27 意識しているってバレた後が一番気まずい
「フィストさん、思った以上に幸せそうでよかった!」
「ははっ」
日に焼けた、分厚い身体をした男が屈託なく笑う。
フィストが大変お世話になった村の若夫婦。山中で動けなくなったフィストを発見、保護した男。ウッドの爽やかな笑顔に、フィストは乾いた笑顔を返した。
突撃してきたアイアリスから新情報を得て、改めて計画を話し合った日。その日から、フィストとアスターはイチャイチャラブラブ夫婦計画を実行……できていなかった。
(改めて考えるとなんだぁイチャイチャラブラブ夫婦計画って!!)
別に命名している訳ではないが、アイアリスの発したイチャイチャラブラブ夫婦という単語が頭から離れない。
それもこれも、当たり前のようにしていた行動が、新婚熱烈夫婦に相応しいとか言われてしまったからだ。
おかげさまで羞恥心を思い出したフィストは、自分で始めたにも関わらず抱擁する瞬間、挙動がおかしくなってしまう。
今まで平気だったのに。
抱擁相手が、フィストを『そう言う対象』として見ていると、気付いてしまったから。
照れが出たのがよくなかった。フィストが照れてしまったから、つられてアスターも照れていた。それがどこから来る照れなのか、あの目が合った瞬間に気付いてしまった。
仕方がない。フィストはその熱を、知っていた。
気付いたモノは仕方がない、が。
(――なんかすごい矢印出てないかアイツ!!)
抱擁だけではない。
朝食の時間。洗い物をしている間。ルミネをあやしている時間。洗濯物と格闘している間。気が抜けて遠くを見ているときも。
ふと視線を感じて振り返れば、熱を孕んだ紫色が、フィストをじっと見ていた。
見られているこちらが恥ずかしくなるくらい、熱烈に。
(いつからだ? マジでわかんねぇ。というかそんな暇あったか? お互い毎日が戦争だろ!?)
ルミネというとっても可愛い小さな怪獣がいるので、毎日常に激戦区。
ハイハイでこれなのだ。歩けるようになったらどうなるかが怖い。
このように今後のルミネの事しか考えていなかったので、アスターとの抱擁もルミネの父親という信憑性を上げる為としか考えていなかった。しかしそれは、男女として過剰な接触だったようで。
気付いたときには、盛大に矢印をむけられていた。
(つまり私がやりすぎたのか。そりゃ夫婦らしく見えるようにって始めたけど。夫婦ってそもそも想い合う男女だからな。それらしくしたらそうなっちまったのか? って事はやっぱり私の所為か!?)
悪事を働いたわけではないが、アスターは記憶喪失の寄る辺なき迷子。
そんな彼に名前と住居、仕事を与えて毎日せっせと男女の接触(健全)を繰り返せば、洗脳に近い形で惚れるのもやむなしではなかろうか。
(つまり私がうっかりやっちまったんだな!!)
そして更に、抱擁の挙動でフィストがアスターの気持ちに気付いたと、本人にバレた。
(やっちまったなぁ!!)
フィストは人知れず頭を抱えた。
アスターを笑えないうっかりだ。
しかもお互い、気付いたからといって、行動を改めるのも難しい。
抱擁が男女として思わせぶりな好意なら、改めた方がいい。普通なら。
しかし現在、二人は父親契約中。ヤンデレ回避の為にイチャイチャラブラブ熱烈夫婦を装う必要がある。
つまりアスターが以前言っていたように、抱擁は続行した方がいい。
今後を考えると抱擁しない手はない。わかっているが、お互いを意識してギクシャクしてしまい、果たしてイチャイチャラブラブ熱烈夫婦ができているのか不明だ。
思わせぶりな態度はいけないと思うのに、別の方法を探そうと思っても……抱擁しないのか、とこちらを窺うアスターの不安そうな顔を見ると、自然と腕を広げてしまう。
広げられた腕を見て、ぱっと嬉しそうな表情になるアスターが……大型犬にしか見えず、フィストの庇護欲を刺激して止まない。
(くっそ!! 大人の男の癖に!!)
という事でギクシャクしつつも抱擁は今日も続いている。
そして行ってきますの抱擁を偶然ウッドに見付かったのが、冒頭である。
「いつも頼もしいフィストさんも、旦那さんの前ではやっぱり奥さんの顔だなぁ。長い事会えていなかったから大丈夫か心配だったけど、安心したよ。いやぁ、スートとの新婚生活を思い出すなぁ」
(あれってやっぱり新婚っぽい行動だったのか!)
証人が増えてしまった。フィストは世間とのズレを感じて居たたまれなくなった。
作戦としては正しいのだが、そんな熱量は考えていなかった。
その所為か、とても恥ずかしい。
計画としては見られて全然構わないしむしろ認知して欲しいのに、予想外のイチャイチャラブラブ熱烈夫婦判定にフィストは羞恥心で死にそうだった。
イチャイチャラブラブ熱烈夫婦と判断される抱擁を、しっかりと見られたのが、想像以上に恥ずかしい。
(くっ、いっそ殺せ!)
悔しい。こんなのはじめて。
引きつって笑いながら、フィストは羞恥からの敗北感に打ちひしがれていた。
ぎゅーしている所を見られただけなのに腹を切りそうなフィスト。




