1 突然の告知
シクベ企画、二作品目です。
連載頑張ります!!
「嘘じゃろお前さん……妊娠しとったんか」
「嘘だろマジかよ」
フィストが妊娠を自覚したのは、魔王討伐を果たしてから三日後の事だった。
故郷を滅ぼされた恨みから、復讐を誓って日々修行に明け暮れたフィスト。武器を扱うのは得意でなかったが、彼女は幸いな事に格闘技の才能があった。だからいつか来る好機を見逃さぬよう、我が身を鋼に鍛え上げた。
元々は柔らかかった赤茶色の髪が傷んでゴワゴワになっても。白かった肌が日に焼けて傷だらけになっても。意志の強い琥珀色の瞳を燃やして鍛錬に日々を費やした。
そんな彼女に訪れた好機。
国が勇者召喚に成功し、そのパーティメンバーを募っている話を耳にしたのだ。
いよいよ国が動き出した情報を得て向かった王城。その場で勇者自らに選ばれて討伐メンバーとなったフィストは、故郷の人々の仇を討つ為に邁進し続けた。その結果、彼らは無事に魔王討伐を成し遂げた。
立ち塞がる魔族を返り討ちにし、魔王討伐を成功させた一行は、褒賞を受け取る為に王都へと帰還する最中だった。
その道中、気分が優れない自覚はあった。しかし目的を遂げて、気が抜けたのだと思っていた。
それがどうやら思い違いだったと知ったのは、仲間の僧侶……に扮した元魔王軍諜報部の魔族。少女の姿をした老婆、アイアリスから診察を受けた時だった。
情報量が多いが、それがアイアリスだ。
白い法衣を身に纏った、白い髪に白い肌の少女。雪に溶けて消えてしまいそうな程に可憐な少女は、帽子の隙間から豪奢な縦ロールを胸に垂らしている。魔力を通してフィストの身体を診察していた彼女は、可憐な美少女の顔で人にお見せできないくらい青い目を見開いていた。
「マジじゃよ。うわ、マジじゃ……まっ、え? 待って待っておかしい十ヶ月じゃ。妊娠十ヶ月目じゃぞこの成長具合。お前さんこれ臨月じゃ!」
「マジかよ嘘だろどういう事だよ腹出てねぇぞ?? 誤診か?」
「わしが誤診などするものか! してみたいわ! 初か? 初の誤診か? いや何回診ても十ヶ月じゃ! どういう事じゃお前さんこれどういう事じゃ??」
白くて小さい手を開いては閉じるアイアリス。彼女は目を剥いてひっくり返りそうになりながら、思い至った結果に唇を震わせた。
「もしやお前さん……腹筋が仕事をしすぎて、妊娠しても腹が出とらんのでは……!」
「筋肉ってすげぇ」
現実が受け入れられなくて、随分と知能の下がった返答をしてしまった。
フィストは呆然としたまま己の腹に触れるが、慣れ親しんだ筋肉の感触しか感じない。この下に、新たな命が宿っているなど信じられなかった。
一通り大騒ぎして落ち着いたらしいアイアリスは頭を抱えた。
「お前さん……妊婦のくせに魔王と死闘を繰り広げたんか……」
「……腹殴られたり、壁に打ち付けられたりしたなぁ……」
「この母体強すぎじゃろ。最強の妊婦じゃ」
「いやでも、」
咄嗟に否定しようとしたが、アイアリスが診断を間違えるわけがない。
否定しようとしてできず、フィストは開いた口を閉じた。なんと言ったらいいのかわからなかった。
言葉もないフィストと違い、アイアリスには言いたいことも聞きたいことも多すぎた。垂れ下がった縦ロールを弄りながら、ジト目でフィストを見上げる。
「で、誰の子じゃ。勇者か?」
「いや、あのハーレム包囲網とヤンデレをくぐり抜けて関係持てると思うか?」
「無理じゃの」
魔王討伐のメンバーとして選ばれた面々は頼りになる仲間だったが、人間関係はなかなかに破綻していた。
まず勇者。
彼は魔王に対抗できる存在が見付からなかったので、異世界から召喚された異世界人だ。異世界人なのだが……やけに受け入れるのが早く、自ら討伐メンバーを選抜した。フィストもその一人だ。
メンバーに選ばれ、仇を討つ手伝いをして貰った恩はあるが、フィストは正直この勇者をどう扱って良いのか今でもわからない。
彼の名前は松居倫司。この世界にあわせれば、リンジ・マツイ。
黒髪に黒い目の、象牙色の肌をした少年だ。フィストより年下の十八歳。ダイガクセイだといっていた。ダイガクセイとは学生という意味らしい。これまで、戦いの経験は全く無いという。
そんな彼が選んだメンバーは、格闘家のフィスト。僧侶のアイアリス。魔法使いのヴァーシプ。ガンマンのリルス。そして、聖女のセーラ。
全員女だった。
正直、下心があったのではと疑いたくなるくらい、美しい女ばかりだった。
そして実際、下心はあったのだろう。
勇者リンジは強かったが、同じくらい女性に対する関心も強かった。
そりゃもう、人間関係が破綻するほどに。
鍛えられた腹筋で妊娠に気付かない。実例があるそうです。
実例が……あるそうです……!
そんな格闘家フィストのシークレットベビー物語始まります。
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ちなみにシクベ企画第一弾はこちら
短編
「選べないので、逃げました」
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