48 彼女にとっての愛の形
「イヤアアアアアアア――――ッ!!」
ヴァーシプの最大威力で火達磨になったリンジは、消し炭になる前に発狂したヴァーシプの起こした洪水に助けられた。
しかし、全身に負った火傷は治らない。
体中の皮膚を焼かれたリンジが、痛みに悶えながらセーラを呼んだ。
「ぜーラ゛ぁ……だずげ……」
ふらふらと立ち上がったセーラは、ゆっくり倒れるリンジに近付いた。
火傷で面影が消えた、リンジの顔を覗き込む。喉も焼けたのか、漏れる声も普段より濁っていた。
そんな彼を見下ろして、セーラは笑う。
涙を流しながら柔らかく。慈悲を滲ませる聖女の顔で。
「ああ……これなら……」
「わ゛、え゛?」
「勿論お助けしますわ。わたくし、聖女ですもの」
そう言って、火傷で爛れた手を取った。
炎に炙られて溶けた皮膚。その手を強く握り、頬ずりをした。焼けた皮膚がくっついて剥がれる激痛に、リンジから濁った悲鳴が上がった。
「死なせませんわ。勇者様がわたくしを求めるだけ。ゆっくりゆーっくり治して差し上げます。二度と立ち上がれなくても、動けなくても大丈夫です。勇者様のお世話は今までだって、わたくしがしてきましたもの」
生活できないリンジを支えてきたのは、セーラだ。
旅の間も。旅が終わってからも。女性関係の監視を行いながら、リンジの生活を支え続けていた。
「きっとわたくし以外には、務まりませんわ。このように焼け爛れた身体では、きっと誰もが恐れてしまいますもの……」
「あ゛あ゛あ゛……!」
セーラの触れた箇所から、淡い光が漏れる。本当に淡い、小さな光。
「わたくしだけが、この力で勇者様をお助けできる。お守りできる。お側にいられる。あなたにはわたくしだけ。そうですわよね」
「う゛う゛う゛……」
「……ね?」
こっわ。
痛みに悶えるリンジに返事ができない事など分かりきっているのに、返事が来るまで問いかけ続けるセーラを見て、フィストはドン引きしていた。
リンジの救命活動を行うか迷ったが、セーラは宣言通り、リンジを死なせる気はないらしい。淡くも、治療の光が見える。地獄のような痛みは長引くが、命の危険はない。
むしろ、今のセーラを刺激する方が、命の危機。
フィストは一瞬悩んだが、リンジの事はもう、セーラに任せる事にした。
一発殴りたい気持ちもあるが、触りたくない気持ちの方が強い。火傷の痕とかでなく、生理的に。
ちなみにフィストは、発狂して暴走していたヴァーシプを速やかに無力化していた。
自らの魔法が勇者を焼いてしまった。その事実に耐えられず魔力を暴走させ、この一帯を焦土にしそうだったのだ。
その前に速やかに気絶させて、杖を遠ざけておく。これも暴走しがちだった初期の頃に良くしていた対処だ。ついでに、彼女のローブでぐるぐる巻きにしておいた。ロープではない。ローブだ。
危険を遠ざけて、周囲を見渡す。
そこに、リルスの姿はない。
(アイツいつの間にか逃げやがった)
一体いつ離脱したのかわからないが、周辺に気配はない。
突然襲ってくる心配はないと判断して、やっとアスター達に駆け寄った。
アスターは火達磨からヤンデレ節の一部始終を至近距離で目撃してしまい、完全に震えていた。震えていたが、その腕にはしっかりルミネが抱かれている。せめて衝撃映像を見せないよう、胸に顔を押しつけていた。わかる。教育に悪すぎる。
近付いてくるフィストに気付いたアスターが、ほっとした顔をする。
アスターの気の抜けた顔に、フィストは歯を食いしばった。
「フィ」
名前を呼ぼうとしたアスターが固まる。
フィストが、ルミネごとアスターを抱きしめていた。
「フィッ!?」
「戦えねぇ癖に、戻って来てんじゃねぇよ馬鹿野郎」
あまりにも無謀な行動に、本当はぶん殴ってしまいたかったが、フィストがアスターを殴ったら殺してしまう。手加減しても吹っ飛ばす。ルミネを抱いている男にそんな事はできない。
盛大に焦り戸惑ったアスターは、フィストの沈痛な声に冷静になる。
「……ごめん。うっかりしていた」
「命に関わるうっかりしてんじゃねぇ」
「フィストが殺されると思うと、冷静でいられなかったんだ」
アスターの片腕が、フィストの背中に回された。
母親に気付いたルミネが、きゃっきゃと嬉しそうに身体を反転させる。落とさないよう、大人達は身体を寄せ合った。
「あれくらいの拘束、引きちぎれるんだから、お前らは絶対私の前に出るな」
「え……引きちぎれたの……?」
「絶対守ってやるから、絶対後ろにいろ」
びびっているアスターの発言を無視して、男の硬い身体と我が子の柔らかな身体を抱く腕に力を込める。
勿論手加減して、大事な二人を壊さないように。
「私より早く死のうとするな」
――フィストの大事なものは、いつもフィストより先に逝ってしまう。
守りたいと願っても、助けたいと願っても、強靱な身体を手に入れても、大事なものほど指の隙間を零れ落ちていく。
そもそも身体を鍛えた理由は復讐だった。奪う事を前提に鍛えたフィストは、守る動作が不得手だった。
(だから、私より後ろには、絶対敵を行かせないから)
不器用なフィストには、それしかできない。
だから安全な場所にいて欲しい。
心の底から願った。
ルミネは勿論、アスターだって――フィストにとって、先に死んで欲しくない相手だ。
フィストの小さな震えに気付いたアスターは、きゅっと唇を引き結び、震えるフィストの頭に額を押し当てた。大好きな二人に挟まれたルミネは、ずっと嬉しそうに手足をばたつかせている。
すっかり安心した幼子の動作。
高い笑い声が、小さな手足が、愛しさの象徴だ。
アスターは戦えない。
だけどルミネを任せられるのは、アスターしかいない。
「……わかった。ちゃんと、考えて行動する」
「うっかりするなよ」
「それは本当に気を付ける……」
しょんもりしながら頷いたアスターに、フィストはやっと笑えた。
疑似一家の横で地獄絵図が描かれている事など、うっかり忘れて。
ほのぼのの横で地獄が生まれているのです。
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よろしくお願い致しますー!!
あわせて事故チューに短編を載せましたので、そちらもよろしくお願いします。




