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51 輝く夜空の闇に潜む

ラストに向けて、本日三話投稿です。ご注意ください。

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「な~んておめでたい話だったら良かったのにねぇ~」


 などと言いながら、望遠鏡片手に木の上から、フィスト達の生活する家を覗いていたリルスが笑う。


「んん~。まさかのフィストが最初に出産するなんて。結婚は早そうって思ったけど、絶対リンジに邪魔されて新婚生活は苦労するだろうって思っていたのに。セーラを警戒して妊娠しながら逃亡とか、そもそも妊娠していたなんて気付けなかったわぁ~!」


 見守る先で、小さな家の灯りが消える。

 住人達が完全に寝入ったのを確認し、リルスは望遠鏡から目を離した。


「おかげで、こ~んなところまで来る羽目になっちゃったぁ」


 クスクス笑いながら、望遠鏡を下げる。灯りは消えたが、まだ動けない。


「うふふ、まだ警戒解いていないのよねぇ~流石ぁ」


 勇者という大きな嵐が過ぎ去っても、フィストはまだ警戒をやめていない。

 何故ならフィストを襲った敵がまだ潜んでいるかもしれないからだ。


 勇者一行から情報を伝えられても、襲ったのが隣国の諜報員ということしか判明していない。何故襲われたのか。理由がわからないのに、警戒を解くなどフィストならあり得ない。

 周囲に悟らせずに警戒を続ける。自然体であっても油断ならない。


 頼りになる仲間の変わらない部分に、リルスは楽しげに笑った。


「井戸があれば毒でも投げ入れるけど、ここって川が近いからって井戸がないのよねぇ。不便だから開発すればいいのに。川に毒を流してもねぇ。フィストが死ななければ意味がないし……他に暗殺方法を考えた方がよさそう」


 フィストは化け物なので、遠距離からの攻撃も殺意があれば気付いてしまう。

 警戒している今では、絶対気付かれる。二度目は通用しない。

 銃身を撫でたリルスは、高揚して染まる頬に手を添えた。


「本当に、フィストってば殺し甲斐があるわぁ~」


 ガンマンのリルス。

 海の向こう側からやって来た、流離いのガンマン。

 などというのは仮の姿で……その正体は、隣国の諜報員の一人だった。


 勇者達に語った、諜報員の特徴は嘘ではない。しかし耳が切られるのは、捨て駒にされるのが前提の、訓練に付いてこられない落ちこぼれ達だけ。

 彼らは本命の諜報員が相手の懐に入り込む為の捨て駒だ。本命が手柄を得る為に使い捨てられる存在。


 そんな彼らがフィストを襲撃したのは、化け物のフィストがとても気を抜いていたからだ。子育てに邁進して日常を過ごす英雄。殺伐とした空気が抜けていて、今ならいけると思ってしまったのだろう。

 この国が英雄を完全に取り込む前に散らすか殺すかしなくては、魔王を倒した英雄が一箇所に留まるのは、周辺諸国として都合が悪かった。


 勇者召喚を行うのは、その時一番優勢な国。

 魔王討伐に向かった勇者を保護するのも、召喚した国だ。


 つまり、ただでさえ強い影響力を持つ国が、更に力を得てしまう構図となる。普通に過剰戦力だ。


 しかし大体の場合は魔王討伐でどの国も疲弊し、国力は下がる。旅の途中で力尽きる仲間も居る。魔王に辛勝し、帰還前に力尽きた過去もある。よって勇者を召喚したからと、その国が有利になる訳ではない。


「リンジなら生きていた方が国に迷惑だから、元気に酒池肉林していて欲しかったんだけどなぁ~」


 実力は確かだが、国が抱えるには遠慮したい勇者だった。


「元気に生還したけど、あれは放置で良かったわぁ。セーラも敬虔な聖女だったけれど男に狂ってヤンデレたし、集中力にムラのあったヴァーシプも信仰で落ち着いたけど、リンジを止める気はなかったしぃ。あのあたりはリンジの傍で、放って置いても勝手に堕ちていったでしょうねぇ。アイアリスは半分魔族だったけれど、だからこそ国には留まらないしぃ~」


 正確に言えば、一箇所にしか留まらない。

 それが、フィストの傍だ。


(勇者より、聖女より、魔法使いより、裏切り者の魔族より……誰よりもあの討伐隊の中で、精神的な勇者はフィストだった)


 国が一番欲しかったのも、フィストの戦闘力と忠誠だろう。

 彼女が国に忠誠を誓えば、必ずアイアリスが付いてくる。お人好しの彼女ならリンジの事も放っておけない。そしてリンジを気にするなら、他二人も追従する。フィスト一人を確保するだけで、討伐隊の半数以上が力になる。


「それってとっても脅威だわぁ」


 隣国としては、この国がフィストを確保するのだけは避けねばならない。

 だからリルスは、フィストの行方がわかるまで、勇者達と行動を共にしていた。


「まさか出産して隠居暮らしをしていたとは思わなかったけどぉ!」


 本当に驚いた。

 ぶっちゃけ男の気配は感じていたが、あのフィストがそこまで思い切った事をしていたなんて!


「でもそれってこの国に腰を据えるって事じゃなぁい? いざって時は国の戦力よねぇ。それってとっても邪魔くさいわぁ」


 リンジはフィストを欲しがっていたが、フィストがリンジの手を取るはずがない。そんなの、考えればわかる。


「だから、排除する事にしたのよねぇ」


 子供を人質にして隣国へ忠誠を誓わせる事も考えた。しかしフィストは復讐で突き進んだ女だ。奪われる事に敏感な彼女を刺激して、英雄の怒りを買うのは得策ではない。

 だからこの国がフィストと盟約を結ぶ前に、始末してしまいたかった。


「リンジが暴走したときに同士討ちになってくれたら一番良かったけど、フィストってば引きが良いから、旦那も規格外なのねぇ。ヴァーシプの魔法を跳ね返すなんて思わなかったわぁ」


 誘惑して味方にできればフィストに隙ができたかも知れないが、フィストに相応しい誠実な男だった。搦め手で攻めれば隙ができたかもしれないが、そんな暇もなかった。


「魔法を跳ね返す男が傍にいちゃ、魔法も使えないしぃ。あたし一人じゃ荷が重そうねぇ」


 数日監視していたが、お互いがお互いの立ち位置を気にしていた。近日中に任務を遂行するのは無理そうだ。


「一旦帰還して、対策考えた方が得策かしらぁ」

「うんうん、引き際が肝心と言うからのぅ」

「!?」


 独り言への相槌に、リルスはすぐさま銃を構えて振り返った。

 しかし標準を合わせる前に、闇が凝縮してリルスの腕を絡め取り、更に上の枝に括り付けた。身体が引っ張られて、足が宙を蹴る。


「その引き際を見誤ったお前さんは、どうしてくれようかの~」


 樹の下に、闇に浮かぶように白い影が現われる。


「アイアリス……!」


 それは、行方を眩ませていたはずの、アイアリスだった。



魔王討伐のメンバーはセーラ以外はリンジが決めました。

こいつ、アイアリス(魔族のスパイ)とリルス(隣国のスパイ)を引き当てていやがる。

ちなみに他の国のスパイも沢山いましたが、普通にフィストみたいな信念持ちも沢山いました。

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