その47
「ジェシカ!! おでの話を聞いて欲しい。さっきのは、違うんだ。友子は……」
神原の口が動く。
怖い。
神原の口から真実を聞かされるのが……どうしようもなく、怖い。
「よかったじゃない。あんたみたいな肉団子好きになる人間がいるなんて、100年に一度、いや、100000000年に一度あることじゃない。奇跡だよ。付き合えばいいじゃない。別に私に断る必用もないし。安心しなさいよ。別にいいふらすことなんかしないわよ。あの転校生かわいいし、気立てもいいし、それに……私と違って胸大きいし!!! ……とにかくお似合いのカップルじゃない。身長だって同じくらいだし。それにもう、謝らなくていいから。っていうか私別にあんたに謝られることされてないし。あんたのしたことなんか一々覚えてないし。っていうかあんたに関することなんて覚える価値ないし。あんたは私の日ごろのうっぷんを晴らす掃溜めみたいなもんなのよ!! 私のストレスをぶち込むゴミ箱みたいなもんよ。しかし、あの転校生もほんとに物好きよね。こんなブタ野郎好きになるなんて頭おかしいんじゃないの? っていうか、あんたのこともてあそんでいるんじゃないの? きっとそうよ、だってあんたのこと好きだなんて嘘にしか聞こえないもん。あーゆー子に限って悪女だったりするのよね。きっと10股くらいかけているわよ。いや! 汚らわしい。悪女とブタ、お似合いのカップルだわ。これは傑作、ワハハハ……」
私は崩壊したダムのように喋った。
次から次へと言葉が口から出てくる。
いったいこの言葉達はどこからきたのだろう? そう疑問に思うほど、思いもしない言葉がかってに出てきた。
「おめぇ、最低だな。追いかけてそんしたよ」
神原は3つに割れた腹をたて、帰っていった。
あぁ、私はなんで素直になれないんだろう? いつもそうだ、私は自分が思っていることの10分の1も言葉にできない、伝えることができない。
自分の気持ちを偽って、生きてきた、私の人生。
そこに、ほんとうに私は、いたのだろうか? 素直になれないのなら、それは生きていないのと同じことなのではないだろうか? 思いもしない言葉を言って生きているということは、思いもしない言葉を発している自分ではない誰かが代わりに生きているということで、つまりは、私は生きていないということになる。
そう、私はこの18年間、ずっと生きていなかったのだ。
私の中に住む本音を隠蔽する誰かの影でずっと息を潜めていたんだ……
私はそんなことを考えながら神原の揺れる肉を見送った。