22 協力者と書いて何と読むか
「あ~可愛いのぅ可愛いのぅお目々くりくりで可愛いのぉ~鼻も口もちっこいのにちゃんと人間じゃの~~はわわちったい。ちったい命じゃ。ちったい命、散らせる訳にいかん。守りたい、この命」
「その命、お前のやらかしで脅かされているんだが?」
「ごめんちゃい」
朝早くから突撃してきた、討伐メンバーのアイアリス。彼女はベビーベッドに貼り付いて相好を崩していた。デロデロだ。
フィストの指摘にしょんぼりした顔でベビーベッドから離れる。テーブル席に着いたアイアリスの前に、アスターが恐る恐るお茶を置いた。途端、青い瞳にギラッと睨まれて竦み上がる。蛇に睨まれたカエルより早く、フィストの隣へ避難した。
朝一で吹っ飛ばされて怒鳴られたアスターは、すっかりアイアリスに対して萎縮してしまっていた。相手は見た目十歳の美少女だというのに、まるで小型犬に怯える大型犬のようだ。
噛みつく勢いで詰め寄ってくるアイアリスに待ったをかけたのはフィストだった。
朝食前だから腹拵えをさせろ、と。
「アスターがせっかく作ってくれたのに冷めるだろ」
「フィスト……!」
「なんじゃこれ。ラブコメはじまっとる?」
何かが逆な気はするが、違和感はなかった。
朝はしっかり食べないと一日保たないと知っているフィストは朝食を優先し、アイアリスはこの騒動でも起きなかったルミネを見守りに行った。置いてけぼりにされたアスターだったが、ビクビクしながらも自分で作った朝食を食べた。
(え、良いのかこれ……?)
困惑するアスターを他所に朝食後、洗い物も済ませ、現在。
「で、なんじゃこの男。どこの馬の骨じゃ」
改めて威嚇をはじめるアイアリス。
アスターが首をすぼめて身を縮め、ひっくり返りそうになるのを隣に座っていたフィストが支えた。
「こいつはアスター。私の協力者でルミネの父親役だ」
「協力者じゃと!? 儂というものがありながら!?」
「突っ込むところそこでいいのか!?」
父親ではなく、協力者に反応するアイアリス。
「なんで浮気を見付けた彼女みたいになっているんだこの人!」
「マジやめろ。ヤンデレを思い出す」
リンジの浮気が発覚するたびに発生したお約束と同じ言動をするアイアリスに、フィストは軽くチョップを落とした。フィスト的には軽い打撃だが、格闘家の軽い打撃は一般人にとって重い一撃。
アイアリスはテーブルに沈んだ。
「とにかく、アスターはヤンデレ対策だ。事情も説明しているし、こっちは問題ない。そっちは問題ありみたいだけど、どうした」
「ぐぬぬ……もっと根掘り葉掘り聞きたい所じゃが、優先はこちらか。後回しじゃ……お察しの通り、儂が単独行動をとっとるのは問題が起きたからじゃ」
そう、アイアリスは一人だった。
仲間にとっ捕まって尋問を受けたと手紙で報せたくらいだ。フィストへの手がかりとしてその後も拘束されると予想していたのに、あっさり一人でここまで来た。
彼らにとってアイアリスはフィストの味方なので、彼女を自由にすればフィストを手助けしに行くとわかりきっている。フィストを探しているなら、アイアリスは確保しておきたい。アイアリスが素直に案内するかは置いておくとして、単独行動はできないはずだ。
しかしアイアリスは一人で現われた。
(仲間に)捕まっていたはずなのに、あまりにもあっさり。
「あいつら言動はともかく、実力はあるから一人じゃ逃げられないだろ。何があった?」
「ぐふふ。儂がお前さんをヤンデレに売り渡したかもしれんぞ?」
「ねぇな。で、なにがあった?」
「うーん、惚れ直す」
「は?」
フィストは不思議そうだが、アイアリスは感動していた。一切の迷いなく裏切り者と名高いアイアリスへ「裏切りはない」と断じるフィスト。真っ直ぐな信頼に、思わず足をばたつかせた。
横で聞いていたアスターも何故か胸を抑えている。
よくわからないなりに時間が必要だと察したフィストはゆっくりお茶を飲んだ。アイアリスも落ち着く為にお茶を飲んだ。流れでお茶を飲んだアスターは、一人だけ熱湯で舌を火傷した。
「うん。実は、魔族の残党が暴れ出しての」
「被害は?」
「王都の西にあるでかめの街が半壊じゃ。緊急事態で勇者達が出向いた。儂はそのどさくさでこう、にゅるっとな」
どさくさに紛れて逃げだしたらしい。
フィストは苦い顔をした。
そのまま自然な動作で、火傷に苦しむアスターに水を持って来てやっている。アスター慎重に受け取り、舌を冷やしはじめた。
無言で当たり前のように進むやりとりに、アイアリスはこれが日常だと察した。
「あいつらだけで大丈夫か?」
「実力だけなら問題なかろ。実力だけなら」
実力以外が大変不安なのだが、だからといってフィストが向かうわけにも行かない。彼らの実力を信じて街がこれ以上襲われないように願うしかなかった。
「少なくなっているし弱くなっているけど、この村付近にも魔物がまだうろついている……。魔王が倒されて即大人しくなる訳じゃねぇって聞いてはいたが、まだ暴れる魔族もいるのか。あいつら、魔物と違って知性があるだろ。信仰する魔王様がいなくなればやる気無くして大人しくなるんじゃなかったのか」
魔に連なるモノを統べるのが魔王だが、魔族や魔物と連動している訳ではない。
魔族は、魔の力を持つ人族。魔王の為に行動するのが魔族だが、魔王討伐に成功すると表舞台からすっと身を引く特徴がある。
理由はわからないが、次の魔王を育てているのではないか、というのが通説だ。魔王が選ばれるのは血筋ではなく、何かしらの条件が一致した魔族が魔王になると言われている。
このあたりは、研究されているが事実はわからない。
何せ、魔族の領分だ。人側に協力的な魔族がいないから、その生態は未だ謎に包まれている。
「歴史を見ればそうなのじゃが、今回は別の問題があっての」
「別問題? 魔王以外に?」
何かあっただろうかと、フィストは首を傾げた。
「今までは魔王と人が戦って、戦って、なんとか魔王を倒して、魔族が身を引いて……と繰り返しておったじゃろ? 人と魔族は常に睨み合う仲だったわけじゃが。今回は違う」
「……ん?」
フィストの眉間に、ぎゅっと皺が寄った。
アイアリスはキュートに笑って握りこぶしを頬に当てた。
「今回は半分魔族のアイアリスちゃんが人間側に味方したからの! 魔族の情報垂れ流される心配した残党が、儂を狙っとるみたいなんじゃー!」
きゃはっ!
かわいこぶったアイアリスと、起きたらしいルミネの笑い声が重なる。
今度はフィストがテーブルに突っ伏した。
「狙われているの、お前かよ……!」
奇しくもこの場に、勇者パーティに狙われる英雄と同族に狙われる英雄が揃った。
誰が的を集めろと言った。
「待て待て誤解するでない」
可愛いポーズのまま、アイアリスは突っ伏したフィストをつついた。
「逃げ込んで来たわけでないぞ。逃げてきたのでなく、一緒に逃げに来たのじゃ」
「えっ」
衝撃の言葉に思わず声を上げたのは、アスターだった。
アイアリスにこの泥棒猫! って言わせようかとても迷った。
言ったら言ったで、フィストには「なに言ってんだこいつ?」という目で見られる。




