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お久しぶりです。お待たせしてすみません。
離婚騒動後ディリアスは、ユティシアの仕事を即座に減らし休養を取らせた。
王都から少し離れた場所にある離宮に、ユティシア、フィーナを連れて行き、親子水入らずで過ごすことにした。
「見て下さい、あちらに湖がありますよ!」
ユティシアはきゃっきゃと子どもっぽくはしゃぎながら、フィーナといろんな場所を探検していた。
そう言えば、まだ十六歳だったな…。
ユティシアの年齢をふと思い出し、ディリアスは思案する。
今まで、ユティシアの有能さによって忘れていたが、彼女はまだ少女なのだ。同じ歳の時、自分は何をしていただろうか。王子の仕事も満足にできない、情けない少年だった。
ユティシアは教養も目を瞠るものがあるし、語学の知識はディリアスも敵わないほどだ。魔法は座学も実力も敵う者はいない、王妃としての仕事も完璧。だから忘れかけていた。
彼女が自分より五歳も年下で、本来なら誰かの庇護下で守られるべき年齢の少女だということを。
ディリアスも、シャラも、ローウェも、ゼイルも私生活では甘やかせるだけ甘やかしていた。だが、仕事に関してはユティシアにも容赦がなかった。
彼女に最善の結果を求めるし、王妃としてできるだけの働きを求めた。
最初はパーティへの出席など最低限、と皆が思っていた。次は、魔法学校や孤児院の仕事だけと考えた。その次には政治にかかわらせた。挙句の果てにはディリアスの仕事を三割も引き継ぐ結果となっていた。
彼女が有能だった故に起こったことだが、世界を守る重責も負っている彼女に背負わせるには酷であった。
ディリアスはその小さな体を優しく抱きしめた。
この小さな体で、彼女は一体どれだけのものを守って来たのか。どれほど、大きくて重いものを背負わされてきたのか。
「陛下……?」
ユティシアが不思議そうにディリアスを見つめる。
なぜ、こんな重責を背負っていて弱音の一つも吐かなかったのか。なぜ、いつも誰かに笑いかけていられるのか。
ディリアスは、王妃の座にユティシアを据えたことを後悔していた。
あの日、ユティシアを見つけたディリアスは王妃がいないことを理由に強引にユティシアを連れ戻した。当初は今みたいに愛情があるわけでもなく、彼女の事情を顧みることなく王妃にした。
最初は多くを望んでいなかったのに、ユティシアの人柄と知識の多さに気付いてから、彼女に対する要求は日に日に増えていた。
側妃のままでも良かったのではないか。ユティシアを王妃にしたのは自己満足に過ぎないのではないか。そんな思考がディリアスの頭の中をぐるぐると渦巻いた。
「王妃になったこと、後悔していないか?」
「王妃にならなかったら、陛下に今までのお返しができなかったと思います。陛下は戦いに参加できないことを気にしているようですが…私が欲しかったのはきっと、心の支えなのです」
正直、ユティシアと共に戦える実力がないことについては、このままでは良くないと分かっているし、ディリアス自身納得していない。ユティシアは一人で戦うのが当たり前だと思っているようだが、自分も魔眼という強力な武器を持っているのだ。いつか、ユティシアに背を預けて貰えるくらいにはこの能力を使いこなしたい。
「ユティシア、少し、訓練に付き合ってくれないか?」