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その43
「ま……でぇ…………」
ここはどこだろう? 私はどんだけ走ったんだろう? いい加減疲れた。
空には真っ赤な夕陽が浮かんでいた。
真っ赤に染まる神原の肉体は、まるで赤い霜降りステーキのようでおいしそうだった。
「し、しつこい……いい加減諦めろ……この、チビデブ……」
神原はしつこかった。
デブの癖に。
私はきっと、無意識的に走るスピードを緩めていたのだと思う。
神原とのこの距離をもっと長く続けたいと感じたのだと思う。
そうでもなきゃ、あんなデブが私についてこられるわけがない。
でも、心の奥に、もっと距離を縮めたい、そう思う小さな私がいたのだと思う。
私は少しずつ、ほんとに少しずつ神原との距離を縮めるように歩いた。
この距離をいつまでも続けたいと思う私と、この距離を縮めたいと願う私との葛藤が私の意識しない水面下で確かに、密やかだけど確かに、行われていた。