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デブ、宙を舞う  作者: たこき
11/66

その10

「ここは・・・?」

気がつくと病室にいた。どうやら気を失っていたらしい。

「太志ー、大丈夫かー?」

高志の声が聞こえた。

まだ、頭がクラクラして意識がはっきりしない。

何故自分がここにいるのかわからない。どうやら記憶の一部が喪失しているようである。

「実はなー・・・」

そんな俺の状態など気にせずに高志は俺に事の顛末を話し始めた。

「グルグル?回転?」

「そう、グルグルと回転してなー。でなー・・・」

朦朧とする意識の中、必至で高志の言葉からキーワードを拾った。

『水中』、『グルグル』、『鬼教師高橋』、『地獄絵図のような光景』、『溺れた』、『外れるふんどし』、『重くて水中から出すのが大変だった』、『口から噴水の様に水を出していた』『救急車』、『重過ぎて担架に乗らなかった』、『クレーン車』、『まるでUFOキャッチャーの様だった』云々・・・

高志から『外れるふんどし』というキーワードを聞いたあたりから俺の記憶はジワリジワリと蘇ってきた。

「・・・というわけでお前はこの病院に運ばれたんだ。」

そして、高志の話が終わるのとほぼ同時に完全に思い出した。

そして、俺は恐ろしさのあまり頭を抱えてブルブルお肉を震わし、絶叫した。

「ぴぃぴいいいいぃいい!!!嫌だ!!もう、あんなに恐ろじい特訓はうんざりだ!!!」

「まぁー、まぁー、落ち着いてー。そうだー、何か飲み物でも買ってくるからそれ飲んで落ち着こうー。太志の好きなコーラーでいいよなー?買ってくるからちょっと待っていてー。」

そう言うと高志は病室を離れた。

俺はその隙に荷物をまとめて部屋を出た。

右、左と誰もいないことを確認して俺は廊下を歩いた。

すると俺のいた病室の隣の部屋から聞き覚えのある大きな声が聞こえてきた。

「先生、神原太志の容態はどうですか?命に別状はないですよね?」

仮にも教師、どうやら高橋先生は俺の状態を心配してくれているようだ。

俺は足を止めた。

ここでもう少し立ち聞きすれば先生から謝罪の言葉が聞けるかもしれない。

「もう、あんな特訓はしません」と医者に誓ってくれるかもしれない。

そうすれば病室から俺が逃げ出す必要もなくなる。

基本的に俺は動くのが嫌いだ。

もし、動かなくてよいのなら無理に動く必用はないと俺は考える。

「ええ、神原君は大丈夫ですよ。ところで、どうして神原くんはあんなに大量の水を飲んで溺れてしまったのですか?」

もし、ここで俺に対する謝罪の言葉を言えば病室からの逃走なんてくだらないことやめてもいいんですよ、先生。

さぁ、懺悔しなさい。

ことの全てをお医者様に白状して「もう二度とあんなことはしません」と誓いなさい!!

俺は耳を壁に押し付けて謝罪の言葉を期待しながら先生の次の言葉を待った。

ちなみに俺が壁に耳をつけるということはそれと同時に頬、首、胸、腹、足すべてのぜい肉も壁に接触することを意味する。

太っている俺は他の人のように器用に耳だけを壁に当てることなど到底できないのだ。

「実はですね・・・」

高橋先生がとても言いづらそうに話し始めた。

その瞬間、俺は耳を疑った。

いや、教師高橋という存在そのものを疑った。

「実は、生徒が勝手に立ち入り禁止のプールに入って遊んでいたんです。でね、その日私は休日だったんですけど片付けなければいけない仕事が残っていたので休みを返上して学校で働いていたんです。するとプールの方から「助けてー!!」と叫び声がしましてね、これは大変だと思ってすぐに助けに向かったんです。それで・・・」

なんと高橋先生の口から出てきたのはすべて自分の都合のいいように真実を捻じ曲げた嘘であった。

そのあとも驚くような嘘が高橋の口から投球マシンのようにリズム良く飛び出した。

『華麗にプールに飛び込んだ』、『もう一人の生徒に救急車を呼ぶように的確な指示をした』、『人工呼吸に心臓マッサージ』、『噴水のように飛び出る水』、『教師として当たり前の行動』、『150キロの巨体を一人で持ち上げた』、『見てくださいこの力こぶ』、『昔ラグビーで花園に行ったことがある』云々・・・

実際にプールに飛び込んだのは高志一人だけ。

救急車を呼んだのも高志。

先生はあたふたしていただけ。

「気持ち悪いから嫌だ!!」と人工呼吸を拒否。

心臓マッサージという名前のボディーブロー。

勢い良く俺の口から出てきた水をみて「噴水みたいだ!!」と大喜び。

俺の体を持ち上げたのはクレーン車。

その隙に先生は証拠隠滅。

力こぶは確かにあるがラグビーは万年補欠・・・

「ムキィー!!!」

俺は怒りのあまり思わず叫んでしまった。

「誰だ!?」

俺はすぐにその場から逃げ出した。


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「ほらー、コーラー買ってきたぞー・・・あれー?太志ー?どこいったー?」

僕が病室に戻ったとき、そこに太志の姿はなかった。


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