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38 魔王とは何か、勇者とは何か


「五智将は魔族を統括する五人の幹部。魔王とは、魔の付く全てに慕われる存在じゃ」


 当時はまだ、ミステリアスな僧侶としてパーティで知識を伝授していたアイアリス。

 魔王を目にして、何故かやる気を出した勇者リンジが「そもそも魔王ってどんな感じ?」と疑問を零したので、それを拾っての事だった。

 彼女曰く、魔王とは人間が想像している王様とは違うらしい。


「魔王は別に、魔物や魔族を統治しとるわけではない。あれらに政治は存在せず、法律もない。あるのは禁忌と、より強い者への憧憬だけじゃ。認識を近付けるなら『象徴』が近いかの」


 魔族はそもそも、群れて何かをする生き物ではない。

 寿命も長く頑丈な為、種を増やすと言う意識も低い。個人が生きながらえる事。より強い存在に近付く事だけを考えて生きている。


「だから、本当は自分より弱い種族に興味ないんじゃ。中には奇特な奴もおるが、弱い種族と交わっても生まれてくる子は魔族ではなく半魔だからの。強さに憧れ弱さに唾を吐く輩じゃから、滅多におらんわ」


 嫌そうに言っていたのは、今思えば経験談だったからだろう。

 強さを求める者達の中で、人の血が混じって純粋な魔族でない存在は、産まれながらに弱い存在という認識らしい。


「魔族の中で、一番強い者が魔王になるのではない。時間をかけて熟成された魔を宿した者が魔王になるのじゃ」

「熟成された魔ってなぁにぃ?」

「魔物に宿っとる瘴気を濁るまで煮込んだ力の塊みたいなものかの。詳しくどういうのかと問われても、流石に儂もわからん」


 幼いながらに知識者の僧侶として旅に参加していたアイアリスは、そう言って話を終わらせた。

 正体を知った今となれば、彼女は詳細を知っていたかもしれない。魔族が明かしたがらない、人に流れては困る情報の一つだったかもしれない。


「とにかく、魔王の強さは他の魔族の比にならぬ強さじゃ。魔族達はその強さに憧れて、魔王に近付く為に力を求め出す。魔物や魔族が活性化するのはそう言う絡繰りじゃ。あの五智将と呼ばれる魔族とて、魔王の配下になる為に大暴れして力を示したはずじゃ」


 幹部となった魔族が何をするのかと言えば、魔王に仇為す者の殲滅だ。

 魔王が誰より強いのはわかっているが、だからといって、その手を煩わせたくない。そんな些事を構うより、自分達を見て欲しい。

 彼らはそんな思考の元、人間を踏み潰し、魔王討伐へ赴く者達を退けているらしい。


「じゃから、わざわざ出てきて儂らに言葉まで掛けた魔王様に対して、彼奴らすごい顔しとったろ。今頃お言葉を賜った儂らに対する嫉妬と下等生物と見下しとる儂らに対する見栄で悶絶しとるはずじゃ。愉快じゃの」

「それって愉快ですか!?」


 アイアリスは楽しげに笑い、ヴァーシプは恐れ戦いた。


「ふーん。そういう設定なんだ。じゃあレベル上げしないと詰むかもね」

「鍛錬ですか? 近場のダンジョンは先程の砂漠ですから、もういけませんが……」

「中ボスとラスボスが顔を出したから、しとかないと。でも編成めんどいから、一週間後に出発って事で、それぞれ鍛えておいて」


 リンジはこうして、不思議な指示を出す事が多い。

 普通に考えて一週間の鍛錬で望むほど強くなれるわけがない。魔物を倒しながら進んだ方が経験になると思うが、態勢を整えるという意味では正解だった。


「アイツを倒せばクリアか。魔王ってだけあって美形だったな。セーラは聖女だけど、ああいう顔にときめいたりする?」

「聖女である事と、顔の好みは別物ですわ。何よりわたくし、一途ですのよ」

「そっか。じゃあ大丈夫かなー」


 リンジが何に納得したのかわからない。


「あたしはぁ、結構好みだったかも~」

「へぇー……だけど、リルスの場合はお断りされそう」

「えー? なにそれぇ~」


 リンジもたれかかったリルスが笑う。それに対するリンジの回答はとても失礼だが、リルスは笑い飛ばしていた。

 リンジの言い分は、相変わらずわからない。彼はいつものだらしない姿勢で、フィストを振り返った。


「フィストはダメだよ」

「ダメって何が」

「魔王に靡いたりしないでね」


 顔を顰めたフィストに、リンジはどこを見ているのかわからない目で、にこりと笑った。


「俺、フィストはちゃんと魔王と戦うって、信じてるから」


 信じるってなんだ。

 そもそもその為の旅だろう。

 この中で一番魔族を恨んでいるのが誰なのか。常に意見がバラバラな仲間達も迷わないくらい、知られているはずなのに。


「魔族は、敵だよな」


 リンジの声が耳の奥に残る。

 気持ちは肯定しているのに。

 リルスとじゃれ合って、セーラに不安な顔をさせて、ヴァーシプにちょっかいを出すリンジの言葉を、素直に飲み込めなかった。


 見ず知らずの人を助けて、誰かの為に泥だらけになって、すっころんでも自力で立ち上がる。勇者みたいな魔王が頭から離れなかった。


 敵だ。間違いない。魔王なら、討伐対象だ。


 それなのに何故。普通に村に出没するんだ。おかしいだろう。何しているんだ――本当に何してるんだお前。


 迷子の猫を探して木から落ちる男が魔王だなんて誰が思う。


 こいつ、その後も普通に出没しやがった。



魔王さーん!?

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― 新着の感想 ―
あーッ泣 どんどん辛くなっちゃうやつーッ!!!!!!! てか今魔族暴れてんの アイアリス違くて 魔王の娘探してるからだったりしない!? 大丈夫!?
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