「是非」という話になった。揚げ物だったけど、いつもより豪華だったし、力がこもってたと思う。みんなも満足してたからね。

 そのあと。女子たちもいるし、八時前までにはみんな帰っていった。

 


 今は午後九時を過ぎている。

 片付けまで手伝ってくれた修平がぼくの部屋へと押しかけて、そんな話をし始めた。

「……別に……」

 ぼくだってそう答えるしか言葉が浮かばない。

「今日のおまえはおかしかった。俺にはわかるんだからな。おまえ、絶対なにかあっただろ?」

 いやだな。こういうときの幼馴染って。

 修平。ぼくは君にどう言ったらいいの?

 


 何も言えなくて、ぼくは修平をただ見つめることしか出来なかった。

「俺には話せないのか?誰にも言わない。俺はおまえの味方だから……」

 喉まで出かかる言葉。ここはぼくたちの住んでいた世界じゃない。

 ゲームの中の世界なんだよ――って。修平はわかってくれるのかな?

「……あ……」

「かっくーん、入るわねぇっ!!」

 ぼくが口を開きかけたとき。

 姉貴の声が聞こえた。

 普通ならノックをするのに。このときはダイレクトでドアを開けてきた。

「あら。修平くんもいたのね。宿題の話?」

 にこにこと笑う姉貴の笑顔に、修平の毒気が抜けていくのがわかる。

「ああ……いや。まだ調子が悪そうに見えたので……」

「ありがとうね。実はお父さんたちが夏休みに戻ってくるって言っていたのが、遅れそうって話をしちゃったからかな?そうなの、かっくん?」

 姉貴。ぼくたちの話を聞いていたんだ。

 ぼくは大きく首を上下させた。咄嗟にそんな嘘を思い浮かばなかったよ。

「こういうと、修平くんのお母さんたちも心配させちゃうから、内緒でね」

 姉貴は当たり前のように、修平に笑顔で念を押す。……普段は頼りなく見えるのに。

「いいえ。そうだったんだ……逆にごめんな、かつみ」

「ううん、いいよ。ぼくもどう言っていいかわからなかったんだ」

「そうか……じゃ、俺も帰ります。長い時間お邪魔してすみませんでした」

 修平は姉貴にペコリと頭を下げた。

「ありがとうね、修平くん。これからもかつみと仲良くしてね」

「はい……それは」

 姉貴に言われて修平は照れくさそうに不器用に笑うと、ぼくの顔を見た。

 ぼくも自然と笑顔で頷ける。これは姉貴に超感謝。



◆◆◆



「はぁ……」

 修平が帰って。

 ぼくは修平を見送ったあと、リビングのソファにどっと倒れるように腰掛けた。

「今日は本当にありがとう、お姉ちゃん」

「ううん。でも大変なのはこれからね……なんかゲームの世界でしか見なかった子たちがこうして現実にいるのは本当に変な気分だったわ……」

「ぼく……恋愛シュミレーションとか苦手だよ。

 久遠とかすごく困るし、超面倒なんだけど……」

「なに贅沢なこと言ってるの……」

「だって久遠は友達だよ?親友の一人だよ?それがいきなり〔恋愛モード〕で迫られても、戸惑うだけだって」

 なんでか呆れた顔をしている姉貴に、ぼくは力説する。

 だってそうじゃない?だって親友からいきなり「おまえが好きだ」(言われてないけど)とか言われても、「はぁ?」って感じなだけじゃん。

「かっくんはそうでも、久遠くんはそうじゃないんじゃないの?

 ずっとかっくんを恋愛対象で見ていたんじゃないかしら?」

「そうかなぁぁっ!?」

 でもここは乙女ゲーム『銀色の翼に乗って君のもとへ3』――略して『銀君3』の世界の中だから仕方ないのか……ああ!!マジに何にも考えられないっ!!



「荒れてるわね……かっくん」

 無言で頭を抱えたぼくを見て。姉貴がそんなことをつぶやいた。

「マジでこれからどうしようっ!?傍観するって言ってもさ。ぼくどうやってあいつらから逃げればいいの?」

「かっくんは恋愛には興味ないの?」

「ないよっ!!女子まで恋愛対象って言われても、わかるわけないじゃん!!そんな趣味、ぼくにはないよ」

 姉貴にぶつけるように言ってしまう。姉貴が悪いわけじゃないんだけど。

 でもどうしていいかわからないんだ。

「かっくん……もし告白されても、「その気はないから。友達でいよう」って言えば、その攻略対象は対象からはずれるわ」

「……え?本当っ!?」

 姉貴の話に、ぼくは一気に生気を取り戻す。

「本当。でもそれは早めの告白モードが起こったときに出来る方法。

 酷い話だけど、相手の気持ちを盛り上げて、早めの告白モードに持ち込む手がある。

 そしてその場で断れば、二度とその相手とは恋愛モードになることはないから」

「そんな手段があったのかっ!!」

 そうすれば、久遠たちとも友達でいられるってことだ。

「ねぇ、かっくん」

「何!?」

「それ、全員とするの?」

「……」

 全員って――今日来たメンバー全部だよね?

「かっくんはそんな器用に思えないなぁ。ゲームの中なら出来るだろうけど、現実ってそう簡単ではないし、ああして唯ちゃんと瑞羽ちゃんが早めに出てきているから、ゲームの進行がすでにずれてる。

 それを考えると、ゲーム通りに進むと思えないな」

 姉貴――妙に冷静だな。

「でも……」

「はずかしいかもしれないけど、しばらくは傍観していた方がいいと思う。

 ただ久遠くんみたく、もうかっくんにアプローチしてきてるメンバーには時間を稼ぐ意味でも有効な手段かもしれない……と思ったの」

 さすがは姉貴。この道の専門家――と言うことか。

「……うん。考えてみる」

「ねぇ、かっくん。例えばね、このゲームで何かしらのエンディングを迎えたら、もとの世界に帰れる……ってことも考えられるかなぁ……なんてお姉ちゃんは思ったんだけど」

「!!……それもアリ?」

 ぼくはソファから腰を浮かしかけた。

「わからない。でもゲームの世界でしょ?恋愛シュミレーションなら誰かとそれもあり得るかなってこと」

「……えええぇぇっ!?ぼく出来ないよぉーっ!!」

 そんなぁ。ぼくにそんなこと出来るわけないよっ!!心から、叫んでしまう。

「かっくんには難しいかなぁ。ハッピーエンドの他に、誰ともエンディングを迎えない卒業エンドもあるけど……これから一年近く、のらりくらりと彼らをかわし続けるしか方法がないわねぇ」

「一年……」

 卒業エンドはぼくも知っていたけど――それでも一年は長い。

「でもこのゲームを攻略しないといけない、ということもないんだよね?」

「そうね。これは私の考えだから……。

 そういうこともあるのかなって思ったの」

 姉貴の考えにも一理ある。これはゲームの世界だもの……クリアすればもとの世界に戻れるっていうのもあるわけだ。

 だとすると、一体どんなエンディングが一番早く戻れるのか?

 ハッピーエンドが早いんだろうけど……。

「……だからかっくん。そう思い悩まないで!!

 これは私の考えだからって!!ね?」

 ずーんと沈んでいたぼくの様子を見て、姉貴が堪らず叫んでた。

 


 と。ぼくはここでひとつの考えが閃いた。

「お姉ちゃん。確か『銀君ぎんきみ』の他のシリーズで、この『3』に近い話ってどれ?もしかしたら、そこにヒントがあるかもしれない」

「一番近いのは『4』ね。

 主人公は一本槍蒼麻くんの従姉妹で、今度は正統派ヒロインって感じの『二色野香音にしきのかのん』ちゃんなの。

 その子が紅ちゃんと同じように恋愛していくんだけど、女の子同士のエンディングはなくなるわね」

 ……もとからある方がおかしいだろう?

「攻略対象の男の子たちの数が、隠れキャラを入れて二十人になるの。

 二年から卒業までの二年に期間が長くなるんだけど、部活の先輩とか一年しか期間がなくてなかなか全部の攻略が大変なのよ」

 この『銀君』のゲーム開発者って頭おかしいんじゃないか?

 話を聞いているだけで、ヒントもへったくれもないような気になってくる……。

 でもそうも言っていられない。

「とにかくそれ貸して。ぼくやってみるよ」

「そうね。悩んでても仕方ないし……」

 ぼくは姉貴の部屋へと一緒に向かう。

 でも――。



「ないっ!!どこにもないわっ!?」

「ないって……」

「『4』だけないのよっ!!『5』以降はあるのに……」

 ずらりとその系のゲームが並んだ棚の前で、ぼくと姉貴は顔を見合わせた。

 すごく嫌な予感がするのはなんで?



「ねぇ……本当に大変なんだけどさ。一応『4』に出てくるキャラと、そのイベント関係をまた紙にでも書いてもらってもいい?」

「そ……そうね。この場合『そう考えた方が』いいわね……」

 でも。二十人もキャラが増えたら堪んないぞ!!

 どうなってんだ一体っ!?



◆◆◆



 姉貴がそれを完成させたのは夜中の十二時を回っていた。

 姉貴には悪かったけど――仕方ない。

 レポート用紙十枚以上の、ちょっとしたレポートのようだ。

 しかもイベントの数増えてないか?

 姉貴の話では、これは『4』はあまり評判がよくなかったらしい……。

 当たり前だよ。キャラ多すぎ。そのせいで、いたずらにイベントも多くなってる。

 ぼくから言わせたら、クソゲーに拍車をかけてどうすんだって感じ。

 


 とりあえず全部に目を通したけど、これといったヒントになるようなものがない。

 でも『3』と合わせて覚えておいてもいいと思う。

 ここでは何が起こるか、わからないから――。



◆◆◆



「おはよう……」

 完全な寝不足。寝たのは三時ごろだったかな。

「……寝てないだろ、おまえ」

 朝迎えに来た修平の朝のあいさつのあと――最初の言葉がそれ。

「遅くまで電気ついていたからな……」

「ちょっと……ね」

「おまえのお父さんたちの帰りが延びた……それだけなのか。おまえの悩み?」

「うん。しつこいぞ……修平」

 寝不足の頭で、いろいろと考えたくないんだ。

「……違うだろ?」

 一緒に歩いていた修平の足が止まる。

 ぼくもいい加減うんざりしてきた。

「そうだよ。ぼくは君の知っているかつみじゃない、別の世界のかつみ。

 急にこの……違う世界っての?そこに来ちゃったんだ。

 だからもとの世界に戻りたくてしょうがないの……だから悩んでるの。これでいい?」

 考えてみれば、こんなバカな話を信じるわけがない。はじめからこうして話してしまえばよかった。

 



 修平は目を見開いてぼくを見ている。

 何を話しているんだ、頭は大丈夫か?ってな感じだよね。



「……そうか」

 ほら。もうこれで訊いてくることはないだろう。

「それでもおまえはかつみだよ。俺の知ってるかつみだ。おまえがどこの世界から来たやつだって、俺はおまえの味方だから。約束するよ」

 


 今度はぼくがびっくりする番だった。

 ……修平って。こんなおバカなやつだったか? 

 普通にこんな話、信じるはずないだろう?どうして疑いもせず、ぼくの話を鵜呑みにするんだよ?

「あのさ……」

 ぼくが言いかけると、修平が歩き出した。

「わからないことがあったら、俺が教えてやるから。

 協力が必要なら、とことん力になる。だから一人で悩むなよ」

「……修平」

「行くぞ。遅刻するからな」

 ぼくに背中を向けて、修平は歩き出した。

「ありがと……修平」

「いいよ。おまえが元気になるなら……だから、なんでも話せよ」

 どこまでぼくの話を信じたのだろう?

 そんな修平の背中が大きく見えるけど。また背が伸びたのかな?

 ぼくは修平に置いていかれないように、慌てて駆け出した。



◆◆◆



「かつみせんぱーいっ!!」

 学校の靴箱の前で、唯に会う。

 ……朝からこのテンションは辛いなぁ。

「昨日は本当にありがとうございましたぁ!!」

 そう言って元気に頭を下げる唯の後ろから、瑞羽と……もう一人。

 栗色の長い髪をツインテールにして、たれ目の大人しそうな感じの女子がいた。

「おはようございます。昨日はお世話になりました」

 瑞羽もぼくに頭を下げる。

「いいよ。それより帰りは大丈夫だった?」

「はいっ!!途中まで久遠先輩たちに送ってもらいました」

 代表して唯が答えた。

 朝から元気がいいなぁ……この子。いつもこのテンションなのかな?疲れる。

「それより後ろの女子は?」

 訊いたのは修平。

 訊かないわけにはいかないけど、なんかすごく嫌な予感がして出来ればスルーしたかったような……。



「私たちと同じクラスなんですよ。ね、カノン」

 唯がツインテールの女子に言った。って……今、その子の名前をなんて呼んだ?

「はじめまして、新里先輩。私は『二色野香音にしきのかのん』っていいます」

 笑顔が似合う、とにかく可愛い女子。芸能人って言っても、全然通りそうなぐらいだ。この子が『二色野香音』……。


 

 でもそうしてこの子が『ここ』にいるんだよ……?

 『二色野香音』が出てくるのは、『銀色の翼に乗って君のもとへ4』だろ?

 


 どうなっちゃってるんだよ、この世界――。



「……かつみ」

 修平が心配そうにぼくを見ている。

「うん……大丈夫だよ」

 本当は全然大丈夫じゃないんだけど。

 でも……なんとか気力を保つ。こんなとこでめげていられない。

 資料は全部、目を通した。ぼくは負けないんだから……。


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