その22
「制限時間は30分。一番多く食べた人には賞金1万円!!さぁ、皆さんがんばってください!!」
ここからはみなさんも少しはご存知でしょう。
「おごってやる」と言ったくせに先生はお金を出したくないらしく俺を大食い大会に参加させた。
「よーい、スタート!!」
どちらにせよ飯が食えると思った俺は無我夢中でハンバーガーを口へと運んだ。
ハンバーガーが舌に触れた瞬間、目から涙がこぼれた。
美味い・・・。
今まで食べたどんな食べ物よりも美味い。
咀嚼するたびに旨味が口の中にあふれ出す。
肉、トマト、レタス、それぞれの素材本来の旨味をそれぞれ感じる。
こんなの初めてだ・・・。
今までは口に入れば全て同じで、それぞれの素材の繊細な味など感じたことはなかった。
さらに咀嚼をすると今度は肉とトマト、トマトとレタス、レタスと肉とそれぞれの素材が混ざり合い、芸術的な美味さを作り上げた。
まさに極上のハーモニー。
再びこぼれ落ちる涙。
「ゴクリ」。
喉の括約筋を使い食道へとハンバーガーを送る。
胃にハンバーガーが納まった瞬間、なんともいえない安堵感が全身を襲う。
これぞ至福の瞬間。
生きている、俺は確かに生きている。
俺は『食』を通して『生』を実感した。
それからは手が勝手にハンバーガーを掴み、勝手に口へと運んだ。
「うぉ!!すげぇぞあのデブ!!」
「もう、50個食べたぞ!!」
「みてあの汗。気持ち悪。」
周りの歓声及び悪口はいっさい俺の耳に入ってこなかった。
俺は無言でハンバーガーとの会話を楽しんだ。
「はい!!30分経ちました。皆さん終了してください。食べるのをやめてください!!」
気がつくと大食い大会は終わっていた。
俺はちょうど100個目のハンバーガーを食べ終えたところだった。
「優勝はこちらの神原太志さんです。なんと100個もハンバーガーを食べました!!さぁ、どうぞ。賞金の1万円です。」
このとき、100個ものハンバーガーを食べたのだが俺の腹は1割ほどしか満たされていなかった。
「まだ食いたりん!!次はラーメンだ!!」
俺はそう言うと賞金を受けとり店から出た。
外に出た俺は大量の汗をかいていたので着ていたTシャツを脱いで絞った。
「ドバドバドバ!!!」
滝のようにTシャツから流れ出る汗。
「キャーー!!キモイ!!」
突如湧き上がる悲鳴。
俺の足元には水溜りが出来ていた。
「神原、実はお前に頼みが・・・」
「先生、早く次の店に向かってください!!」
食べることしか頭になかった俺は先生の話など聞く耳を持っていなかった。
俺が先生の話に聞く耳を持ったのはラーメン屋、お好み焼き屋、やきとり屋、そば屋と次々に飲食店の大食いチャレンジに挑戦していったちょうど10件目だった。