その12
「おい、ガリノッポ。あのデブは見つかったか?」
心なしかジェシカさんの声に力がないように感じる。
太志のことを心配してくれているのだろうか?
「いえー。まだ見つかっていませんー。」
「そうかー・・・やっぱり私のせいだよなぁ。私が「逆上がりできないだろ!!」なんて言わなければ・・・」
ジェシカさんはそう呟くと空に浮かぶ真っ赤な夕陽を眺めた。
僕は3次元の女性に興味はないけどこのとき見たジェシカさんの悲しげな横顔はビックリするくらい美しいと思った。
「おい聞いたか!!今三丁目のハンバーガーショップで大食い大会やってるらしいんだけどそこにものすごいヤツがいるんだって。何でもすでに100個のハンバーガーを平らげたらしいんだけど、そいつがものすごいデブなんだって。そんでそいつが流す汗の量がすごくて洪水警報が鳴ったらしい。」
「あははは、それほんとかよ!マジうけるわ。」
町行く若者の品のない談笑のせいで美しかったジェシカさんの顔つきが変わった。
僕はジェシカさんのあの美しい顔をもっと見ていたかったので少し残念に思った。
「ちょっとあんた達!!今の話ほんと!?ねぇ、ほんとなの!!」
ジェシカさんは2人の若者に向かって怒鳴るようにたずねた。
「洪水警報っていうのは嘘です、冗談のつもりで言ったんです。すいませんでした。」
若者はジェシカさんの気迫に押されるように悪くもないのにあやまった。
「そこじゃない!!太ったやつが大食い大会に参加しているってとこだよ!!」
ジェシカさんは若者のむなぐらをつかみ、畳み掛けるように怒鳴った。
「そ、それはほんとうです・・・さっきハンバーガーショップで働いている友達からメールがあったので・・・そろそろ終わるころだと思います。」
若者の話を聞き終えるとジェシカさんは活き活きした顔で走り出した。
「なにやってんだ、ガリノッポ!!行くぞ!!ハンバーガーショップにあのデブがいる!!」
先ほどの悲しげな表情はとても美しかったが僕はこの活き活きとしたジェシカさんの顔のほうが素敵だな、と思いながらジェシカさんのあとを追った。