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デブ、宙を舞う  作者: たこき
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その2


1週間家にひきこもりながら俺は色々考えた。

やっぱり今から「ずいません。ゆるじてください。」とジェシカに謝りに行こうかと、何度も思った。

けど、何度も考えを重ねるうちに『逆上がりなんて小学生でもできるような簡単なことじゃないか』と思うようになり、少しやる気になった。

更にもう一つ、逆上がりを成功させなければいけない理由がこの引きこもっている1週間の間に生まれた。

それはちょうど引きこもり生活4日目のことであった。


俺はいつものようにネットの世界へと飛び込んだ。

俺は愛する2次元アイドルをメインにしているホームページを開設している。

その名も『2次元アイドルの館』というホームページである。

自分で言うのもなんだがファンの間ではかなり有名なホームページで毎日100人くらいの訪問者がいる。俺自身も『ぽっぴー』という名前でネットの世界では有名で、『室松』『ごんぞう』『ぽっぴー』の三人は2次元アイドル3人衆と呼ばれ、一部の2次元アイドルファンの間では神と崇められている。

そんな俺のホームページには2次元と3次元の間で揺れ動く童貞くんたちの相談が数多く寄せられる。

俺はそんな迷える童貞くんたちの相談に的確なアドバイスをしてあげているのだ。

その日も迷える童貞くんからの相談があった。


『こんにちは、グリゴレンと言います。16歳です。ぽっぴーさん、相談があります。最近話題のエロゲー『キスの嵐!!再び!?』をプレイ中に感極まって画面上の女の子にキスをしてしまいました。しかし、ぜんぜん気持ちよくありませんでした。僕にはキスのよさがいまいちわかりません。キスってどんな感じなんですか?うまくキスの感じを想像できればより楽しくプレイできると思うので、出来れば具体的に教えてください。』


正直この質問には困った。

当然のことながら俺もキスをしたことがないからだ。

ネットで顔なんて見えないのだから嘘を書けばいいじゃん!とあなたは思うかも知れない。

しかし、それを俺のポリシーは許さない。

嘘を書いた時点でネットを通して人と人とが関わり合う意味がなくなると俺は思っている。

顔が見えないからこそ本音を書ける、それがネットの世界だと俺は信じている。

だからこそ嘘を書いた時点で俺はネットをやる資格はないと思っている。

このポリシーだけは曲げられない。

このポリシーを破ることがあったら俺はホームページを閉鎖しようと考えているほどだ。

だから俺は絶対に嘘を書かない。

かといって「俺もキスしたことないからわかりません。」では俺のことを神と崇めてくれている2次元アイドルファンに申し訳が立たない。

そこで俺は少し考えた後、返信文を掲示板に書き込んだ。


『残念ながら私もキスをしたことがありません。私の唇はそこら辺の女が手を出せるほど安くはないので仕方のないことです。しかし、安心してください。今からおよそ2週間後に私はとある女性とキスをする予定です。それもとびきり美人と。ですから2週間お待ち下さい。2週間後にずばりお答えしましょう。果たしてキスとはどんな味がするのか?イチゴ?レモン?ブドウ?楽しみにしていてタモレー。』


翌日、掲示板にグリゴレンから新たな書き込みがあった。


『こんにちは、グリゴレンです。ぽっぴーさんには失望しました。こう言ってはなんですがぽっぴーさんは僕と同じくモテナイ人間であると思います。そんなぽっぴーさんが美人とキスなんて嘘にしか聞こえません。ぽっぴーさんはけして嘘をつかない人だと信じておりましたが失望しました。やはり、3次元の人間は信用できません。嘘をつかない2次元の人間だけを信じて生きてゆきます。』


俺は誤解を解くためにすぐに返信文を書いた。


『美人とキスをするという文章は嘘ではありません。紛れもない真実です。確かに、タダで美女とキスができるほど世界は甘くありません。多少の困難な条件はございます。しかし、その条件を見事達成して私は必ず美女とキスをします。2週間後に美女とキスをしている写真を掲載することをここに誓いましょう。我らが神、2次元アイドル『トモ子』に誓う!!信じてタモレー。』


翌日掲示板にグリゴレンから新たな書き込みがあった。


『こんにちは、グリゴレンです。さすがに『トモ子』に誓われたらぽっぴーさんを信じないわけにはゆきませぬ。ぽっぴーさんのこと信じてみようと思います。』


グリゴレンのこの言葉が俺を1週間にわたるひきこもりから救い出した。

「逆上がり!!頑張るぞ!!」

俺は薄暗い部屋で一人声を上げた。



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