その1
その1
「高橋先生!おで、逆上がりがしたいでず。どんな辛いことでも耐えて見せまず。ご指導よろしくおねげぇしまず。」
熱血体育教師の高橋先生に俺は助けを求めた。
「よく言った!!神原!!先生はお前のそのやる気に感動したぞ!!いいだろう、俺が絶対にお前に逆上がりをさせてやる!!!」
いつも黒い体操着姿で何故か頭に鉢巻を巻いている高橋先生は俺の予想通り承諾してくれた。
「まず、なにをしだらよいでしょうか?」
「やせろーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!このデブ!!!!」
教師とは思えない暴言に俺のハートは深く傷つき、俺は一週間学校を休んで家に引きこもった。
ここで俺が逆上がりに挑戦するきっかけとなった我が学校のアイドル『ジェシカ』について少し説明しよう。
本名は高岡・ジェシカ・愛。ジェシカをミドルネームにもつハーフの女の子だ。
みんなからジェシカと呼ばれている。
身長170センチの長身でとても足が長い。
そのスタイルのよさからとある雑誌の読者モデルをしているらしい。
髪は完全に金髪で肩より少し短いくらい。
顔がとても小さく輪郭は黄金比を上回るほどに美しい放物線を描いている。
目は鋭く、強い女性をイメージさせる眼力を持つ。
鼻は筋が綺麗に通っていて、外人の遺伝子を感じさせるほど高い。
耳は小さく、とてもダンボの様に飛べそうもない。
唇はとても薄く、綺麗な富士型をしている。
つまり、一言で言えばとても美しい女性なのだ。
そんな彼女にも弱点はある。
胸が小さいのだ。
本人はCカップと言っていたが俺はA、良くてBの前半とにらんでいる。
そんなジェシカと初めて会ったとき、ジェシカは俺に向かってこう言った
「チビデブ!!キモ!!」
俺だって男である、そんな罵声を浴びせられて黙ってはいなかった。
「おめぇだってぺチャパイじゃないか。」
そのとき、周りの空気が凍りついたのを今でもよく覚えている。
「Shit!!!」
凍りついた空気を打ち砕くようにジェシカは俺の頭上20センチのところからコブシを落雷のように振り下ろした。
「いでぇ!!なにずるだ!チビだからって馬鹿にずるな!!」
俺は太くて短い手足を振り回して必至に交戦した。
結果はお察しの通り、俺の完敗だった。
その喧嘩騒動以来、ジェシカは何かと俺に絡んでくるようになった。
「いいよな三段腹は。学園のアイドルに話しかけてもらえるなんて。俺なんか近づくことさえできないのに。」
なにかとジェシカに絡まれている俺を見て、他の男子はうらやましがっていた。
しかし、正直俺は2次元の女以外愛せないので学園のアイドルに絡まれたところでぜんぜん嬉しくなかった。
むしろ俺よりやせていて身長の高い女子に罵声を浴びせられるのは屈辱以外のなにものでもなかった。
そんなある日の体育の授業中、ジェシカはいつものように俺に絡んできた。
「おい、デブ!お前逆上がりできないだろ!!」
「おでが逆上がりできるように見えるか?」
俺は皮肉とありあまるぜい肉を込めて尋ね返した。
「見えん。だって、その三段腹がひっかかって・・・あはははは!!Ahahahahaha!!」
ジェシカは腹を抱えて笑い出した。
「おでだって少し練習ずればずぐにでぎるようになるさ。今までやらながっただげでやればできるさ!!」
俺は二の腕を上下に振り動かしながら言った。
「くくくく・・・」
俺の二ノ腕のゆれを見てジェシカは再び笑いをこらえるように腹を抱えた。
「笑うな!!コンヂクショウ!!絶対に出来るんだぞ!!」
俺は先ほどより強い口調で両腕の肉を揺らせながら言った。
「そこまで言うなら賭けようか?もし、あんたが逆上がりできなかったら・・・そうねぇ、全裸で裸踊りしてもらうわ。しかも全校生徒の前で。」
俺の怒り、そして肉のゆれは静まることはなく、思わず
「いいだろう。そのかけ乗っだ!!」
と言ってしまったのだ。
「裸踊りだよ?ほんとにいいの?」
ジェシカの確認によって俺は少し冷静になった。
俺に逆上がりなんか出来るわけがない。
ということは必然的に、俺は全校生徒の前で裸踊りをしなければいけなくなる。
そんなのはごめんだ。
しかし、あとに引くわけには行かない、男として。
そこで俺は相手に引かせようと考えて相手に何か条件をつけさせることを思いついた。
「じゃあもじ、おでが逆上がりに成功したらおめぇは罰ゲームだかんな!!」
「いいよ、だって私負けないもん。」
ジェシカは強気な態度で言ってきた。
どうやら向こうも引く気はないらしい。
「じゃあ、もしあんたが逆上がりできたらキスしてあげる。」
かくして俺は逆上がりに挑戦するはめになってしまったのだ。
「期限は3週間後の文化祭までね。文化祭の日に逆上がりができなければそのまま文化祭のステージで裸踊りしてもらうから。もし、逆上がりできたら全校生徒の目の前でキスしてあげる。」
そう言うとジェシカは俺の三段腹の二段目をギュッと強く握り、「ホゲェー!!」と痛がる俺を見て、ニヤッと笑いながら去っていった。
あのときのムカつく笑顔は今でも俺の脳裏に焼きついて離れない。