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デブ、宙を舞う  作者: たこき
31/66

その31

~文化祭まで残り1週間~


「ふわぁー、よぐ寝だ。」


時計を見ると針は午前8時を刺していた。


「・・・やっぱりごないが。」


俺は高橋先生がうるさいチャイム音とともにやってきて「神原!!特訓だ!!」と怒鳴ってくることを期待していた。

しかし、チャイムが鳴ることはなかった。


「そりゃぞうだよな・・・来るわげないよな。」


俺は先生を待つのをあきらめて高校の体操着に着替えた。

胸に『神原』と書かれた紺色の体操着。

当然俺に合うサイズはなかったので特注である。

結局、仕度を終えた俺は一人で近所の公園に向かった。


「さで・・・どうじよう?」


意気揚々と公園に来たのはいいが、正直何をしていいのかわからなかった。

今の状態で逆上がりに挑戦しても全く無意味なことは先生との特訓で身に沁みているしなぁ・・・


「とにかく痩せろ」


俺は先生の言葉を思い出し、とりあえず走ることにした。


「フン!!ゴハァー・・・ゲホォ・・・」


走り始めて五分、正直辛い。滝の様に流れ出る汗、股ずれで痛む太股、乱れる呼吸、上下に揺れるぜい肉、悲鳴をあげる膝関節、ずり落ちる短パン、目の中に入る汗・・・次々と弱音が出てくる。

心の中のもう一人の自分が「怪我する前に止まれ!!」と脅迫してくる。


「うわぁ!!」


俺は目に汗が入ったために段差に躓いて転んだ。


「イデデデデ・・・アハァン。気持ちいぃい。」


俺は痛みを忘れて地面にへばりついた。

地面はヒンヤリとしていてとても気持ちよかった。

いつかのように空を見上げて現実逃避をしようか・・・そんな誘惑が俺を襲った。

まだ1週間もあるんだ、今日はもうやめて明日特訓しよう。


「太志。お前最低だよ。」


高志の言葉を思い出す。

ここでやめたら・・・最低だよな。

もしここで妥協したら俺は明日も明後日も明々後日も妥協するに違いない。

今がんばれないヤツは一生がんばれない。

そうだ、今がんばろう!!


「よいじょ。ふん!!」


俺は立ち上がると再び走り出した。


「ゼハー・・・ゼハー・・・げぼぉ、げごぉ・・・」


気持ちは何とか誤魔化せても体は正直だ。

再び走りだしてから3分後再び体が悲鳴をあげる。

何とかあそこにある電信柱まで行こう。

あの電信柱に着いたら休もう。

そう思いながら俺は必至に短い手足を動かした。


「コホォー・・・コホォー・・・うっぷ、うえっぷ・・・」


電信柱に到着したから止まって休もう、そう思ったとき数十メートル先にもう一本電信柱が見えた。

・・・あそこまでだったらまだ走れそうな気がする。

やっぱり休むのはあの電信柱まで行ってからにしよう。

そう思った俺は依然として悲鳴をあげる体をまるでもがく様に動かしながら走り続けた。

そんな感じで俺は電信柱に到着するたび、もう一つ先の電信柱まで行こうと思いながら走り続けた。


「ヒッヒッフー、ヒッヒッフー、ヒッヒッフー・・・」


気がつくと呼吸がとても楽になっていた。

依然として膝関節と股ズレは痛むが体が温まってきたためか少し痛みが和らいできた。

これがランナーズハイというやつか!?


俺はそう思いながら走り続けた。


「みてみて!あそこに凄いデブな人が走っているよ。お肉プルンプルンしているね。」


「うわ!なにあのデブ?キモ!」


「すんごい汗だな。あの人が走ったあとに水溜りができているよ。」


遠くの方で罵声が聞こえた。でも、そんなことは全然気にならなかった。

とても集中しているのがわかった。

こんなに何かに集中して取り組んだの久し振りだ。

そう思いながら俺は走り続けた。

気がつくと空には真っ赤な夕陽が浮かんでいた。

さて、そろそろ帰宅しようか。

俺は帰宅しようと方向転換をした。

そこであることに気付いた。

あれ・・・ここはどこだ?

見知らぬ景色が俺の目の前に広がっていた。

こんな見知らぬ土地に来ていたとは・・・。

俺は正直方向音痴なので無事に帰れるか不安に思った。

とりあえず俺が走ったあとには汗の水溜りが出来ていたのでそれを頼りに俺は帰路についた。

想像以上に遠い場所に来ていたらしく30分ほど歩いても俺の見知らぬ風景が続いた。


「あれ?・・・困っだなぁ。」


俺が頼りにしていた水溜りが蒸発してなくなっていたので俺は困った。

さて、ここは右だったか?それとも左?いや、真っ直ぐでいいんだっけ?

十字路に差し掛かったとき、俺は途方にくれた。

ここで道を間違えたら大変だなぁ・・・。

正直体がとても疲れていたので俺はここで間違った道へ行くのは嫌だと思った。

とりあえず休もうか。

そう思い気を抜いた瞬間、俺の体はクロスカウンターを受けた矢吹ジョーみたいに膝から崩れ落ちその場に倒れた。


「・・・アハァン。気持ぢいぃい。」


夕闇の涼しい風を吸い込んだアスファルトはとても冷たく気持ちよかった。

そして俺は寝た。

よっぽど疲れていたのだろう。

道端で恥じらいもなく寝てしまうとは・・・不覚。

そう思いながら俺は熟睡した。


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