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デブ、宙を舞う  作者: たこき
64/66

その64

「神原!!」

 渦巻く歓喜の中、ジェシカが俺の名前を叫びながら走り寄って来た。

 気のせいだろうか? うっすらとジェシカの目に涙が見える。

 ジェシカの両腕は左右に大きく開いていて、今にも何かに抱きつこうとしている様に見えた。

 当然、その何かとは、俺のことだろう。

 俺は映画でよく見るハッピーエンドのシーンを想像した。

 イケメンの主役と美しいヒロインとが抱き合うシーン。

 主役が俺であることはいいとして、ヒロイン役がジェシカというのはちょっとあれだが……まぁ、悪くは無い。

 俺は、そんなことを考えながらジェシカを受け止めようとぜい肉が垂れ下がる両の腕を広げようとした。その時、

「それでは、これから皆さんお待ちかねの告白タイムを始めます!! まずは、一番多かったジェシカさんへの告白から始めたいと思います。では、ジェシカさんに告白したい人はステージ上に来てください!!」

 司会者のその言葉を皮切りに、100人近くの男達が(中には数人女もいたようだが)ステージへとなだれ込んできた。

「ジェシカ!! 好きだぁ!!」

「ジェシカ先輩、ずっと憧れていました!!」

「きゃあー!! ジェシカ様!! 大好きですぅ!!」

「僕と付き合ってください!!」

 その勢いはすさまじく、まるで天の川の様だった。

 俺とジェシカはまるで織姫と彦星の様にその百人近くの天の川によって、お互いステージの両端へと隔てられた。


「はぁー……まぁ、いいか」

 俺は深いため息をつき、熱気溢れるステージから逃げるように退散した。

 正直、俺はこの学園祭の主役なんかじゃない。

 俺は、この学園祭を盛り上げるピエロにすぎない。

 学園祭を盛り上げるという役目を終えた今、誰も俺のことを称える者などいないさ。

 みんな、俺が逆上がりに成功したことよりも、自分の胸の内に溜め込んでいたことを告白できることの方が重要なのさ。

 俺がいつまでもステージ上にいても邪魔なだけ。役目を終えたピエロはすぐに退散しよう。

 お腹も痛いし。

 良く見たら血、出てるし。

 ハラヘッタし。

 眠いし。

 疲れたし……帰ろう。

 俺は、いろんな言い訳を思い浮かべながら明かりが灯る会場を出て、帰り道に繋がる闇の中へ向かった。

「待って!!」

 暗闇へと右足を踏み入れたとき、声をかけられた。

 俺は全身のぜい肉を震わせながら振り返った。

「どこへ行かれるんですか? 太志さん」

 声の主は、友子だった。

「家に帰るんだ」

 俺は短い言葉で返答した。

「まだ、学園祭は終わっていませんよ。それなのに、帰っちゃうんですか?」

 友子は俺の顔を覗き込み、少し残念そうな顔でそう言った。

 そんな友子のセリフは「まだ、帰って欲しくないな」と言っている様に思えた。

「…………」

 俺は無言で頷いた。

 とにかく、俺はこの会場から早く消えたかった。

 逃げたかった。

「逆上がり、成功おめでとうございます」

 俺の沈黙を破る様に、友子は満面の笑みで俺にそう言ってくれた。

 俺が今、一番言って欲しい言葉を友子は言ってくれた。

 素直に嬉しかった。

「ありがとう」

 俺がそう言うと、

「それは、私が言うことです。太志さん、ありがとうございます」

 友子はとてもしなやかな仕草で俺に礼をした。

「そんな、おでは友子にありがどうと言われる様なごどはじてないよ」

 俺がそう言うと友子は首をフリフリした。

「太志さんは、自分はたいしたことをしていないと思っているかもしれませんが、そんなことはありません。太志さんのおかげで今まで言いたくても言えなくて、胸の内に秘められていた『大切な思い達』が、目的の相手に向かって出撃! することができたのですよ。これを世間一般で、何と言うか太志さんは知っていますか?」

 俺は首のぜい肉をフリフリした。

「世間じゃこれを『勇気』と言うのです。太志さんはみんなに、そして私に勇気をくれたのです。それって、すごいことなのですよ」

 俺はそんな友子の話を聞きながら、何故この会場から俺は逃げたいのか考えた。

 俺は、ジェシカから逃げたんだ。

 ジェシカに群がる人々を見て、俺は怖気ついたのだ。

 やっぱり、ジェシカは俺とは住む世界が違う人間なのだと思い、気落ちしたのだ。

 あんなに輝いているジェシカをみて、自分という存在があまりにも醜く思えて、俺は逃げ出したくなったんだ。

 俺は、今更そんなことに怖気づいていた自分に無性に腹がたった。

「あれ? 太志さん! 血、お腹! 血でていますよ!! 大変!!」

 突然、友子は俺の三段腹の二段目から血が出ていることに気付き、すぐにハンカチを取り出して俺の三段腹の二段目を触ろうとした。その時

「ちょっと待ったぁ!!」

 声が聞こえた。暗闇で顔は良く見えなかったが、俺がこの声を聞き間違えるはずが無い。


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