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12 仲間による仲間の行方を探る仲間への尋問


 王都にある高級な宿屋。

 貴族であってもそう簡単には泊まれない。国賓歓待に使われる高級な宿屋に、魔王討伐を果たした英雄達は宿泊していた。

 国を代表する高品質な調度品に囲まれた英雄達は、帰還のパレードや祝賀会。王族達との歓談を終えて、疲れ切った身体を癒し、英雄として、国の象徴として、それぞれの分野での活躍を期待されている。


 期待される英雄達。

 その女達は、仲間の賢者をロープでぐるぐる巻きに拘束していた。


 豪華な装飾の施された、やけに脚の長い椅子に拘束されたのは真っ白い少女。儚げな顔立ちに豪奢な縦ロールの美少女は、拗ねたように桃色の唇を尖らせて自由な足を揺らしていた。椅子の脚が長すぎて、少女の足が床から浮いている。


「問答無用で美少女をぐるぐる巻きにするとは、聖女様も良い趣味しとるのー」

「お褒めに与り光栄ですわ」


 拗ねる美少女……アイアリスの正面には、これまた豪奢なテーブルを挟んで三人の女がいた。

 ゆったりとした椅子に腰掛け、微笑みすら浮かべているのは淡い金髪に新緑の目をした聖女。汚れのない白の法衣はアイアリスとよく似た服装だが、聖女である事を証明する虹色に輝く宝石のブローチを身につけている。

 聖女セーラは、旅に出る前は緊張から頼りない部分があったが、旅を経てしっとりと落ち着きのある女性へと成長していた。


「逃走を企てる容疑者を野放しにするほど、わたくし甘くはありませんわ」


 淑やかな姿勢だが、冷徹な色をした緑の目と手にした包丁がギラッと輝く。

 聖女の背後では聖なる光ではなく、闇落ちした怨念がドロドロ渦巻いていた。


「フィストさんの行方を知っていますよね? アイアリス」

「な~んのことかのぉ?」


 下手くそな口笛を吹きながら、足を揺らし続けるアイアリス。

 その姿は外見の幼さもあって、大人を舐め腐るクソガキにしか見えなかった。儚さなどない。


「フィストさんの姿が見えず不思議がるわたくしたちに、救援を求められて先に進んだと虚偽を伝えておいて、知らぬ存ぜぬは通用しませんよ」

「通じないってわかっていてその態度なんだから、本当にアイアリスは可愛いわねぇ」


 穏やかに剣呑なセーラに続き、椅子ではなく豪奢なテーブルに腰掛け、肩越しに振り返る女が楽しげな声を出す。


 ふわふわした赤毛を耳の下でサイドテールにした美女は、肉欲的な身体をしなやかに捻り蠱惑的に微笑んでいた。垂れた青い目が、愉快とばかりにアイアリスを見ている。

 ガンマンのリルスは、自分の毛先をくるくる弄びながら肩を揺らした。


「おかしいと思ったのよねぇ。あの子が勇者様を放って単独行動なんて。救援で先行したって言われて納得しちゃったけれど、冷静になって考えれば、あの子なら全員を連れていくもの」

「ふぃ、フィストさんは確かに、お一人でもお強いですけど……わわ、私達の事も、頼りにしてくれていました……っ、救援が必要というのなら、アイアリスさんか聖女様をお連れしたはず、です!」

「んー、流石じゃ信頼が厚い」

「フィストさんですからね」


 座っている女二人の後ろに立つのは、おかっぱ頭の魔法使い。背が高くローブを羽織っているが、猫背と吃音が癖になっていた。小刻みに青い髪を揺らしながら、小さな緑の目をキョロキョロさせている。

 魔法使いのヴァーシプは、アイアリスを拘束する二人に戸惑いながらも止める事はせず、おどおどと身体を揺らし続けていた。旅に出て実力が急成長したというのに、挙動不審な態度はあまり変わらない。


 強くなれたのは勇者のおかげと思っている彼女は、勇者がいればただの信者だが勇者がいなければ大人しい女だ。女として勇者を慕っているわけでもないので、聖女のように嫉妬して回る事もない。

 なので、調停役になっていたフィストには大幅の信頼を寄せていた。

 フィストも勇者以外の事なら、ヴァーシプを頼っていた。勿論勇者に関する事は全部セーラに任せた。そうしないと厄介な事になると、誰もがわかっていたので。


 勇者を中心に愛憎渦巻く人間関係を築き上げていたが、フィストがギリギリ崖っぷちで踏ん張り続けていた事は、皆分かっていた。

 人間性はともかく、実力を信頼されている事も、わかっていた。


 だから彼らは、先行したフィストの行動に疑問を抱いていた。単独行動がなかったわけではないが、救援を受けて一人先行する考えなしではないのに……と。

 それでもアイアリスの言葉に納得したのは、アイアリスがフィストの不利益になる事をしないとわかっていたからだ。


 アイアリスは裏切り者だが、フィストを裏切る事はない。フィスト本人はわかっていないが、周りがその重さをしっかり理解していた。


 だから何か事情があって先に進んだのだと、彼らは考えた。

 しかし、先へ進んでもフィストとは合流できず、似たような内容ではぐらかされ続け……とうとう、彼らは王都まで辿り着いた。

 その王都にも、フィストの姿はなかった。


 まさか追い越したのかと、引き返そうとした彼らを止めたのは、王城に届いた手紙。

 それはフィスト本人が書いた、登城できぬ事を詫びる手紙だった。

 内容はやむを得ぬ事情から登城できない事。魔王討伐で一人一人が得るはずだった褒賞は、この戦いで被災した者達への復興支援に充てて欲しい事。姿を見せる事はできないが、平和な世の為に精進を続けると締めくくられた手紙だった。


 ――かつて仲間達で、魔王を倒したら何をするか、と雑談した事がある。


 復讐の為に戦っていたフィストに帰る場所はない。だから得られる褒賞は全て、被災した者達への復興支援に充てると答えていた。仲間達はその雑談を覚えていたので、本人からの手紙だとわかった。

 わかったが、おかしいのだ。


「どうしてわたくし達に何も言わず、姿を消してしまわれたのでしょう……?」


 叱責を繰り返しながら誰一人見捨てずに、脆く崩れる人間関係を必死に調停していたフィストが。

 アイアリスを使って虚偽の報告をしてまで。

 仲間の前から立ち去った、その真意とは?


「ふぃす、フィストさんは、わわ、私達の事が、きぃ、嫌いになってぇ、しまったのでしょうかぁ……!」

「あらぁ、うふふあり得ないわ。救いようのない仲間(ハーレムパーティ)を見捨てずにやりくりしていた格闘家様よ? お人好しでお優しいあの子がアタシ達を嫌うわけがないじゃない」

「んー、自己肯定感が高い」


 信仰で目が曇っている半泣きのヴァーシプはともかく、最低最悪な人間関係を自覚して矯正しないリルスは質が悪い。


 自覚しながらも、自分から勇者を奪おうとする全てが悪いと考えるヤンデレ聖女は、淑やかに微笑みながらアイアリスを真っ暗な目で見詰めていた。


「きっとわたくしたちに後ろめたいことがあるのでしょう。事情を説明してください、アイアリス」

「えぇー? なーんもわからん」


 凄味を増す聖女の笑顔に、アイアリスはなーんもわからんという顔で対抗した。


 なーんもわからん。

 知能が死んだ顔だった。



儚げ美少女がしていい顔ではない。

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