その14
僕たちがラーメン屋についた頃、空には一番星が輝いていた。
「デブはどこだ!!さっきまでここに飛び切りのデブがいたはずだ!!」
狭い店内を見回しても巨大な肉の塊は見当たらない。
「あぁ、あのおデブさんのことだろ?いやー、あれはほんとにすごいデブだった。さっきまでそこの席で大食いチャレンジをしていたよ。10分間で特大ラーメン10杯食べたら1万円というチャレンジだったんだけど、なんとたった3分で平らげてしまったよ。あの喰いっぷりを見たときは腰を抜かすかと思ったよ。それでね・・・」
ラーメン屋の店主は『デブがメシを食う』という全く興味をそそられない汚らしい状況をまるでマジックショーでも見たかのように驚きの感情を交えて語りだした。
「その人はどこへ行ったかわかりますかー?」
僕は話を遮るようにたずねた。
「わからんねぇ。でも、帰り際に『まだ喰い足りん!!次はお好み焼きだ!!』と言っていたよ。いやー、あのデブはただのデブじゃないね。スーパーデブだよ。」
「ガリノッポ!!次はお好み焼き屋だ!!行くぞぉ!!」
ジェシカさんは再び走り出した。
僕はその後に再びついて行った。
結局お好み焼き屋に行っても太志はいなかった。
しかし、お好み焼き屋の店主から「そば屋に行くと言っていたよ」と聞きそば屋へ。
残念ながらそば屋にも太志はいなかった。
しかし、そば屋の店員から「やきとりを食べに行くと言っていたよ」と聞きやきとり屋へ。
そんな感じで店に行ってはデブの武勇伝を聞かされ次の店を紹介される、といったことを僕とジェシカさんは繰り返した。
気がつくと空には満点の星達が輝いていた。
「デブはどこだー!!デブはいねーか!!」
まるで「泣く子はいねーか!!」と叫ぶなまはげのようにジェシカさんは夜の街を徘徊した。
僕はドラクエのキャラクターのように無言でなまはげの後に付いていった。
そしてようやくハンバーガーショップから数えて10件目の店に到着した。
そこには立派な、とても立派なデブが一人いた。
僕はようやく見つけた大きな背中に向かって思わず叫んだ
「太志―!!」