第一話
「愛の形」より昔のお話です。
他サイトに昔、投降したものです。
続きを書きたくなってしまいました。
こちらもよろしくお願いします。
「王妃様」
そう呼ばれるようになって一週間……
名前を呼んでいいのは…
愛称で呼んでいいのはこの国で唯一人。
ジュラール国第12代国王フィルディア・ルーガスト・ジュラール
彼が私を名前で呼んでくれる日が来るのだろうか?
彼のことだ。
もしかしたら自分の名前さえ知らないのかもしれない。
誰もが首を傾げた婚姻なのだから。
貴族ではあるが、何の財力も影響力もない子爵家の娘をなぜ陛下はお望みになられたのだろう。私でそう思う位なのだから、誰もが思っているに違いない。
そして有力な貴族の娘達は、嫉妬や蔑む視線を向けた。
そう。自分が王妃になることを彼等は望まなかった。
そのうち陛下も飽きるだろう。
王妃を娶れとせっつく我らに対する嫌がらせに違いない。
陛下が飽きた時、自分の娘を陛下に薦めれば正妃になれずとも国母にはなれるだろうと最初は喚いていたが、その考えに落ち着いて今は虎視眈々とその機会を狙っている。
今は誰もいない後宮が、そのうち色取り取りの華で溢れるだろう。
そうなった時、自分は存在も名前さえも忘れ去られるのだろうか。
それでも自分は笑っていられるだろうか。
母が最後に残してくれた約束を守れないかもしれない。
「クリス、笑って。母様はクリスの笑った顔が大好きよ。
ふふっ。母様を…見ている人を幸せにするわ。忘れないで……母様がいなくても強く生きて。」
「母様…」
母様だけだった。
私を愛称で呼んでくれるのわ。
その母様はもういない…
愛されなくてもいい。
ただ呼んで欲しい。
王妃でもクリスティアナでもない。
「クリス」と。
自分は此処に存在していることを誰かに認めてもらいたかった。
夜が更けていく。
今宵は来てくれるのだろうか?