その7
「ピンポーン、ピンポンピンポーン!!」
うるさいチャイムの音が俺の貴重な惰眠を奪った。いったい誰だ?俺は寝ぼけながら玄関の扉を開けた。
「神原!!さぁ、特訓だ!!行くぞ!!」
俺は不用意に扉を開けてしまったことを心底後悔した。
「先生、今日は休日でずよ。今日はやめまじょうよ、ね?ね、ね、ね?」
「うるさい!!このデブ!!そんな貧弱な根性じゃ100年たっても逆上がりなんか出来ないぞボゲェー!!!」
そう言うと先生は俺を無理やり車へと押し入れた。
「ブォオォオォオオオオ!!」
150キロの俺を乗せた車はとても燃費が悪そうな鈍い音を立てて走り出した。
「先生・・・どこに向かっているんでずか?」
「・・・」
高橋先生は運転中終始無言だった。
「着いたぞ。」
終着地点は学校だった。
まぁ、学校の先生と生徒が向かう先は普通学校だもんな。
「神原、まずは実践あるのみだ。逆上がりやってみろ。」
相変わらず無茶を言う先生だ。
言われて出来るならもうやってるちゅーの。
「先生、いぎなりやれと言われてもでぎるわけな・・・」
「シャラーップ!!今後俺の目の前で『出来ない』とか『無理』とか『嫌だ』といったネガティブな発言は一切禁止する。もし、ネガティブな発言をした場合、罰を与える。」
「えぇー!?そんなの嫌でずよ!」
「はい、早速罰決定。」
「ムキィーーー!!」
俺は体の肉という肉を上下にゆらしささやかな怒りを表現した。
「罰はそうだな・・・あとで考えとく。とにかく今は逆上がりだ!!特訓だ!!ほれ、早く挑戦してみろ。大丈夫だ、どうせできやしないんだから。」
高橋先生はもともこもない暴言を吐いて俺のケツを叩いた。
「イデェ!!・・・わがりまじたよ!やればいいんでじょ?やれば!」
そう言うと俺はまるで相撲の立会いのように鉄棒目掛けて突っ込んだ。
「うぉおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
まるで波打つようにリズム良くゆれるぜい肉。
飛び散る汗。
短い足が奏でる地響き。
体に食い込む短パン。
汗で色の変わったTシャツ。
目の中に入ってくる汗。
そのせいで握り損ねた鉄の棒。
鉄の棒に強打したおっぱい。
おっぱいを中心に体を襲う衝撃。
衝撃によりゆれるぜい肉。
「ブヒィ!!」とブタのようになる鼻。
ツッパリで跳ね飛ばされるように後方へ倒れる肉体。
「どすーん!!」と大地を鳴らすオシリ。
そのまま俺は大の字で地面にひれ伏し『あぁ、なんて空は広いのだろう。』と現実逃避をした。
「・・・・・・・・・・・酷い、酷すぎる。」
高橋先生はそう呟くと頭を抱えて車へと乗り込んだ。
「まずは痩せろ。走って帰れ。さっきネガティブな発言をした罰だ。」
先生はそう言って一人で帰ってしまった。
しょうがないので俺は一人でとぼとぼ歩きながら家へと向かった。