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気に入らない部分があるので書き直すかもしれませんが…。
「お暇を下さい」
目の前には、頭を下げ国王にお願いをする最愛の王妃。
―――――――なぜこうなった?
国王ディリアスは、王妃からの突然の提案に愕然とするばかりであった。
ここは、大陸に広大な領土を占めるディスタール王国。軍事力も経済力も大陸随一と言われるこの国を引っ張る二人は、絶大な人気を誇っていた。優秀な統治者として名高く“剣王”としても名を馳せる見目麗しい国王。魔法師として最高の実力を持ち、愛らしい容姿とは裏腹に驚くほどの聡明さで国民に慕われる王妃。先日の反乱軍の鎮圧では、二人とも見事な手腕を発揮して見せ、国民の賛辞の声は止むことがない。
そんな二人だが、敬遠されそうなまでの非の打ちどころの無さとは裏腹に、たいそう愛情深く互いを思いやるその姿は理想の夫婦像としても語られている。二人の仲睦まじい姿は頻繁に見られ、温かい目で見守られていた。
………はず、だった。いや、間違いなく夫婦の仲は円満だと確信していた。
今の時間も、二人が一緒に過ごす時間を作るため、お互い必死に仕事を片付けた結果得たものだ。ディリアスは、二人だけで過ごせるこの時間をとても楽しみにしていた。
しかし現在、頭に過るのは、今まで無縁だと思っていた“離婚”という言葉。
気付けば、心にもない言葉をかけていた。
「なぜだ?王妃という仕事は、そんな簡単に放り出して良いものではない。ユティシアも、わかっているはずだろう?」
本当に尋ねたいのは、そんなことではない。本当に大切なのは、王妃の役割や責任などではなく、暇を申し出たユティシア自身の気持ちだ。
だが、答えをを聞いてしまえば、彼女の気持ちを知ってしまえば、絶望に満ちた現実を思い知るだけ。
いくら二人の仲が良いと言っても、互いが抱く感情は違った。ディリアスのは恋情を含んだものであり、ユティシアのそれは家族への愛情にすぎなかった。
ディリアスの恐怖心はそれに気付かない振りをしていた。
「色々考えた結果、どうしても、王妃としての役割を果たせそうにないと思い、暇を願い出たのです」
ディリアスはその言葉の意味を考えたくなかった。
ユティシアは十分すぎるほどに王妃としての勤めを果たしている。基本的な公務は勿論、他国からの書簡の翻訳や、ディリアスの書類処理にまで手を貸している。さらには魔法師として、魔法学校の特別講師や魔法師団の指導まで行っている。最初は醜聞が目立っていた彼女も、今では優秀な王妃として国民に認められるまでになっていた。先代国王と改革を行った先代王妃には未だ及ばないものの、歴代王妃の中ではずば抜けて有能である。
そんなユティシアが未だに果たしていない王妃としての役割といえば…。
――――――世継ぎを産むこと、である。
つまり、王妃としての役割を果たせなくなったということは、ディリアスとの間に子を成す気がなくなったということで。
事情があって子を成せない、などではないことは分かっている。ユティシアの不妊問題は以前解消されたばかりだ。つまり、離婚はユティシアが自分の意思で望んだということ。
他のお願いならいくらでも聞いてやるものを…。一緒に出かけてみたいとか、中庭で茶会をやりたいとか、そんな可愛らしいお願いならむしろ大歓迎だ。慎ましい彼女だからこそ、いつか自分に何かを求めてくれることを願ってやまなかった。
だが、彼女の最初にして最大のお願いは“離婚”だった。
このお願いだけは聞いてやれない。自分がユティシアを愛しているからこそ。
「残念ながらそれは認められない」
そう言い置くと、ディリアスはユティシアの私室を後にした。