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すみません、一話投稿を忘れていたようなので追加いたしました。
(フォルダに一話だけ残っていたので投稿忘れかと思ったのですが、作者は記憶がありません。おかしな点があれば言ってください)
4話目に新たな話を追加し、以前の4話目が5話に移動しています。
5の本文に以前との違いはありません。
更新かと思われてページを開いた方は申し訳ございません。
ディリアスはユティシアに背中を向けたまま足早に歩いていた。以前なら、にこやかに手を差し出してエスコートしていたはずの彼だが、ユティシアに向ける配慮は一つも見られなかった。
ディリアスは二人の私室に向かっていた。執務室にはゼイルやローウェ、アルが入り浸っている。彼らには聞かれたくない内容なのだろう…ユティシアは、そう推測した。
「座ってくれ」
部屋に着くと、ディリアスはそっけなくソファへとユティシアを促し、彼自身は正面に座った。…いつもなら、隣に座るはずだが。
そう言って向き合ってやっと目を合わせた瞬間――――――――。
「あ、ユティシア…血が」
そう言ってディリアスはユティシアの首筋に触れようとした。突然出された手に驚いたユティシアは、びくりと肩をすくめる。
「情けないな…せっかく寄り添えるようになったというのに、これでは昔のようじゃないか」
ディリアスに城に連れ戻された時、ユティシアは人の手を怯えていた。差し伸べられる手が、優しいものだと知らなかったから。触れることが、愛することが何なのか知らなかったから。
それでも、ユティシアは心を開くようになった。互いに愛を分かち合えるようになった。
―――――――――それを壊したのは、間違いなく自分だ。
ディリアスはふっと自嘲気味に笑った。
理由を聞きもせず、傷つきたくない自分の心を守ろうとした。彼女に拒絶されるのが怖かったから。
「大丈夫です、自分で治せますから」
ユティシアはディリアスの手から逃れるように体をずらし、手早く治療した。ディリアスが一瞬、傷ついたような顔をしたが、ユティシアは見ないふりをした。
「それで、陛下…お話とは、一体何のことでしょうか」
何のことかは聞かずとも分かる。十中八九、先日の離婚についての話だ。城の中では口の堅い臣下たちが黙っていたものの、二人の不仲の話は使用人たちを通して城の外に伝えられ、城下に広がりつつあった。今こそ誰も口にしないものの、ディリアスの望みで正妃になったに過ぎないユティシアは、彼の寵愛を失った今廃せられても仕方がない。陛下もやっと離婚を認めてくれたのだろう。
だからこそ、次に発せられる言葉が、信じられなかった。
「ユティシア。…お前の、兄についてのことだ」
「今、何と…?」
ユティシアは、ディリアスに言われたことが理解できずにいた。だってそれは、彼が知るはずもない情報。
「お前の兄が、ティシャールの王太子が、生きているとの情報が入った」
何で、陛下が知っているの……?
ユティシアは呆然とディリアスを見つめていた。