その21
「え!?」
気がつくと俺は高橋先生に背負われていた。
いや、正確には一本背負いされていた。
「ザパーン!!!」
一本背負いされた俺の巨体は大きな波しぶきとともにプールの中へと沈んだ。
「オワップ!?ウップオップ!!」
「おお、気がついたか。いやーお前をここまで運ぶの大変だったんだぞ。とりあえずお前汚いからプールの水で身を清めろ。」
俺は体を洗いながら六日ぶりに水を飲んだ。
汚いプールの水であったがとても美味かった。
極限状態に追い詰められた人間に『清潔』とか『グルメ』なんて言葉はなんの意味もなさないということを俺は身をもって実感した。
水を飲んだ俺は穏やかな気持ちでいろんなことを思い出した。
そういえば何で俺は今ここにいるんだろう?
確か先生が厳しい特訓をして、死にかけて、先生が医者に嘘を言って、逃げ出して・・・
「ムキィーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!」
水を飲んで少し元気になった俺はこんな状況に陥る原因となった先生に対して怒りをあらわにした。
「先生!!!!あんたぞれでも教師でずか!!!よぐもまぁあんな嘘をペラペラど!!!」
俺はプールから這い上がると先生に殴りかかろうとした。
「よし、飯喰いに行くぞ!!今日は俺のおごりだ。」
「お供じまず。」
食慾にまさる感情なし。
俺は先ほどまで怒っていたことを一瞬で忘れた。
「ざぁ!!はやぐ行ぎまじょう!!」
「その格好でか?とりあえず服を着てこい。あと記念に体重を測定してみたらどうだ?おまえビックリするくらい痩せたぞ。今の体型ならきっと逆上がりできるぞ。」
俺は改めて自分の体を見てみた。
スッポンポンだった。
それに1週間前にはパンパンに張っていたお腹がすっきりしている。
いや、腹減った。
とにかく腹が減った。
俺はすぐに先生が用意してくれた服に着替えた。
腹減った。
ついでに体重を量ったらなんと100キロだった。
腹減った。
50キロも減量していた。
俺はビックリし・・・腹減った。
とにかく腹減った。
口からでる涎が止まらない。
「よし、準備できたな。じゃあ、まずはハンバーガー屋にでも行こうか?」
「異議なじ!!」
かくして俺と高橋先生はハンバーガー屋へと向かった。
このときの俺はやけに高橋先生がやさしいことに疑問を抱くことはなかった。
このとき俺の頭の中はハンバーガーでいっぱいだったのだから仕方のないことだ。