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第43話 「決戦の舞台」

決戦当日の朝。

僕たち五人は、いつもの部室ではなく、市立図書館の前に集合していた。

今日の決戦の舞台は、この地下に併設された、三百人収容の文化ホール。


「うわ…なんか、いつもと全然空気違うな…」


山田君が、緊張した面持ちで呟く。

僕も、この場所には、特別な思いがあった。数ヶ月前、僕が一人で、誰にも見せることのない大喜利の特訓をしていた、あの図書館。そこで、高橋さんと出会ったことが、全ての始まりだった。

あの時の僕が、今、この場所で、決勝戦を戦おうとしている。なんだか、不思議な気分だった。


図書館の入り口には、大きなポスターが貼られていた。

そこには、デカデカと**『M-1グランプリ20XX 一次予選会場』の文字。その下には、審査員を務めるプロの芸人たちの顔写真と、『ネタ見せ開催!』**という告知。

しかし、ポスターの右下。隅の方に、小さく、本当に申し訳なさそうに、こう書かれている。


『※当日、M-1予選終了後、審査員によるネタ見せの前座として、『第一回 大喜利甲子園 愛知県予選決勝』が行われます。』


僕たちは、その小さすぎる文字を前に、思わず顔を見合わせた。

つまり、僕たちの決勝戦は、M-1予選とプロのネタ見せの間に挟まれた、文字通りの「前座」。


僕たちが、三百人の観客の前で大喜利を披露できるのは、M-1予選を観に来た、本物のお笑いファンが、休憩がてら、プロのネタ見せが始まるまでの「繋ぎ」として、仕方なく見ている、ということだ。


「…なるほど。これが、現実ってやつか」


神田部長が、苦笑いを浮かべた。


「客席が満員なのも、M-1予選と、プロのネタ目当てってことっすね…」


山田君が、少しだけ肩を落とす。

関係者用の通用口から、僕たちは、薄暗い舞台裏へと足を踏み入れた。

ひんやりとした空気。かすかに香る、古い木の匂い。そして、ドアの向こうからは、M-1予選を終えたばかりの、熱狂的なざわめきが、地響きのように伝わってくる。


「…おい、やべえぞ。本当に満席だ…」


山田君が、そっと舞台袖のカーテンの隙間から客席を覗き込み、小さな悲鳴を上げた。


修明学院のメンバーも、反対側の舞台袖で、そのざわめきを静かに聞いていた。一条蓮は、腕を組み、静かに目を閉じている。

やがて、会場の照明が落ち、スポットライトが、ステージ中央を照らし出す。


司会進行を務める、地元のタレントらしき女性が、マイクの前に立った。

「皆様、M-1グランプリ一次予選、大変お疲れ様でした!そして、多くのご来場、誠にありがとうございます!」

割れんばかりの拍手と歓声。M-1予選を終えたばかりの、興奮と熱気が会場を包んでいる。


「――それでは、大変お待たせいたしました!本日のイベントは、まだまだ続きます!この後、審査員を務めますプロの芸人たちによるネタ見せがございますが、その前に、少しだけお時間を頂戴し、『第一回 大喜利甲子園』、愛知県予選決勝戦を開始いたします!」


再び、大きな拍手。しかし、その中には、M-1予選の興奮とは異なる、少しだけ「?」という戸惑いの声や、次のプロのネタを楽しみにするような期待感が混じっているように聞こえた。


司会者が、改めてマイクを握り直した。


「本日の審査員は、この後、ネタ見せも行ってくださいます!ベテラン落語家、桂文雀師匠!そして、人気コンビ『アストロノーツ』の星野さん!そして、若者に絶大な支持を得るコント師、ucoさんです!」


会場から、割れんばかりの大きな拍手が起こる。


「それでは、決勝戦出場チームの入場です!まずは、青コーナー!今年のノーシードから、ここまで駆け上がってきたダークホース!名城葉月高等学校!」


僕たちは、ゆっくりとステージへ向かう。


「そして、赤コーナー!去年の覇者であり、圧倒的な強さでここまで勝ち進んできました!私立修明学院!」


一条たちが、静かにステージへと上がっていく。

神田部長が、僕たちの背中を、一人ずつ、力強く叩いた。


「行くぞ、お前ら」


ステージに上がる、直前。

部長は、僕たちにだけ聞こえる声で、こう言った。


「いいか。客の顔を見るな。一条の顔も見るな。――ただ、隣にいる、仲間の顔だけを見てやれ。最高のセッションを、始めようぜ」


その言葉に、僕の心から、不思議と、恐怖が消えていた。

僕たちは、頷き合うと、光の中へと、足を踏み出した。

三百人の視線が、僕たち五人に突き刺さる。


ステージ中央の巨大なスクリーンに、記念すべき決勝戦の、最初のお題が、映し出された。



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