第45話 「王者の反撃」
スコア、1対0。
僕たちの、長い長い決勝戦が、今、始まった。
桜井の答えがもたらした興奮は、会場を熱狂の渦に巻き込んでいた。
部室のモニター越しに見ていた僕たちも、その興奮に包まれていた。
「す、すげえよ桜井!」
山田君が、僕の肩をバシバシ叩く。高橋さんも、佐藤君も、満面の笑みで僕を見ている。
しかし、ステージ上の修明学院は、まるで動揺を見せていなかった。
一条蓮は、ただ、静かに目を閉じ、次の「データ」を分析しているかのように見えた。
その、あまりにも冷静な姿に、僕たちの心に、わずかな不安がよぎる。
やがて、第二ラウンドのお題が、スクリーンに表示された。
お題:『この「おもてなし」は、ちょっとやりすぎ!なぜ?』
早押しボタンのランプが、一斉に点灯する。
先ほどの一本で勢いづいた山田君が、迷わずボタンを押した。
「はいっ!」
「お風呂に入ったら、お湯の中に、金の延べ棒が浮いてた!」
山田君らしい、豪快で、分かりやすいボケに、会場から笑いが起こる。
しかし、審査員の表情は硬い。スクリーンに表示された得点は――【4点】。
文雀師匠が「面白い」と2点入れたが、星野さんとucoさんは、少し表情が硬い。一本には、ほど遠い。
次にボタンを押したのは、修明学院の絶対的エース、一条蓮だった。
彼は、葉月高校の動揺を見透かすかのように、静かに、しかし、圧倒的な説得力を持って答える。
「宿の温泉に入ろうとしたら、入り口に、過去10年間の入浴客の『全裸の満足度データ』が、グラフで貼ってあった」
会場が、一瞬の静寂の後、どよめきと、困惑の笑いに包まれた。
これは、一条の「データ大喜利」が到達した、究極の「やりすぎ」だった。
「データ」が人間性を完全に凌駕し、常識を破壊する。
審査員席の、星野さんが「それはダメだろ!」と、ツッコミながら爆笑し、ucoさんも目尻に涙を浮かべている。そして、文雀師匠も、珍しく吹き出しながら、ボタンを押した。
スクリーンに、表示された得点は――
【9点】
満票。文句なしの、一本だった。
「い、一本出ましたーっ!第二ラウンド、勝者、私立修明学院、一条蓮!」
司会者の絶叫と、割れんばかりの拍手。
会場は、王者の完璧な反撃に、どよめきと興奮に包まれる。
スコア、1対1。
僕たちは、一条蓮の、あまりにも完璧な「データ大喜利」の前に、ただ、呆然と立ち尽くす。
(これが、王者の…本気…!)
そして、お題は、残り回答権が二つ残っているものの、一本が出たため、次のものへと変更される。
僕たちの長い長い決勝戦は、まだ始まったばかりだ。




