その28
トモ子との出会いは俺が小学6年生のとき。
当時の俺はすでに体重150キロ、身長150センチであった。
小学6年生で体重150キロというのは当然デブだが、身長150センチというのはけしてチビではなかった。
当時から俺は『デブ』とか『三段腹』と悪口を言われていた。
つまり、いじめられていた。
でも当時の俺は特にいじめられているとは思っていなかった。
なぜなら喧嘩が強かったからだ。
当時から手足が短かったため相手の攻撃を防いだり避けたりすることはできなかったし、こっちの攻撃も全然あたらなかった。
でも、体は俺のほうが3倍くらいでかいので最終的に倒れこんでしまえば向こうはギブアップしたのだ。
そんな俺には友達がいなかった。
だから俺は友達が欲しくていじめられている子を助けていた。
当時の俺は『自分は強いんだ!!』『自分はヒーローなんだ!!』と思い込んでいた。
いや、思い込むことで自分がいじめられているという現実を、自分が誰にも必要とされていないという事実を、自分は一人ぼっちなのだという真実を見ないようにしていた。
『俺はいじめられっ子から必要とされている』
その考えだけが当時の俺を支えていた。
そんな俺のたった一つの支えはたった一人の少女によって見事に打ち砕かれた。少女の名前はたしか愛だったと思う。
愛は数人の男子にいじめられていた。
俺は何の迷いもなく愛を助けた。
「大丈夫だっだがい?」
俺はヒーロー気取りで優しい言葉をかけた。
俺はこのとき「ありがとう」という言葉を期待していた。
本来、「ありがとう」という言葉は期待するものではない。
でも、当時の勘違いしていた俺は無意識の内に感謝の言葉を期待していた。
「このデブ!!誰も助けなんて頼んでねーよ!!このブタ!ウンチ!カス!ヘドロ!ゴミ!ち○こ!亜qwセdrftgyふじこlp・・・」
少女の口から出てきたのは感謝の言葉ではなく、思わず耳を塞ぎたくなるような汚い言葉の数々であった。
俺は感謝するどころか暴言を吐く目の前の女の子に対して無性に腹がたった。
「なんだおめぇ、せっがぐ助げでやっだのに!!」
「・・・う、うぇーん!!」
俺が強い口調で怒鳴ると愛は突然泣き出した。
このとき俺は気付いた。
いつの間にか俺は「ありがとう」と言ってもらいたくていじめられっ子を助けていたのだ。
俺はいじめられっ子に必要とされていたんじゃない、俺がいじめられっ子を必用としていたんだ。
ありがとうという言葉を聞いて自分の存在価値を確かめようとしただけなんだ。
「ごめんよぉ・・・」
俺はそう呟くと愛と一緒に泣いた。
俺はこの日初めて現実を受け止めた。
俺はみんなからいじめられている。
みんなから嫌われている。
俺は必要とされていない。
俺は一人ぼっちだ。
俺は弱い自分を守るために弱いものを助けていたんだ。
ヒーロー気取りの自分をいじめられっ子に押し付けることで無理やり俺のことを必要な人間だと思わせようとしたんだ・・・
その日以来、俺はひきこもった。
突然、人前に出るのが怖くなった。
鏡を見るのが嫌になって家中の鏡を割った。
遺書を書いてみたりもした。
そんな感じで俺はどんどん暗くなっていき、気がつくと半年ほどひきこもっていた。
そんなとき、俺はトモ子と出会った。