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ユティシアは目の前を歩くディリアスを見て、こっそりとため息を吐いた。
なぜ、こんなことになってしまったのか…。
離婚を申し出た後、ディリアスとはもう一度話し合いをしていた。しかしそれは、二人の溝を深める結果となっただけだった。
話し合った内容というのは、先日の反乱軍の鎮圧についてのことだった。
王都を襲った大規模な反乱は、主犯の前任の魔法師長と騎士団長を捕まえたことで収束し、一応は解決したはずだった。
しかし、謎が残っている。
主犯の二人を魔によって操った、本当の黒幕。そして、彼らが最終兵器として使用した、禍々しいほどの魔を纏った黒い玉。
「ユティシア、知っていることを話してほしい。先日暇を申し出たことと、関係があるのだろう?」
ユティシアを見つめる金の瞳がきらりと輝く。
ユティシアが、先日の件について情報を掴んでいることを。そしてそれを、ディリアスに隠していたことを、ディリアスは知っていた。
さらに、彼の慧眼は見抜いていた。あの事件と、今回の離婚話との繋がりを。
「正直、隠し事をされていたのは、傷ついた。だが、ユティにはユティなりの考えがあるのだろう。俺は、それを咎めるようなことはしたくない。………話しては、くれないか」
ユティシアは、首を振ることしかできなかった。
今、声を出せば、きっとすべて喋ってしまう。それほどまでに秘密は大きく、一人で背負いきれるものではない。それでも、彼に責任を負わせることは出来なかった。すべて彼に頼ってしまいそうで。
「なぜ、話してくれないんだ?理由を、教えてくれないか?」
それでも、ユティシアは首を振り続けた。
理由を言ってしまえば、ディリアスは必ず手を貸してくれるだろう。だが、そうするわけにはいかない理由があるのだ。彼は良くも悪くも自分を大切にしすぎていることを知っているからこそ。
頑なに拒み続けるユティシアに対し、ディリアスも我慢の限界だったようだ。
「――――――――もういい。俺が信用されていないことは分かった」
それ以降、ディリアスは二度とユティシアに話しかけようとはしなかった。
ユティシアへの甘やかしも、毎日共にとっていた食事も、すべてが幻想であったかのように幸せな時間は失われた。どれだけ忙しい時でも寝室に姿を現さないことはなかったのに、それすらない。
それがなぜ、今日に限って…?
まさか、昨日までの態度を改める気になったはずもないことは、彼の冷たい瞳が物語っている。
ユティシアは胸に不安を抱えつつも、執務室へと足早に歩みを進めていくディリアスの後を追うのだった。