その33
「大丈夫ですか?」
はて、どういうことだ?
確かに俺は夢から覚めたはず。
それなのに俺の目の前にはトモ子がいた。
「あ、はい。」
「あの・・・その体操着、高丘高校の方ですよね?」
俺が通う高校の名前をトモ子が言った。
いや、よくみるとこの人はトモ子じゃない。
確かにトモ子にとてもよく似ている。
黒髪で日本人顔。
とても色白で小さい鼻。
薄くて綺麗な唇。
やわらかい口調。
小さくてかわいらしい身の丈。
どれをとってもトモ子に酷似していた。
唯一つ、大きな胸がトモ子とは違った。
公式プロフィールではトモ子はCカップという設定になっている。
しかし、目の前にいる子は軽く見積もってもFカップはある。
俺は先ほど夢で見たボーリング玉と比べながら目の前のおっぱいを凝視した。
「あの・・・私、高丘高校に明日から転校します。波風友子といいます。よろしくお願いします。」
目の前の女の子は「友子といいます」と自己紹介をしてきた。
俺はさらに驚いた。
こんな偶然あるのだろうか?
容姿だけではなく名前までそっくりだとは・・・
「あなたのお名前は?」
「神原・・・神原太志です。」
俺は相手のペースに引き込まれるように自己紹介をした。
「太志さんですか。とてもいい名前ですね。」
「太志さん」と名前をさん付けで呼ばれたことなど今までなかったのでなんだかと
てもムズかゆかった。
「あの・・・先ほどまでここで倒れていたようですけど、大丈夫ですか?もし気分が悪いようなら病院までお送りいたしましょうか?」
「いえ、大丈夫でず。お構いなぐ。」
俺はムクッと立ち上がり体についたほこりを払った。
「どうぞ遠慮なさらずに。そこに車を止めてありますので。」
友子が指差すほうに目線をやるとそこには黒くて立派なリムジンが止まっていた。どうやらこの子はお嬢様らしい。
「ほんどに大丈夫です。アスファルトが冷たくて気持ぢよかったから寝ていただけでず」
「アスファルトは冷たくて気持ちいいのですか?」
不思議そうにそう言うと、友子はまるで日本舞踊の様な品のある動きで膝を地面につき、次いで左頬を地面にぺたりとくっつけた。
「あぁ、気持ちいい。ほんとにヒンヤリとして気持ちいいですね。」
俺は友子の不可思議な行動にあっけをとられた。
いや、正確には見惚れた。
友子の所作が生み出す美しさに俺は固唾を呑んで見惚れていたのだ。
「お嬢様、いけません。汚い地面にお顔をつけるなど、はしたないですよ。」
運転手らしき白髪頭の紳士がリムジンから出てきた。
「じいもやってみなさい。とっても気持ちいいですよ。」
「お嬢様、いけません。」
白髪頭の紳士は先ほどよりも強い口調で友子を戒めた。
「そうですか。とっても気持ちいいのに。じいのわからず屋。」
友子はすねる子供の様に口を尖らして言った。
その姿はとてもかわいらしかった。
「じい、こちらの方は私と同じ学び舎のご遊学です。気分が悪い様なので送っていきます。すぐに車をこちらに止せてください。」
「わかりました。少しお待ち下さい。」
そう言うと白髪頭の紳士はリムジンに乗り込み、すぐに旋回して車を道端に止せた。
「あの、ほんとに大丈夫でずから・・・」
「さあ、乗ってください。」
友子は俺の言葉など意に介さず俺を車に押し込んだ。
「ブォオォオォオオオオ!!」
150キロの俺を乗せたリムジンはとても燃費が悪そうな鈍い音を立てて走り出した。
「お家はどこですか?」
「高丘高校のすぐ近くでず。」
「そうですか。今何年生ですか?」
「高校三年生でず。」
「ほんとですか!私も3年生なんです。お友達になってもらえますか?」
「あ、はい。いいでずよ。」
友子はとてもはしゃいだ様子で笑っていた。
とても無邪気な笑顔は2次元のトモ子ではとても真似できないような豊かな表情だった。
「よかった。私、友達できるか不安だったんです。だって今の時期ってすごく中途半端だと思いませんか?もう半年近く今年も過ぎていますし、みなさんそろそろ進路のために受験勉強が忙しくなるでしょ?だからこの時期に転校してくる私と友達になってくれる人なんていないんじゃないかって。すごく不安だったんです。よかった太志さんがお友達になってくれて。」
友子は手のひらを合わせて口もとでスリスリしながら嬉しそうに微笑んでいた。
「おでで良ければいぐらでも。」
俺は太志さんという言葉にまだ慣れていなかったので照れるように言った。
「そうだ、太志さんに一つお願いがあるんです。」
友子は俺の目を見つめながら言った。
「おでで良ければいぐらでも。」
目を見ながら会話をすることに慣れていなかった俺はロボットのように先ほどと同じ言葉を繰り返した。
「私のこと友子って呼んでください。私、前の高校では「波風さん」とか「友子さん」みたいにいつもさん付けで呼ばれていたんです。なんだかさん付けで呼ばれると壁を感じてしまうんです。だから私、呼び捨てで呼ばれる人にいつも憧れていたんです。だから友子って呼び捨てで呼んでください!」
「わかっだよ。友子、これがらよろしぐ。」
俺は早速「友子」と呼び捨てで呼んでみた。
以外にすんなりと言えた。
いつもパソコンに向かってトモ子と呼んでいたおかげだろう。
「うれしい。太志さんに出会えてほんとによかったです。」
「俺のことも太志って呼び捨てで呼んでいいよ。」
俺の提案に友子は首をフリフリしながら答えた。
「それはダメです。私自分のことは呼び捨てで呼んでもらいたいですけど、私が他の人を呼び捨てにするのは嫌なのです。だから太志さんって呼ばせてください。」
そう言うと友子は俺の手をギュッと握りしめた。
汗ばむ俺の手のひらを嫌な顔一つせずに握る友子はとてもいい子だと俺は思った。俺は昔体育の授業でフォークダンスを行った際に「嫌!!触らないで!!気持ち悪い!!!」とペアになった女子に言われたことを思い出した。
「お嬢様、学校に到着いたしました。」
「あ、ここでいいでず。どうもありがどうございまじだ。」
俺は白髪頭の紳士に感謝の言葉を述べるとすぐにリムジンから降りた。
「明日学校でお会いしましょう。それではお元気で。」
友子はまるで舞い落ちる桜の花びらのように緩やかな動きで手を振り、別れの言葉を俺に告げた。
「ブーン!!」
150キロの俺を降ろしたリムジンはとても軽快な音を立てて走って行った。
友子・・・か。
とってもかわいくていい子だったな。
それにおっぱいも大きかった。
俺は友子のことを考えながら疲れた体を引きずって家へと向かった。
家に帰った俺はコッペパンを一つだけ食べた。
逆上がりを成功させるためにダイエットを決意した俺は毎日コッペパン一つだけですごすことを決めたのだ。
「ぐぅー、ぐぅー」
やはりコッペパン一つでは腹は満たされない。
俺は空腹を紛らわせるために大量の水を飲んですぐにベッドに入った。
「明日学校へいったらジェシカに謝ろう」
そう思いながら俺は眠りについた。