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力を使うのに屋内は危険だと判断し、二人は中庭へとやってきた。
「ユティシアは、魔力を具現化する時、どうしているんだ?」
「そうですね、まずは自分の中にある魔力を感じます」
ユティシアが目を瞑って集中し始める。ディリアスもそれに倣い己の中の魔力を感じた。
ディリアスは、魔眼を“見る”力としては活用することが出来る。しかし、魔眼本来の力は魔力に対抗する力であり、極めると魔を屈服させ、使役もさせられるものだ。
ディリアスは魔眼の、“破魔”の力を得たいと思っていた。しかし、魔に対抗するには自分の力を外に放出することが出来なければいけない。
「そのまま体中に巡らせることはできますか?」
「ああ…」
ディリアスはそのまま目から感じる力を体に流す。
暴走させないように、ゆっくりと力を巡らせていく。ディリアスは力を体外へ放出できないため、暴走は非常に危険である。
その時、思いもよらぬことが起きた。
魔眼が反応し、不快な感覚を捕らえる。魔物だ。しかも複数。
失念した。ここは王都の外で、魔物の出現も当然あるということを忘れていた。
注意が逸れてしまったディリアスは、次第に力の制御を失い始めた。
「くっ…」
「陛下っ!」
ユティシアが危険を察知し、立ち上がった。魔物は雑魚だったので後回しで、ディリアスにかけ寄る。
一方のディリアスは自分の体に妙な感覚を覚えていた。今まで感じたことがないような…。力が瞳に集まり始めたのだ。
「離れろ、ユティっ」
ディリアスが閉じていた目を開けた瞬間、魔眼の力が魔物に向かった。弱小な魔物はそれを受けて跡形もなく崩れ去った。
「陛下、瞳の色が…」
「は?」
「金色に輝いています。いつもは茶色に金のかかった色ですが」
ユティシアはディリアスの頬に触れ、瞳に顔を近づけた。
「馬鹿っ」
まだ、制御ができていないのに、魔力がそばに近づくとまずい。ディリアスは動揺して魔眼の力を放ってしまった。ユティシアがこんな不用心なことをするとは思わなかった。ユティシアの力では反発してさらに暴走を招きかねない。
しかし、そんなことは起こらなかった。ユティシアの魔力は魔眼を鎮めてしまったのだ。
「あれくらいでは暴走しませんよ。陛下の放出している力は微量でしたから、力でねじ伏せれば余裕ですよ」
ふふ、と得意げに笑うユティシアは、そう言った。
「微量で下級の魔物が消滅するのか…?」
ディリアスが放出できたのはわずかな量の力だったらしい。それで、こんな威力を発揮するのだから、自分の力が恐ろしくさえ感じる。
しかしこれは、思った以上に武器になる。使いこなせれば、今国を悩ませている魔物の問題も解決できるかもしれない。
――――――――――そして、ユティシアを守ってやれるかもしれない…。
「陛下、この感覚を忘れないうちに、もう一度練習しましょう!」
「ああ、そうだな」
絶対に使いこなして見せる。
ディリアスは今まで以上に訓練に打ち込むのだった。