第41話 「決勝への切符」
聖フローラ女学院に勝利した、あの日の放課後。 僕たちの雄叫びが響き渡った部室は、その後、山田君が買ってきたジュースとお菓子で、ささやかな祝勝会場となっていた。
「いやー、マジで勝てるとは思わなかったっす!」
「高橋さんの最後の答え、マジで神でした!」
「いや、あんたの『抱擁』も、大概バカで最高だったわよ」
山田君と高橋さんが、じゃれ合うように互いを称え合う。佐藤君も、少しだけ嬉しそうに、ポテトチップスを頬張っていた。 僕も、その光景を、心の底から「楽しい」と思っていた。 試合には勝った。
でも、それ以上に、この仲間たちと、この時間を共有できていることが、何よりも嬉しかった。
そんな和やかな空気を切り裂くように、神田部長が、ノートパソコンの画面を指差した。 「おい、お前ら。浮かれてる場合じゃねえぞ。準決勝は、明日だ」
僕たち四人は、弾かれたように画面に顔を寄せた。 トーナメント表の、僕たちの山の、すぐ隣。 そこに書かれていたのは、僕たちが知る中で、最も大喜利からかけ離れた名前の高校だった。
「愛知 武蔵第一高等学校」
剣道や柔道の全国大会常連校として、その名を轟かせる、県内屈指の男子校。 校則は、丸刈り。挨拶は、押忍。 神田部長が言うには、彼らの大喜利は「斬り合い」。一切ボケず、お題の本質を、日本刀で斬りつけるような、鋭利な一言だけを叩きつけてくるスタイルらしい。
***
そして、翌日。準決勝が始まった。 武蔵第一の「斬る大喜利」は、噂通りだった。 彼らは、僕たちの答えに一切笑わない。ただ、静かに、そして的確に、お題の本質を射抜く答えだけを、淡々と繰り出してくる。
第一ラウンド、第二ラウンドと、僕たちは、その独特の空気感に完全に呑まれ、あっという間に2ポイントを先取された。王手をかけられてしまった。
「…まずいな。奴らの『型』に、ハメられている」 インターバル中、神田部長が、悔しそうに呟いた。
その時、今まで黙って相手の答えを分析していた佐藤君が、静かに口を開いた。 「…いや。あの『型』には、弱点がある」 彼は、落語の理論を持ち出して、彼らの答えの、一見完璧に見える構成の、ほんのわずかな「矛盾」を指摘した。
その分析を元に、第三ラウンド、高橋さんが動いた。 彼女は、佐藤君が見つけた矛盾を、的確な皮肉で突き、見事な一本をもぎ取った。
第四ラウンド。相手の動揺を見逃さなかったのは、山田君だった。 彼は、理論や型を一切無視した、彼の持ち味である、ただただバカで、真っ直ぐな答えを全力でぶつけた。その勢いが、武士たちの鉄壁のポーカーフェイスを、ついに崩した。スコアは、2対2の同点。
そして、運命の最終ラウンド。 アンカーを任された僕は、彼らの「道」に、最大限のリスペクトを込めて、僕の「発見」をぶつけた。 それは、彼らのストイックさの中に隠された、ほんの少しの「人間臭さ」を発見する答えだった。 結果は、満票での勝利。
スコア、3対2。僕たちは、またしても、奇跡的な逆転勝利を収めた。
***
試合後、僕たちは、興奮冷めやらぬまま、トーナメント表を更新した。 僕たちの名前が、ついに、決勝の欄に進んでいる。 そして、その、最後の対戦相手の欄。 反対側の山から、圧倒的な強さで勝ち上がってきた、その高校の名前を、僕たちは、静かに見つめていた。
私立 修明学院
ついに、たどり着いた。 僕たちの、本当の「リベンジ」の舞台に。




