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デブ、宙を舞う  作者: たこき
25/66

その25

「・・・神原。ごめんな。ジェシカが俺に命令していたっていう話、あれ嘘なんだ。ほんとにごめん。」


いつの間にか高橋先生は意識を取り戻していた。

どうやら俺とジェシカのやりとりを聞いていたようだ。


「やっぱり嘘でじたか・・・」


よくよく考えてみればジェシカが高橋先生をキスで誘惑したなどという話、嘘だとわかったはずだ。

高橋先生は自分の立場が悪くなればすぐに嘘をつき、誰かのせいにする人間だと俺はすでに知っていたはずなのに。

それにジェシカが俺の特訓を助けるような行為をするメリットが一つもないということも考えれば容易にわかったはずだったのに・・・


「ごめんな。ほんとにごめん。今度ジェシカには俺から謝っておくからさ。だから唐沢先生に弁明してくれ頼む。」

「嫌でず!!先生は嘘ばっがりだ!!そんな先生の弁明なんてじたくありまぜん!!」


俺は自分でもビックリするくらい大きな声で怒鳴った。店内は静かになった。


「すいませんお客様・・・他のお客様の迷惑になりますので・・・」

「ずいませんでじた。勘定お願いじまず。」


俺は勘定を済まして店を出た。


「神原、ちょっと待ってくれ。送っていくから。」


高橋先生はあせった様子で俺を追ってきた。


「結構でず。」

「そう言うな。乗ってけ。」

「いいでず。」

「いいからいいから。乗っていけって。」

「遠慮しまず。」

「せめてもの罪滅ぼしだ。乗っていけよ。」


そんなやりとりを俺と高橋先生は数回繰り返した。


「・・・わかりましたよ!!乗ればいいんでしょ?乗れば!!」


結局俺のほうが折れて車へと乗り込んだ。


「ブォオォオォオオオオ!!」


150キロの俺を乗せた車はとても燃費が悪そうな鈍い音を立てて走り出した。一時は100キロまで減っていた体重も沢山食事をしたため150キロまで戻っていた。


「あのな・・・」


いつも運転中は無口な高橋先生が話し始めた。


「さっきも言ったけど俺がジェシカに頼まれてお前の特訓を嫌々手伝ったっていうのは嘘なんだ。」

「・・・」


俺は何も答えなかった。


「ジェシカに頼まれたっていうところは当然嘘なんだけどな、嫌々お前の特訓を手伝ったっていうところも嘘なんだ。」

「・・・」


俺は窓の外の景色をぼんやりと眺めた。

もしかしたらジェシカがいるかもしれないと思いながら。


「俺は本気でお前に逆上がりをして欲しいと思っている。心からお前の成功を願っている。だからあんなに厳しい特訓をお前にしたんだ。信じてくれるか?」

「・・・」


俺は窓の外を見ながらジェシカの瞳に浮かんでいた涙を思い出していた。


「信じてくれないよな・・・。実はな、もし神原が逆上がりに失敗したら俺が神原の代わりに裸踊りをするつもりだったんだ。」

「・・・」


いつもオットリとした口調の高志があんなにハッキリとした口調で俺に「最低だ」と言ってきた。

もう今まで通りの仲には戻れないのだろうか・・・。

俺は赤信号のランプを見ながら「自分は最低なことをした」と改めて後悔した。

「これを見てくれ。」


高橋先生は赤信号で車が止まったときすぐに鞄から小箱を取り出して俺に見せてきた。


「これは?」

「婚約指輪だ。」

「え!?・・・どういうことですか?」


高橋先生は何故このタイミングで婚約指輪を取り出してきたのだろう?俺は意味がわからなかった。


「ある人にプロポーズしようと思ってな。結構高いんだぞこれ。ところでこの指輪いつ買ったと思う?」


先生は俺の疑問に答えるどころかさらに質問を重ねてきた。


「・・・えっと。一ヶ月前くらいですか?」


わけがわからなかったが俺はとりあえずてきとうな数字を答えた。


「3年前だ。3年前にプロポーズしようと決めてこの指輪を買った。それから3年間、一度も渡すことができなかった。」

「はぁ・・・そうですか。」


その話と俺の逆上がりの話がどう繋がるのか俺にはわからなかった。


「きっかけがなくてな・・・。なにかきっかけがあったらプロポーズしよう!そう思っていたら3年間一度もきっかけらしいきっかけがなくてな。もうあきらめようと思っていた。そんなとき、神原が俺のところにやってきて『高橋先生!おで、逆上がりがしたいでず。どんな辛いことでも耐えて見せまず。ご指導よろしくおねげぇしまず。』って言ったんだ。覚えているか?」

「あ、はい。」


そうだ!もとはといえば高橋先生に特訓を頼んだのは俺自身だった。俺は自分で自分の首を絞めていたのだ。


「あの時、俺は神原に賭けることにしたんだ。神原が逆上がりに成功したらプロポーズしようと思ったんだ。けど、そこで一つ問題が起きた。唐沢先生が文化祭の翌日にお見合いをするっていう情報が入ったんだ。だから俺は決めたんだ。文化祭の日に神原が逆上がりに成功したらプロポーズをすると。そしてもし神原が失敗したら俺が神原の代わりに裸踊りをして唐沢先生に思いっきり嫌われようと。唐沢先生にプロポーズするのをあきらめようと思ったんだ。だから全校集会の時に神原が裸踊りをすると宣言したんだ。神原を追い詰めようとして宣言したわけじゃないんだ。」


・・・はて、高橋先生はいったい何を言っているのだろうか?俺は冷静に分析してみた。

どうやら高橋先生は唐沢先生のことが好きらしい。

そして俺の逆上がりが成功したらプロポーズをすると決めているらしい。

逆に失敗したらプロポーズはあきらめて俺の代わりに裸踊りをしてくれるらしい。


「高橋先生は唐沢先生にプロポーズをじたいとずっと思っていだど。でも3年間できながっだと。そしてプロポーズをするか、しないかという大事な決断を俺に押じ付けだと。そういうことでずか?」

「・・・まぁ、そいうことだ。すまん。今更謝っても遅いと思うけど。ほんとにごめん。」


それ以降、高橋先生は一度もしゃべらなかった。


「送っでいただいてどうもありがとうございまじた。」


俺は先生に御礼を言った。

先生は俺が家に入るのを見届けた後、帰っていった。


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