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デブ、宙を舞う  作者: たこき
36/66

その36

「今日は2週間後に迫った文化祭の出し物をいい加減決めたいと思います。唐沢先生のご好意により4時間目の数学の授業の時間をもらいました。唐沢先生は今日中に決めるようにと言っています。みなさん時間を無駄にしないようにいいかげん意見をだしてください」

 この時期に出し物が決まっていないクラスはうちだけだろう。

 クラスの誰もがやる気なし。 

 ったくクラス委員はなにやってんだか……。

 俺は自ら参加しようとしない自分を棚に上げて。クラス委員の無能さに悪態を吐いた。

「おい、三段腹。お前逆上がりどうなんだよ? 成功できそうなのか?」

 後の席の池田がヒソヒソ声で話しかけてきた。

「うるざいなぁ、絶対に成功ざぜるよ」

「それほんとか?今まで成功したことあんのか?」

「まだ成功しだごとはないよ。でも絶対に成功ざぜるがら!」

「信用していいんだな?お前のこと信用するぞ」

 池田がしつこくたずねてきたので俺は頬の肉を膨らませて、少しイラっとした態度を表現した。

「わりぃ。実はな、お前が成功するのに1000円賭けることにしたんだよ。だから絶対に成功させてくれよな。期待しているぞ!」

「池田!! うるさいぞ! そんなにうるさくするんだったら池田が出し物決めろよ!! 俺だってやりたくてクラス委員をやっているわけじゃないんだぞ!! 誰も意見出さないし。少しは協力してくれよ!!! もし今日出し物が決まらなかったら唐沢先生に『殺すぞ』って言われたんだよ。お前ら唐沢先生の恐ろしさしってんだろ!? 頼むよ! 俺を助けてくれよ! 俺まだ死にたくないよ!!」

 クラス委員が黒板を叩いて怒鳴った。

 クラスは静まり返った。

「あ……ごめん。俺が悪かったよ。案を出せばいいんだろ? えっと……」

 バツの悪そうな顔で池田は頭をひねった。

「そうだ!! 文化祭の日に神原が逆上がりに挑戦するだろ? それをうちらクラスの出し物ってことにしちゃえばいいじゃん!! どう? これいい案じゃねぇ?」

 池田のばかやろう!! そんなのダメに決まっているだろ!! 俺は池田のテキトウ発言に怒りを感じた。

 もう少し真面目に考えてやれよ。クラス委員がかわいそうだろ。

「それいいじゃん!!」

 え!? なんですと?俺は耳を疑った。

「いいねぇ。楽そうだし」

「私も賛成!」

 俺の予想とは裏腹にクラスは池田の意見に大賛成だった。

「そうだ! それだけじゃつまらないから、こういうのはどう? 三段腹の逆上がりが成功するかしないかみんなで賭けをするんだ」

 この言葉をきっかけに今までの状況が嘘の様に議論が白熱した。

「いいねー。おもしろそう。俺は失敗する方に1000円賭けるぞ」

「お金を賭けるのはさすがにだめだろ」

「固いこと言うなよ」

「じゃあ、『きっかけ』にしようよ! 神原の逆上がりをみんなの『きっかけ』にするんだ」

「どういうこと?」

「誰しも『打ち明けようか、それとも一生胸のうちにしまっておこうか……』と考えている事の一つや二つあるでしょ? それを紙に書いてもらうの。で、もし成功したらそれを全校生徒の前で発表する。逆に失敗したら永久に胸のうちにしまっておくの」

「例えばどんな事を書けばいいの?」

「うーんと……『~さんずっと好きでした!!』とか『実はあの事件の犯人は私なんです』とか『実は宝くじで1億円当たりました!』……とか? とにかく何か『きっかけ』があれば言おうと思っていたこととか実行しようと思っていたことを書いてもらうの」

「それは面白そうかも」

「じゃあさ、もし逆上がりに失敗したらその紙はキャンプファイヤーの火種にしようぜ」

「いいねー。燃やすことによって紙に書いたことをあきらめる『きっかけ』にもなるわけだ」

「委員長、黒板に早くまとめて書いてよ」

「え、あ……ごめん、もう一回言ってくれる?」

「委員長しっかりしてよ!」

 こんな調子で逆上がりに挑戦する当の本人である俺を無視して、話はどんどん進行して行った。


「キーンコーンカーンコーン」

「今日の話し合いはここまでにします。今日の話し合いの内容は昼休みの間にクラス委員の方でまとめて唐沢先生に報告しておきます。みなさんはお昼を食べてください」

 クラス委員はウキウキした様子でヒゲダンスをしながら教室から出て行った。 唐沢先生の脅迫から解放されるのがよほど嬉しかったのであろう。

「太志さん、もしよろしければお昼御一緒しませんか?」

 俺は今日こそはジェシカに謝ろうと思っていたので正直困った。

 しかし、友子はまだ転校してきたばかりで一緒にご飯を食べる友達が俺以外いないから断るわけにもいかない。

「いいよ。じゃあ屋上で食べようが」

 俺はダイエットをしていることを周りに知られたくなかったので屋上で食事をしようと思っていた。

「この学校には屋上があるんですか!? いいですね。前の学校は立ち入り禁止だったんです。さぁ、早く行きましょう!」

 友子はとてもはしゃいだ様子で俺の短い手を引っ張った。

 俺はセコンドに手を引かれるブッチャーの様に友子について行った。


「うわぁー!! 気持ちいいー」

 頬を撫でるそよ風が友子のスカートをユラユラと揺らしていた。

 雲ひとつない青空を背景にした友子は、このまま青い空に溶けて消えてしまうのではないかと思うくらい眩しかった。

 俺はそんな友子に見惚れて右手に持っていたコッペパンを無意識に握り締めた。

「太志さん、それだけで足りるんですか? またお腹鳴っちゃいますよ」

 友子は俺の手に握られているコッペパンを見て心配そうに言った。

「大丈夫、大丈夫。確かに辛いけど逆上がりを成功さぜるだめにはダイエットをしなくちゃいげないがらね」

 俺は思いっきりやせ我慢をして強がって見せた。

「そういえば逆上がりに挑戦するってどういうことですか? 先ほどの話し合いで皆さん言っていましたけど。太志さんが挑戦するんですか? どうして?」

 友子は何故俺が逆上がりに挑戦するのかとても疑問に思っていた。

「実は……」

 俺はジェシカの事と高橋先生のプロポーズの事は話さない様に説明しようとした。

 しかし、気がつくと俺は事の全てを友子に話していた。

 友子はとても聞き上手で、俺はまるで魔法にかけられた様に余計なことまで喋ってしまった。

 ぜひ将来はその特技を活かして警察官にでもなったらどうだい? と言ってやりたくなるほど、友子の話の聞き方は上手かった。

「そうだったんですか……。太志さんも大変ですね」

 友子は熱心に俺の話に耳を傾けて俺が最も聞きたかった「大変ですね」というねぎらいの言葉をくれた。

「でも、とても素敵な話ですね。太志さんが逆上がりに成功したらプロポーズをするなんて。高橋先生はとてもロマンチストさんなのですね。そうだ! 私も太志さんの成功に賭けてもいいですか?」

 俺はコッペパンをムシャムシャ食べながら頷いた。

 気のせいだろうか? 今までよりも頷く時のぜい肉の揺れが少なくなった様に感じる。少し痩せたかも……。

「実は私、将来やりたいことがあるんです。でも、きっとお父様は反対するだろうと思って今まで言えずにいたんです。夢をあきらめてお父様の言うとおりに大学に進学しようか、それとも夢を追いかけようかずっと悩んでいたんです。だから、もし太志さんが逆上がりに成功したら私、思い切ってお父様に『やりたいことがあります』と相談してみようと思います」

 友子は青空に向けて俺の成功にとても大切な思いを賭けてくれた。

 遠くの空には飛行機が悠々と飛んでいた。

「友子の将来やりだいごとっでなんなの?」

「……笑わないでくれますか?」

 友子は大きな胸の前で掌を合わせてスリスリしながら、とても恥ずかしそうに俺の瞳を覗いた。

 俺は友子の瞳をしかと見つめて頷いた。

 友子の瞳はとても真剣だったのでどんな突拍子もない夢を語られても馬鹿にする気にはなれなかった。

「私、絵本大好きなんです。将来絵本作家になりたいんです! ……この年で絵本が好きなんて子供っぽいですか?」

 友子はとても震えた声で夢を語った。

「そんなごとないよ。とっでも友子に似合っでるど思うよ」

 俺はとても友子らしい夢だと思い、嘘偽りのない言葉を返した。

「ほんとですか!? 嬉しい!! 実は私が書いた絵本があるんですけど見てもらえませんか?」

 そう言うと友子は鞄の中から一冊の手作り絵本を取り出して俺に渡した。『リンゴマンとタマゴ大王』とカラフルな色で書かれたタイトルの絵本を俺はめくった。


「……どうですか?」

 俺は正直コメントに困った。

 お世辞にも上手いとは言えない絵。

 よくわからないストーリー。

 才能の欠片も感じられない作品であった。

「えっと……情熱は感じられるよ」

 俺は嘘をつきたくなかったし、友子を傷つけたくもなかったので必至で言葉を探した。

 そしてようやく見つけた『情熱』という言葉で友子の作った絵本にコメントをした。

「……太志さんってやっぱり優しい人ですね。わかっています。自分に才能がないことくらい。でも努力すればきっと上手になる。情熱さえあればいつか夢は叶うって私思うんです。また、絵本を作ったら見てくれますか?」

 俺はとても力強い友子の目を見て『友子は絶対に絵本作家として成功する』と思った。

 これだけ強く自分の成功を信じて止まない人間が、成功しないわけがない。

 そう感じさせるほど友子の目は遥か先を見据えた強い目をしていた。

「もぢろん!! おでで良ければいぐらでも。次の作品楽じみにじでるよ」

 俺は力強く頷いて嘘偽りのない言葉を告げた。

 不思議だ、友子と話しているととっても素直になれる。

 こんなに素直な自分がいたことに驚きを感じる。

 友子にならどんなことでも相談できる、俺はそう思い、胸の内に抱えていた悩みを友子に相談しようと思った。

「実はおで、とても最低なことをしてジェシカを怒らせてしまったんだ。それに大切な親友も失ってしまった。だからおでは謝りたいんだ。ジェシカに、親友に、ちゃんと謝りたいんだ。でも、おでジェシカに避けられていて……どうしたらいいと思う? どんな顔で話しかければいいかわからないんだ」

 友子は真剣に俺の話を聞いてくれた。

 そして数分間、うーん、と悩んだ後に俺にアドバイスをくれた。

「お手紙を書いてみたらどうでしょうか? お手紙に太志さんの思いを込めてジェシカさんにお渡しすればいいと思います。それに親友の方との仲は大丈夫ですよ。太志さんはとってもいい人です。その方が太志さんのことを嫌いになるはずがありません。ですから、いつもどおり笑顔で話しかければその方ともう一度親友の仲に戻れると思いますよ」

 手紙か……いいかもしれない。

 俺はそんなことを思いながら空腹を忘れるために遠くの空に浮かぶ飛行機雲をぼんやりと眺めた。


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