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第10話 唯と違和感

 姉貴の作ってくれたお菓子の前菜――というのかな?

 まずは軽めのクッキーなどの焼き菓子類。

 お昼前だから、食べ過ぎても仕方ないという気配り。

 でも昼食のあとは、2種類のケーキが待ってるんだけどね。

 修平は知ってるけど、とりあえずはあとのお楽しみとして黙ってくれている。



 リビングにぼくの部屋のゲーム機を持ち込んで、男子たちはゲームに夢中。

 はじめは女子たちもそれを見ながら盛り上がってたけど、だんだん自分たちの話にのめり込んでいく。

 鈴那のことを全然知らないぼくとしては、逆に唯と瑞羽に来て貰って助かったのかもしれない。

 だって女子とは話が絶対合わないもん。それでもなんとか情報を得るために、女子たちの会話に加わっていた。すごい苦痛だけど……。



 ニ人は鈴那が所属する美術部の後輩たちらしい。

 それも遠まわしにぼくが聞き出したことなんだけどね。

 もっと姉貴が書いてくれた資料を、見ておけばよかったと後悔した。

 まさか、今この二人が出てくるなんて思ってなかったから……。



「本当にお姉さんの作ったお菓子は美味しいです!!」

 唯は何事にも大げさに話す。

「だって、本を出さないかって言われるぐらいの腕なんだもんねぇ」

 ……鈴那って、どれぐらいぼくのことを知ってるんだろう?

 姉貴の話では、もともと主人公の紅に色々と情報を提供してくれる役目のキャラらしい。

 それが二学期から攻略可能キャラになるって、このゲームの目的がわからない。

 なんだか男子にも結構人気のあったゲームらしいんだけどね。




「……疲れた」

 三人かけのソファに座っていたぼくの隣に、ゲームの一息ついたのか久遠がやってきた。

「何を話してんの?」

 クッキーに手を伸ばしながら、久遠はぼくたちの話に加わってくる。

 いくらぼくのいた世界にリンクしていても、こうして知らないキャラたちもいたら、情報収集もしないといけないぼくには、久遠の登場は少々タイミングが悪かった。

 でもここで嫌がっても仕方ない。

「かつみ先輩のお姉さんがお菓子作りのプロだって話です」

 唯はなんか調子良さそうだなぁ。それに比べて、瑞羽はもくもくとクッキーやマフィンなどの焼き菓子を食べている。

「……瑞羽は甘い物好きなの?」

「大好きです」

 面白い子だ。ぼくの質問に、ぼそっと答えたけど。声とは逆に顔は嬉しそうなんだよね。

「ぼくも。でもぼくはチョコが大好きなんだよね」

「……これだろ?」

 そんなタイミングを待っていたかのように、久遠ががさごそと持ち込んだバッグから、コンビニの袋を取り出した。

「あっ!!もしかして……」

「『マツタケの山』。おまえが最近はまってるミルクティ味もあるぜ」

「やったっ!!ありがとう」

 久遠から袋を受け取って、ぼくは中を漁り出した。

 それも『マツタケの山』が五箱もっ!!味も三種類ある!!

 ぼくのテンションは一気にMAXまで上がってしまう。

「こんなに……ありがとうっ!!すごい、嬉しいっ!!」

「ははは。いつものかつみだ」

 久遠が笑っているけど、ぼくは『マツタケの山』に夢中だ。

「……本当に『マツタケの山』が好きなんですね。私は『チクリンの里』の方が好きです」

 瑞羽には瑞羽のこだわりがあるみたいだけど、ぼくもこれだけは譲れない。

「うん。『チクリンの里』も美味しいんだけど、ぼくはこっちの方がずっと好きだね」

「かつみは『マツタケの山』以外は、チョコと認めないってぐらい、大好きだからな。

 何言っても無駄だよ」

 久遠が肩をすくめながら瑞羽に話す。

「そんなに好きなんですね……」

「うん。大好きっ!!」

 瑞羽に呆れられたように見られたけど、そんなことは関係ないっ!!

 まずはミルクティ味の箱を開けて、さっそく一個を口の中に放り込んだ。

「美味しいよねぇ」

 嬉しそうなぼくの顔を見て、久遠が「だろ?」と満足そうに見ていた。



 それを見ていた修平。

 なんだか少し不機嫌そう。修平と久遠って喧嘩でもしてたっけ?

「かつみ。あんまり食べ過ぎんなよ」

「……うん、わかってる」

 修平がこのあとぼくの大好きなチョコのケーキが待っていることを知って、そんなことを言ってくる。

 今日は食べ過ぎないようにしないと。ぼくもちょっと食べるのを控えよう。

「いいじゃん。好きなもん食べて悪くないだろ?」

 そう言ったのは久遠。

 こいつら……なんか変だよな。

「まぁまぁ。これだけ美味しいお菓子が並んでるんだもん。

 『マツタケの山』はあとで食べてもいいじゃない」

「そうだね。学校でみんなで食べてもいいよね」

 岬のフォローでぼくも開けた箱を閉めて、袋に戻す。

「俺も一休みしよ……」

 急に修平が立ち上がり、ぼくを真ん中に、ソファの左隣に座った。

 右に久遠。左に修平……なんか居心地悪いな。



「何、かつみの取り合いしてんだよ。かつみが困ってんじゃん」

 右京が立ち上がり、ストレートな言い方で、久遠と修平を睨んでる。

 ってか、ストレートすぎるってっ!!

「そんなつもりはねぇよ」

 久遠が右京を睨み返して、ぼくの隣から立ち上がる。

 なんだよ。この嫌な雰囲気。

「かつみ先輩、人気ありますねー。超うらやましいんですけどっ」

 唯のフォローなのか、違うのか。一気に場の空気が和む。この場合は感謝かな?

「うん。かつみ先輩は私たちの中でも、高梨先輩や岡本先輩たち以上に人気ありますから。

 仕方ないですよね」

 ……それは言いすぎだ瑞羽。

「じゃ……」

 修平まで立ち上がろうとする。

「ねぇ……なんかそういうのすごく嫌なんだけど」

 久遠はわからない。姉貴はああ言ったけど、修平はたぶん……ぼくのことを異性として見てないと思ってる。だから修平までにそうされるの、ぼくはすごく嫌だ。

「……んだよ」

 修平はぼくの隣に座りなおした。

 久遠はそれをじっと見てる。久遠は……姉貴の言った通りなのかな?

 それ、すごく困る。改めてそう感じた。



「ねぇ、ゲームばっかじゃなくて、トランプとかしようか。

 せっかくみんなで遊びに来てるんだからさ」

 岬が気を利かせてそんな提案をしてきた。

 気配りが女子みたい。

「おう、そうだな。おまえの部屋にトランプあったよな?」

「うん。今、持ってくるよ」

 修平に言われて、ぼくは彼らと離れたい気持ちもあって――すぐに立ち上がって、自分の部屋にトランプを取りに行こうしたときだった。

「あっ!!だったら、かつみ先輩の部屋見てみたいんですけどっ!!」

「……別に楽しくないよ……」

「私も見たいです」

 唯と瑞羽がそんなことを言い出す。

 なんか、女子ってそんな感じなのかな。

「ねぇ……私も見たいんだけど……」

 鈴那も興味津々と言う感じ。

 女子はそうなんだね。本当にメンドくさいな……。

「……ぼくも見たいなぁ……なんて、いい?」

 岬まで。

「俺も。久遠もだろ?」

「……まぁ」

 右京に久遠までぇ?男子まで。どうだって言うんだよ、まったく。

「みんなと行って来れば?俺は奈菜実さんの手伝いしてるわ」

 ソファに座りながら、呆れ顔の修平が肩をすくめていた。

「……じゃぁ、行こうか」

 ぼくはため息混じりにみんなに言った。



 ぼくの部屋で、興奮状態の唯が一人ではしゃいでいたけど。

 ぼくはトランプを見つけて持ち出した。

「意外と普通なんだな」

 なんて久遠が言っていたけど。どんな部屋を想像していたんだろう?それを訊きたいよ。



 ぼくたちがリビングに戻ると、姉貴が用意した昼食が所狭しを並んでいた。

 メニューは姉貴特製のデミグラスソースが掛かったオムライスに、サラダ。

 いくつかのおかずも並んで。

 それをみんなはほとんど残さず食べていた。

 


 それから午後からトランプして。

 雑談に、ゲームしたり。

 姉貴の力作のケーキ。みんなは嬉しそうに食べていた。

 でも、ぼくは……。

 


 ここはぼくのいた世界と出来事がリンクしていても。

 知らない人たちがいる中で、ぼくは自分の居場所に違和感を持った。

 ぼくの知らないことも多い。

 それを適当に合わせながら、彼らはそれを疑問に思わず話を進めていく。

 それがすごく気持ち悪くて――とても疲れる。

 これがこの世界。『銀色の翼にのって君のもとへ3』の世界。

 


 


 明日から、ぼくはぼくが知っていて、知らない彼らと全然知らない彼らと、一緒にやっていかないといけない。

 恋愛攻略ゲームの世界。ぼくは呼吸が苦しくなる想いを抱きながら……ぼくの未来がどうなってしまうのか、想像ができなかった。


次から本格的にゲームの世界に突入する…と思います;

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