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デブ、宙を舞う  作者: たこき
20/66

その20


お化けの正体は鍵を探しにきた看護士さんだった。ここで俺が看護士さんをお化けと勘違いしてしまったことは別にたいした問題ではない。

本当の問題はこのあと看護士さんが俺のことをお化けと勘違いしてしまったことだ。

「え!?・・・なにこの水溜り!?お化け!!きゃーーーーーーーーーー!!!!!」

看護士さんは俺から流れ出る汗によってつくられた水溜りを見て逃げ出した。

そう、この日以来この病室にはお化けが出ると噂が流れ、誰も近づかなくなってしまったのだ。

そのため俺は六日間、誰に気付かれることもなくベッドの下で過ごすはめになったのだ。

俺の巨大な肉体は狭いベッド下のスペースに見事にすっぽりとハマリ、そこから自力で抜け出せなくなってしまったのだ。


俺がベッドから動けなくなってから一日目、俺は現状把握に苦しんだ。

腹が減ったが何とか我慢できた。


二日目、ようやく現状を把握した俺は必至でベッドの下から抜け出そうといろいろと試行錯誤した。

しかし、抜け出すことは出来なかった。すぐにあきらめた。

腹と背中がくっつくかと思うくらいお腹がすいた。

俺のずば抜けた精神力と腹に蓄えた脂肪のおかげで何とか我慢できた。


三日目、極限まで達した空腹感。「ゲォー、ゲォー」と不気味になる腹。

それを聞いて余計に人が寄り付かなくなる病室。

死ぬかと思った。


四日目、何も考えなかった。

我慢できずに失禁した。


五日目、幻覚を見た。

体から腐乱臭がした。


六日目、俺は眠りについた。

夢など見ないほど熟睡した。

内心、俺は死んだのではないかと思った。

気がつくと俺は寝返りをうっていた。

するとどうだろう?六日間何も食わなかった俺の肉体は見事に痩せていて、そのおかげで俺はベッド下からの脱出にみごと成功した。

俺自身、何が起きたかわからなかった。

まるで目の前でイリュージョンショーを見せられたような感覚だった。

「あうぅ・・あぐぉ・・」

声にならなかった。

俺はようやく得ることができた自由に心底感動した。

目からは塩辛い涙があふれ出て止まらない。

生きているということはなんて素晴らしいことなのだろう?

飯を食えるということはなんて素晴らしいことなのだろう?

自由に動けるということはなんて素晴らしいことなのだろう?

トイレで排泄ができるということはなんて素晴らしいことなのだろう?

飯を食えるということはなんて素晴らしいことなのだろう?

寝返りをうてるということはなんて素晴らしいことなのだろう?

飯を食えるということはなんて素晴らしいことなのだろう?

飯を食えるということはなんて素晴らしいことなのだろう?・・・俺はかみ締めるように心の中でそう思い、神に感謝した。

「あぅ・・・」

さて、困った。

自由になったのはいいのだが、ぜんぜん力が入らない。

このときの俺には自力で立ち上がる力すら残されていなかった。

しかも、声も出でない。

助けを呼ぶこともできない。

俺は残された力を振り絞りナメクジのように這いつくばって病室の扉へと向かった。

俺が這いつくばった後には汗やら尿やら涙やらいろんなものが混ざった汚らしい汁が俺を追いかけるように広がっていた。

俺がようやく扉にたどり着いたとき、扉の向こうから声が聞こえた。

「神原ー!!いたら返事しろー!!・・・やっぱり病院にはいないのかなぁ・・・」

聞き覚えのある声を聞いた俺は最後の力を振り絞ぼって扉を叩いた。

「ドン!ドンドン!!」

そして、力尽きた俺は再び気を失った。


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