その6
「おい!神原、どこへ行く気だ?」
やばい、先生に見つかってしまった。
俺は目を合わせないように下を向き、逃げようとダッシュした。
「こら!!待て!!」
しかし、いくら全力で逃げたところで所詮はデブ、逃げ切れるはずもなくすぐに捕まり、首根っこを捕まれた。
「ずいませんでじた。別に授業をサボろうとじだわけではないんでず。ただ・・・」
俺の言い訳を遮る様に先生は言葉を挟んだ。
「ばかやろう!!授業なんか出席している場合か!?今すぐ校庭に出ろ!!逆上がりの特訓だ!!」
俺の首根っこを掴んだのは担任の唐沢美智子先生ではなく、黒ジャージに鉢巻姿の高橋先生であった。
「え!?で、でも授業にでないど・・・」
ささやかな反抗をする俺を無視して高橋先生は俺を校庭へ連れて行こうとした。
「高橋先生、どういうことですか?生徒に授業をサボらせるおつもりですか?」
突如、背後からとても冷徹でひややかな甲高い声が聞こえてきた。
それは聞き覚えのある担任の唐沢美智子先生の声だった。
「いや、その・・・これはですね・・・神原がどうしてもと言うので・・・」
「だまらっしゃい!!!生徒のせいにするんじゃありません!!!」
唐沢先生の叫びがヒンヤリとした校舎に響いた。
「とにかく、授業をサボることは許しません。高橋先生、1時間目は確か体育の授業があったはずです。早く行って下さい。ほら、神原くんも早く教室に入りなさい。」
高橋先生はいつもの覇気がなくなり、哀愁漂う悲しい背中を見せ、後ずさりで唐沢先生から逃げようとした。
「高橋先生!!あとで話があります。神原君も。2人でお昼休みに職員室の私のところまできてください。いいですね?絶対に来てください。もしこなかったら・・・」
唐沢先生は一呼吸置いて眼鏡のずれを直した後、鋭い声で言った。
「殺す。」
その後、俺と高橋先生は唐沢先生から大変貴重なお説教を頂いた。
結局その日は高橋先生と俺のテンションが急激に低下したため逆上がりの練習は出来なかった。